テルマエ カラカラ! (Thermae Caracalla) 2011年欧州旅行記-15

ローマ歴史地区は、それほど大きな面積ではないと思う。時間が許せば丹念に歩いて見物すれば、きっとおもしろいものが見つかるにちがいない。だけど、ローマの弱点は遺跡・寺院の入場締め切り時間が早いことだ。まだ太陽は高い位置にあるのに。

僕らはフォロ・ロマーノを出たあと、"真実の口"のあるサンタ・マリア・イン・コスメディン教会(Santa Maria in Cosmedin)に向かう予定だった。地図上では地続きで歩いて行ける距離であったから。ところが、まんまと方向感覚を失った僕らが出た先は、ヴェネッツィア広場だった。思いがけずヴェネツィア宮と、そしてヴィットーリオ・エマヌエーレ2世記念堂を仰ぎ見ることになった。


これはこれで悪くはなかったが……もう、"真実の口"を見に行く時間はなかった。太陽はだいぶ傾き、周囲の壁をオレンジ色に染め上げ始めてはいたが、観光の時間はまだあった。よし……彼氏が行きたがっていたカラカラ浴場に行こう!と提案した。しかし最寄りの地下鉄駅は、コロッセオまで歩かなければならない。僕らはもう、歩き疲れていた。しかも最終入場時間まで30分ほどしかなかった。

時間を買おう!タクシー!!

流しのタクシーを捕まえた。さあ、カラカラ浴場へ行ってくれとどうやって伝えようか。そんな躊躇している僕の隣で、彼氏がイタリア語で「カラカラ……テルマエ・カラカラ!!」と言うと、タクシーは猛スピードで石畳の上を走り出す。途中、ブレーキを踏むたびにタイヤが石畳で滑っている感じがあって、少し怖かった。タクシーはコロッセオの脇を抜け、坂道を登り、少し道なりに走って左手に曲がる。地図の上でも最短距離だった。おかげで、最終入場の20分ちょっと前に、僕らはカラカラ浴場に到着した。


巨大な壁が残る古代の浴場跡は、観光客の数も少なく、ひっそりしていた。むしろ日が暮れた頃に始まるのであろう、準備中のローマ名物野外オペラ会場の方が活気があったくらいだった。
タクシーを急がせたおかげで、むしろ時間が余ってしまった。人気のないカラカラ浴場で、僕らはベンチに腰掛けて、少しだけモザイクが残っている巨大なドーム跡の壁を眺めていた。人の少なさが、さみしさを感じさせる。でも、なんとか神殿よりも、庶民がくつろいでいた浴場跡の方が古代を感じる。
マンガ"テルマエ・ロマエ"じゃないけれど、あれだけ清潔を心がけていたローマの文化が廃れ、風呂に入らない時代が長く続いた理由の一つが、他人に肌を曝すことを禁忌としたキリスト教の影響だという。もったいない、ヨーロッパは清潔文化を一度捨てたわけだ。


浴場遺跡の壁に写るネコのような影は、ローマの松だ。
日本では見かけない、不思議な形に異国を感じる。

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