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BLに国情を感じるとき Hyperventilation

海外製のBLはチェックしていないので知らなかったが、とある界隈で話題になっているBLアニメを見てみた。

Hyperventilation (過呼吸)


主人公二人の過去エピソードの中で、気胸のウケをからかう(?)シーンがある。
腹チラしてるのはタチ。





あー、なるほど。
現代日本BLじゃ絶対に出てこないセリフだな。

僕は内外のコリアンシンパサイザーのごり押し情緒はホント嫌なんだが、こういう日常会話中ににじみ出る国情や、若者の屈折は、なんか自然に受け入れたくなるものはある。

出典:
Hyperventilation

8月が終わってしまう。。。。

なんか、本当に忙しくて。
夏があっという間に終わってしまった。

8月は九州出張と新潟二往復があって、週末の休みがない日々はクタクタになったね。
やっと帰宅してもベッドで気を失ってばかり。
ファイアーエムブレム風花雪月も第一部9月から先に進んでない。

今日、ひさしぶりにコメダ珈琲店に来て、Mac立ち上げてコードを書いていたら、なんか元気が出てきた。
物作り(?)ってやっぱり楽しいなあ。

で、最近はご無沙汰なBLマンガ新作を眺めてみると、なかなかよさげなものが。


サンプル……ん?!
なんですか、この巨人は?!


逆に読んでみたくなったぞっと。

きのう何食べた 最終回

別府に滞在していて、まだ最終回見れていません。
だってテレビもない部屋なんで。

「何言ってんだ。死ぬなんてそんな、そんなこと言うもんじゃない。食い物、油と糖分控えてさ、薄味にして腹八分目で長生きしような、俺たち」

名ゼリフきたー!!! らしいですね。

ウチの場合、

 「何言ってんだ。死ぬなんてそんな、そんなこと言うもんじゃない。食い物、油と糖分控えてさ、薄味にして腹八分目で、酒も減らして長生きしような、俺たち」

「最後のヤツは抜きで」(真顔)

とジルベール顔で彼氏に言われそうな気がする。
彼氏は可愛くて仕方ないんです。

腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。 第7話

最終回を前にして、NHKとして見せ場を作ったつもりの第7話。

見せてもらおうか、NHKの人権意識とやらを!


…………30分後




ダメだ……こいつら全然わかってねー(頭痛いわー)

と僕は頭を抱えていたわけです。
日曜日の朝から。

全般の雑感……古臭い、もうなんてか、演出、ストーリー運び、すべてが古い。
体育館の演壇で独白、独白をやめさせようとする教師と、それに飛びかかる生徒達。
1980年代の金八先生のセンスをいまだに演るのかと……。
頭いてぇ……。

なんかね、第7話はいろんなことを分かっていない気がするんだよ。

例えばアウティング。
三浦紗枝が腐女子をカミングアウトするのは勝手にすればいい。
だけど安藤純を巻き込む必要があったのか?

生徒たちがどうして善人ばかりという前提を描けるのか?
アウティングの問題は、カミングアウトがとてつもない悪意に晒されて、結果としてゲイの居場所の喪失、下手すりゃ自殺にまで行ってしまう危険性なんだよね。
高校を卒業して、居場所を変えられる自由が得られるまで、それはやらない方が良いと僕は思ってる。逃げ場のない学校・教室という監獄で、悪意と向き合うのはとてつもなく大変。学園はなにか聖域、みんな善人、仲良しこよし。話し合えば皆分かり合える、みたいな意識で学園ドラマ作っているとしたら、それ、相当分かっていないですから。

ドラマでもちょこっと出てくるSNS。
これで悪意がばら撒かれたら、本当につらいですよ。
異性愛者の子でも自殺に追い込まれるのに、同性愛者なんてさらに弱い立場だからね。
安藤純はイケメン(で良いんだよね??)でしょ?
これがとんでもないブサメンだったらって想像できました?
誰も助けてくれないよ?
つらいよ?
ほんと、「ただしイケメンに限る」って前提で話が進んでいるの分かってる?
(ここら辺がやおい論争に通じる部分なんだけど)

小野雄介が「男だったら!」というセリフがあるけれど、ゲイが主人公のドラマでそれはねーよなあと。LGBT教育したという設定だったけど、何の教育をしていたの?
「男・女それ以外にも性は多様なんだよ」ってテーゼ、自ら壊してない?

三浦紗枝が安藤純にキスを求めるシーンがあるけど、マウス・トゥ・マウスもないなあ。てか、それができるならバイセクシャルでしょう?
僕が同じことを求められたら、頬っぺたにチュッですよ。
個人個人考え方はいろいろとあると思うけれど、マウス・トゥ・マウスのキスは性愛の「性」に属するものだと僕は思うんですよ。人類愛的なキスだったら頬っぺたか、オデコか、手の甲か……。
新宿二丁目で酔っぱらってビアンとキスする時だって、唇はねぇーわ。
てか、素面だったらキスすらねーわ。
ないない。

しかも、腐女子、ゲイにキス強要でしょ?
ノリでやっちゃいましたという感じのドラマじゃないし、NHKは分かってこのシーンを作ったのか僕はTVの前で固まってしまってました。

同性愛を取り上げるとき「性愛」を避けることができない分、同性愛者が「性」と「愛」をどう切り離しているのか、NHKはもっと考察しても良いかなと思う。


「秘め事」

Queenのこと、語れる知識はないけどさ、フレディー・マーキュリーはゲイを公衆の面前でカミングアウトしたことはないよな?
だから、Queenをゲイに関する文脈で語るにしても、それは「隠されたアイコン」としてであって、故人をアウティングに近い形で取り上げるのは良いことだとは僕は思わないんですよ。

カミングアウトして、何も包み隠さない、自分をすべて曝け出せばハッピーという考え方は、ゲイの中でもそれほど支持されてはないと僕は思っています。
人間、誰だって「秘め事」を抱えて生きてるし。

ドラマの中で「透明な壁」という表現が出てくるんだけど、それはゲイからしてみれば自己防衛であり、逆には優しさでもあったりするわけ。ゲイだと秘め事を打ち明けられて、それに耐えられますか? その秘め事を守ってやれますか? そのくらい世界はタフに育っていますか?って。
(逆に言えば、セクシャリティなんてものがどーでもいい事柄になってしまえば、この話はすべてどーでもいいことになるんだが。この世が宗教というものに縛られている限り、それはどーでもいいことにならないんだよなぁ)

僕だってどうでもいい人の「秘め事」なんて触りたくもないし、知りたくもない。
なんで他人の秘め事を受け入れて、配慮してやらなきゃならないのか、ってね。
「秘め事」だから、触れないし、偶然知ってしまったら、それは他人に漏らさない。
僕が今できるのは、そこまでだから。

腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。 第7話
とても暴力的でした。

「あいつ来月結婚するんだって!」
「うっそー、あいつノンケだったの!?」

くらいな組織にならない限り、NHKはこの手の微妙なドラマに手を出すには早すぎる。
腐女子はいる、ゲイもそれなりにいる、だけどBLと腐女子に理解を示すゲイはそれほど多くないから、取材でカバーしようったって難しいよ、ほんとうに。
そこ、分かっていたのかなあ。。。。

次、NHKがゲイドラマやるんだったら、田倉トヲルの「こいものがたり」を映像化してみたらいい。こちらの方がよほどリアリティがある(ただしイケメンに限る、ではあるけれど)。

やおい論争から「きのう何食べた?」へ

2019年4-6月期、LGBTというか、ゲイにスポットを当てたドラマが3本走ってる。
・きのう何食べた?
・腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。
・俺のスカート、どこ行った?

「俺のスカート、どこ行った?」は面白いけれど、まあ前期の「3年A組」っぽい感じがしていて、目新しさは今のところ感じない。女装のオカマが現状を打ち破って行くストーリーは、なんてか、異形の者をトリックスターにして話を転がしてゆくありがちな物語だからさ。古田新太の怪演はとっても好きだよ。

で、今日の材料は残りの二つ。

僕は原作「彼女が好きなのはホモであって僕ではない」を読んでいないので、ドラマだけ見た印象で語りますね。
人権にはセンシティブな(はずの)NHK様が手掛けるので、ある程度安全な着地点はあるのだろうけれど、あらためて見るとオタク・腐女子って結構酷いよね。
ノンケ男子を絡ませてキャーキャー妄想するものの、実は自分と付き合っていた彼氏がゲイだと知ったら平手打ち……。。。。。

昔々、やおい論争があったころ。

「表現物の中に押し込まれてしまったゲイの側からながめると、女たちは確実に『男』化しつつあるように見える。他者を使って、自らの性的ファンタジーに都合よい役割を演じさせ、あまつさえ、ベッドの中までのぞき見してしまおうというのだから、タチが悪い」「キャラクターには共通していることが一つだけある。つまり、『女を楽しませてくれること』である」
「『女性差別表現』という言葉がある。『女を欲望の対象としてのみ描き、女の性を商品化する表現』、または『女を男社会に隷属させるためのステレオタイプに押し込める表現』であると理解している。‥では少女マンガにおける同性愛表現、とりわけ、やおい表現物などは『ゲイ差別』にあたるのだろうか?」

とあるゲイからの問題提起に対して、女性側(腐女子)からは、

「私がショックを受けたのは、あなたがやおいを自分に関係あることとして受け止めていることでした」
「ゲイの人たちがやおい本を読むということは、私の世界に土足で踏み込まれたような気がするのです」
「そこで描かれているのは『究極の関係』という『物語』であって、『純粋な欲望』としてのセックスではない」

なんてリアクションがあり、当時のBL作家を含め「やおいはあくまでもファンタジーであり、同性愛者側から不愉快であると言われたら謝るしかない」というスタンスだった。

最初にリアルな同性愛者という存在への想像力欠如があって、その上に視野狭窄になりがちな「オタク・腐女子」の行動スタイルが加わって、リアルゲイの反発を買ったんだろうなあと思うんだ。まあ彼女達からすればリアルゲイと遭遇して「キャスティングが酷すぎる!原作を侮辱!!」ってな感じなのかもしれないけれど。

やおい論争があった当時から、よしながふみは漫画を描いていた。
僕個人としてはよしなが作品には「なんか観察者のようなひんやりとした眼差し」を感じることが多くて、それほど好きじゃない。だけど「大奥」等 挑戦的・実験的な作品を描く才能にはリスペクトしている。

そんな大御所が描き続けている「きのう何食べた?」は、腐女子に対する一つの挑戦だと僕は考えているんだ。

「『究極の関係』という『物語』であって、『純粋な欲望』としてのセックスではない」という腐女子に対して、「『究極の関係』という『物語』にセックス描写は必要なの?それがないとBLは成立しないの?」という問いかけなのだと僕は考えているんだ。

「きのう何食べた?」は、やおい論争に対するよしながふみなりの回答なのだろう。
ゲイをセックスの視点で切り取ることをやめて、ただの隣人として眺めてみたらそこには淡々とした人間の営みがあるだけだ、ということ。
(……いや、ジルベール航みたいのに振り回されていたら淡々ではないか。。。)

あらためて僕は腐女子とBL研究者達に問いかけてみたいんだ。
BLにセックス描写は必要ですか?(別にやめろとは言いません……)
セックス描写がないとBLは成立しませんか?
なぜセックス描写が必要なのでしょうか……そこにあなた方はなにを求めているのでしょうか?

彼氏はきのう何食べたの原作を揃えている。
かなり好きらしい。


喜多川歌麿の「見るか徳栄華の一睡」ってヤツ

今年の初め、Twitterのとあるクラスタで話題になっていた浮世絵。
物語を読みながら寝落ちしてしまった女性。

夢の中では……

刀で脅かされたMOBオヤジに、いやいや着物を脱ごうとしている若い男。

商人の若夫婦が追い剥ぎに襲われ「服を脱げ」と脅され、嫁が帯を外そうとしたら「お前じゃない!男の方だ!」とまさかの若旦那を指名、自身もふんどし姿になる追い剥ぎ、という夢を見る女性に餌をねだる猫。

江戸時代から腐女子は存在していたのね、と話題に。

現実世界の寝顔が「ぐふふ」って感じなのがまたね。

鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』:BL漫画レビュー

僕はゲイかもしれない。だから苦しいんだ。

クラスメイトに「ホモ動画」を観ていることを知られた、たすく。
自分の性指向…ゲイであると皆に知られたのではないかと怯え、自殺を考えていた彼の前に、「誰かさん」と呼ばれる謎めいた女性があらわれた。
彼女は、たすくを「談話室」へと誘う。
そこには、レズビアンである大地さんがいて…。

尾道を舞台に描かれる、性と生と青春の物語


現在3巻までコミックス化が進んでいる本作、小学館ビッグコミックススペシャルから発刊されているのは「時代が変わったなあ」と思う。「きのうなに食べた?」ともちがう、まあ直球勝負。ネタ的にはBadiあたりに掲載されていても不思議じゃない。さすが小学館発というか、画力、構成がゲイ雑誌のクオリティとはレベルがちがう。ただまあ、、、ストーリーの進行に新しさはあまりない。少年の目覚めを丁寧に、丁寧に描いているという印象だ。

さてと。

この作品を語るってことは、なんつか、自分の人生と重ね合わせて語ってしまうのな。
少し感じる違和感もあわせて。

主人公「たすく」の生まれ育った尾道。
海沿いの美しい町、だけど濃厚な人間関係が「自分は少数側にいる」と感じている者には生きづらい場所。
「自分は同性愛者なのだろうか?」と悩む少年を救ったのが、「談話室」に集う「LGBT」の仲間たち。
仲間と出会って居場所を見つけたものの、仲間の「外」の世界とはなかなか上手くいかなくて・・・というまあ、ゲイ王道ストーリー。

ちょっと自分語りをするよ。

世間……人権活動家とマスメディア(?)は僕らを「LGBT」「性的少数者」というカテゴリーに押し込めようとする。実は、それが息苦しさの元だよなあと僕は思っているんだ。

僕が「僕は男が好きなんだ」と気づいたのは小学校4〜5年生の頃。
小学生が額を集めてのぞき込んでいたエロ本で、喘いでいる女よりも、顔の見えない男の背中の方がエロいと思っていたんだ。

その後、少女漫画を読んでいるうちにJUNEの「いま、危険な愛に目覚めて」に出会ってしまった。
少女漫画に慣れていた身だから、ずっぽりおぼれてのは言うまでもない。
当時だったらそのまま「薔薇族」「さぶ」「アドン」とかに行くのだろうけれど、僕はちがった。
高校生になり、当時まだ高価だったパソコンを買い与えられた僕は、パソコン通信でゲイの世界にアクセスし、わりとすんなり新宿二丁目に行ってしまった。

最初は怖かったから昼間の新宿二丁目仲通をうろついてみて「誰もいないじゃん」とがっかりした。
二度目はパソ通で知り合った人にゲイバーに連れていってもらい、その晩無事に「食べられちゃった」。

デビューしたタイミングが良かったんだろうね。
正直僕はモテるようなヤツじゃなかったけれど、酒と食べ物、好意と寝床はほとんど無料で手に入った。
だから「葛藤」は感じなかった。
葛藤を感じる前に、すぐに「楽しくて」「気持ちよい」ものに溺れてしまったのだろうね。

僕にとって「ゲイ」はなんて言うか、商品・サービスとして、そして多少の好意と付属して与えられていたものだったから、自分が「性的少数者」というグルーピングされることに違和感があった。僕の軸足はほかの場所にあって、「ゲイ」を人生の中心に据えたことはなかったのな。

だって「性的マイノリティ」って、どのサイズだったら「マイノリティ」と言えるのか?
そんなこと分からないし。
周囲の人に「あんたたちは性的マジョリティだから!」ってメンチ切ったことあるか?
自分たちをマイノリティと規定してしまうから、周囲がマジョリティのように見えてしまう。

「たすく」はアウティング喰らったり、「おはよーホモ!」とか嫌がらせを受けているが、僕はそういう経験がなかった。
「LGBT」グループには関わっていない。

時々顔を出すゲイバーがあり、顔なじみの店子や、馬鹿話をする知り合いもいるけれど、僕は自分が「性的マイノリティ」グループに所属している人間だと思ったことはない。僕は僕で、あなたはあなただ。

差別といえば、まあ現行の「結婚制度」は同性愛者にとっては差別かもしれないけれど、あらゆることに「平等」を求める原理主義者でもないかぎり、大きな問題とは思えない。
「差別」と言われることはほとんどは「拒絶」でしかないんじゃないかと。
その拒絶の原因は偏見かもしれないけれど。

人間の身体って、例えば誰かの腕をあなたの身体に縫い付けると腐って落ちる。
僕らの身体には、免疫というそもそも「拒絶」の仕組みが組み込まれているわけで。
結局、人は一人一人。
拒絶はどこでも起こりうるけれど、マジョリティ・マイノリティ関係なく、寄り添える人が各々何人かいればいいんじゃないか。それ以上に何を望んでいるのか?

ゴメン。
でもこれが僕のスタンス。

「マイノリティの権利!」「マイノリティに理解を!」じゃないと思うのだ。

僕を知って、嫌いにならないでくれたら嬉しい。
好意・愛情を与えあう関係になれたら望外の幸せ。
それだけだよ。

拒絶されたら悲しいけれど、僕もきっとどこかで「拒絶」をしているのだから相手を責められないよ。

マジョリティもマイノリティも、ある種幻影に過ぎないのだから、それに捕らわれたくない。

僕はそう思うのです。

橋本あおい『いつもの時間、いつもの場所で。』:BL漫画レビュー

女子ウケしそうなカフェ系BLマンガ。

自分のお店を持つ事を夢に見ながら移動販売車でカフェをしている菜摘。
そんな菜摘のお店には、幸せそうに甘いものを食べるイケメンの男性常連客が通ってくれている。
ある日彼の名前が“ササイ”であること、職場から20分かけて通ってくれていることを知った菜摘は、事ある毎に彼の事を思い出すようになる。そんなササイには、誰にも言えないヒミツがあって――…。


まあなんでしょう。
あらすじだけ読んでると「菜摘」は女の子の名前だよなあと最初に思った。

お話的には王道BLというか、まあ、イケメンに迫られてるのも夢オチという、とても清い第1巻。
『きこえる?』(ホーム社/集英社)が、BLAWARD2017ビキナー部門1位を獲得の実力派作家、らしいけど、僕が最初に手に取ったのがどエロな「between the sheets」だったんで、あれ?そうなの??って感じだ。

1巻目は移動カフェを営んでいる菜摘が、ランチに現れるイケメンデザイナー篠井との出会いがメイン。菜摘はバイン・ミーとパンケーキを食べる篠井が気になってしまう。

第1巻はBLって言えるのか?的1冊。
誰にもいえない秘密とは、篠井が甘い物好きで、しかしそれを女性にからかわれたり、「残念なイケメンってやつー?」「なんかさーイメージと違うよねー顔はいいし自慢できるから我慢するけどさー!」と陰口を言われた過去がトラウマになっていること。










まあなんていうか。
イメケンがスイーツ好きだろうが、ブサメンがスイーツ好きだろうが、本来どうでもいいことでさ。
本人が幸せならばそれでいいと思うのよ。
「イケメン」って人たちは、周囲から勝手なイメージを押し付けられて苦労することもあるだろう。
一方で女性にこういうことを言わせるのもBL的だなあと思うわけ。
パレンタインチョコを持って帰ろうとする男の子に「やーだー男が甘いものそんなに食べるって変じゃなーい?」と喧嘩をふっかけるのは、小学生女子らしい嫉妬の一種なのかもしれないし。
彼氏を自分のアクセサリーのように扱っているひどい女性は実際にいるだろうけど、一方でスイーツ好き男子をほんわりと眺めているのも好きって女性もいるだろうし。
別に女性を悪者にする必要はあまり感じないよな。

「イケメンはこうあるべき」というステレオタイプを否定してくれよ、自分の内面を、ありのままの自分を見て欲しいという「イケメンの叫び」にはとっても同情する。だけど「ステレオタイプの否定」は、例のフェミニスト系の方々の好物でもあったりして、まあBLを取り巻く思惑はなかなかめんどくさい。

ちなみに本編とは全く関係ないが、女性の「ずるーい!」という言葉は女性の発する言葉の中で最も下品な感情だと僕は思ってるんだ。この言葉が口から出ると一気に冷めますね。


1.絵柄
ほんわかとしてるけど、嫌いじゃない。
橋本あおい作品は脱がせればすごいことになるので、それは大丈夫かと。

2.ストーリー
食べ物と恋の話。失敗する方が稀だ。
王道中の王道だ。

3.エロ度
エロなし。

4.まとめ
読んでいて、気づいたら随分時間が過ぎていた。
情報がたっぷり詰まっているせいなのか、ストーリーが濃密なのか、どちらにしてもいい読書体験だった。
良作。

絵柄 :★★★⭐︎⭐︎
ストーリー:★★★★⭐︎
エロ度 :⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

高橋秀武『雪と松』:BL漫画レビュー

高橋秀武(ひでぶ)という作家名からして意外性に満ちた本作。
今年の「このBLがやばい」にランクインしてくるだろう注目作!!

「冷てえ目だな…心だけまだ死んじまっているのかね──温めてやるよ」
雪 降り積もる中、脇差を手に、瀕死の状態で倒れていた美青年。そんな彼の命を拾った医者の松庵。互いの名も知らぬまま、結ばれていく二人だが…?

高橋秀武という作家を僕はそもそも知らなかった。
過去作品はジャンプ系が多く、ヤンキー漫画、ヤクザものあたりらしい。

この作品の魅力は後ほど語るとして、一番のポイントは「女もすなるBLといふものを、男もしてみむとてするなり」なんだと思う。ヤマジュンとか、田亀源五郎あたりのホモ・ゲイ漫画とBLはちがう、だけど男が男に感じるエロスや、後述するホモ漫画につきもの(というか、笑わなきゃやってらんねーよ)みたいなギャグ・男の嫉妬を高橋秀武は絶妙なタイミングでぶっ込んでくる。BLとホモ漫画の両立は男性作家から来たか〜とやや感無量。

舞台は青梅街道中野宿から少し離れた村。
漢方医の松庵は、雪の降る夜、喉を切られて倒れていた美しい男を拾う。
松庵は「おめぇさんが死人だったらよかったんだ……引き取り手のねぇ骸はいい銭になるんだよ」と言う。
出て行こうとする男に松庵は「生きた体にも使い道はある……冷てえ目だな。心だけまだ死んじまってるのかね……温めてやるよ」と言って抱いた。


松庵は、その男を「雪」と名付け、死体を作ってこいと言う。
雪はいろいろ迷ったあげくある男を斬り、戻ってくる。
「なぜ死体を持ってこなかったんだ?俺は、その首の傷をつけた相手を殺しに行くんじゃねぇかと、そう思ったんだ。だったら骸を焼いて証拠隠滅してよ、すっとぼけてとんずらしちまえばいい……そう思って」と松庵は胸の内を明かす。ずいぶん遠回りだが松庵なりの優しさだった。そして「俺が骸を焼くって言えばよ……おめぇは必ずまたここに戻ってくると……思ってよ」という下心もあったりで。

それに対して「骸は持って帰れなかった。だったらまた生きた体を抱いてもらおう」が雪の答え。


ややハードボイルドっぽいプロローグの「雪を松」。
いい滑り出しだ。

そして本編「第一夜」に入ると、松庵と雪の生活が始まる。
第一夜のテーマは結局「身体目当て」なんじゃないか?という腹の探り合い。
出会ってから三ヶ月が経った。
春の朝から目合い(まぐわい)、日中の診察が終わった後も雪を抱く。

ハードボイルドだった松庵先生の「地」が現れ始め、嫉妬もすごい。


「おめえさんにその傷をつけたのはどういう奴なんでえ?」
「妬いてるのかい」
「ええ左様ですよ、あたしゃ妬いてますよ!おめえさん俺と寝る前から男を知ってる体だったろう!?」
「馬鹿野郎、そうでもなかったら男の誘いに乗るかい」
「ああしれっと憎らしい!!」

「雪を松」では終始イニシアティブを取っていた松庵先生がおねぇ状態。

「おめえさん最初から俺の体目当てのくせに」
「左様ですとも!体目当てでございますとも!」と松庵キレる。

と言いながら雪の本心は「先生、俺はね、先生と飯食って先生と寝るこの暮らしがとても好きだぜ」なのだ。
このツンデレぶりが小悪魔っぽい。

首に傷をつけた昔の「兄貴」と出会い、復縁と、松庵を殺すことを持ちかけられた雪は、「兄貴」を刺してしまう。ところが「雪を松」とは異なって、骸になるはずの兄貴の命を松庵は救ってしまう。松庵は本心では雪を人殺しにしたくなかったんだろうね。

「先生、俺ね……ずっとここに居てえ……いいかよ……?」

第二話のテーマは、たぶんエロス。
診察を終えた先生に向かって男根を剥き出してにして誘う雪。


せっかくノってる最中に「おめえさんの兄貴のとどっちがいい?」と無粋な問いかけ。
男はこういうの、気にするから(笑)

「えっと……兄貴のほうがでけえかな」
「あいつやっぱり殺しちまったほうがよかったかな」
「でも先生のほうが硬ぇぜ……」

この辺のギャグのぶっこみ方は、ヤマジュンなんかよりもぜんぜん上手。
と言っても、「どちらのセックスが良かったか?」みたいな台詞をBLで入れるのは結構レア。このシーンは言葉責めじゃないから。わりと本音で訊いている。BLだとビッチ設定キャラではないかぎり、こういう比較はあまり見たことない。「リバ」すら嫌悪する腐女子が少なくないし、ここら辺は男・女のセックス観の違いなんだろうと思う。

松庵たちの暮らしている家を明け渡さなければならなくなった。
村から出て行くときは一緒について来てくれるか?との問いが、意外にも「やだ」


雪はこの家と生活を愛していた。
この生活を守るために、雪は地権者に会いに行く。


「支払いは俺の体だ」
文字通り体を張っての取引を申し出る。

代償に桔梗屋のオヤジと寝ることになったのだが……。

「おまえさんのその凛々しいものをあたしの醜い土留色に汚れた後ろに入れておくれ!」
「えっ、そっち……尻汚ねえ……」
とてもイヤそうな顔をするものの、二人の生活のために桔梗屋を掘る(笑)。

おまえはジ●ニーさんか!?と笑いがこみ上げてくるが、抱かれると覚悟を決めてきたらタチって欲しいと言われて当惑っての、こっちの世界では良くあることだが……ここら辺のシリアスからギャグへの切り替えが上手い。
地券を持って帰った雪は「先生、俺……ほかの男と寝てきちまった。俺……もうここにいちゃいけねえか……?」と問う。
抱きしめられて「先生の馬鹿野郎、惚れるじゃねぇか」と雪はつぶやく。

「先生、やっぱり好きだぜ、先生の体。先生のここ落ち着く、硬くてよく立つし」
こういう台詞は女性作家には難しいかもしれないね。

フェラチオする雪で第二話は終わる。
テーマはエロスだが、桔梗屋と寝て、家の地券は雪が正式に手に入れてきたわけだから、この場所(家)は実は雪のもの。「雪さん」という名前を与えられ「今いる俺はここで生まれたんだ。俺はずっとここにいる」と言う男は、体を張って居場所を作ったのだった。

第三話は、雪の過去の話。
色街に生まれて、女みたいな顔立ちをしていると言われ、母親の借金のカタに客を取らされた。
「女にされるのは嫌だった。そのうちここを抜け出して、俺も女を買う側になってやる、そう思ってた。俺は男になりたかった」。だから雪はヤクザになった。威勢がよくて荒っぽくて男らしいから。でもヤクザも厭になってしまった。「先生、俺ァ、男にも…女にも…なれなかったよ。俺は宙ぶらりんだ」。

宙ぶらりんのまま抱いてやる(=いまのお前を受け入れる)という松庵に、雪は「先生、先生よう…俺を離したら殺す」としがみついた。渾身の告白。


雪の前にヤクザ時代の仲間が現れる。
「兄貴」を陥れて、若衆頭の座を手に入れたい。「この世にはやられる奴とやる奴しかいねえのさ」と言うその男に向かって、「おめえら揃って、誰かになる事しか考えちゃいねえ…俺は…俺は、もう誰にもなりたくねぇんだ!」と雪は叫ぶ。

雪にとって、色子時代、そしてヤクザ時代は捨てたい過去だった。
松庵と出会って、名前も変わり、平穏な日々を過ごしている。
それでも過去は迫ってくる。

松庵も親を失い、故郷も分からない。「俺も宙ぶらりんだ」。
「一人ぼっちで宙ぶらりんじゃ淋しいからよ、きっともう一人欲しかったんだ。しがみついてるのは俺のほうかも知れねぇぜ……」

一人じゃ淋しいから。
宙ぶらりんは怖いから。
だから一人よりも、二人。

もしホモ漫画にストーリーがあるからば、もうとっくに追求されていたテーマなんだろうけれど、多くの場合、同性愛者の物語とは、家族(社会から切り離されているわけではない)から切り離された行きずりの人間二人が出会い、居場所を見つけ、共に生きてゆくということなのだ。ホモ雑誌ではせいぜい「出会い」までかなあ。BLでも巻数の関係でなかなかそこまで到達できていない。

「雪と松」の注目ポイントは、JUNEとか、ホモ漫画が語られていたテーマをBLの作法でリメイクしているしている点なのだと思う。ホモ漫画は残念ながら力量のある作家がほとんどいないから、どちらかと言えばJUNE寄りかなあ。JUNEはなあ、寄る辺ない魂が自らの居場所を求めて彷徨う、ヒリヒリする「痛い系」の物語。雪と松庵はともに宙ぶらりんで、確たる居場所を求めているし。ホモ漫画でないのは「雪と松」では「並の男みてえに、所帯を持ったりするんだろうなあ……」というあやうさがあることか。理屈の上では、松庵も雪も異性愛者として生きることは可能だということ。それでも「男同士」の二人が共に生きることの理由を求めてしまうのがJUNE・BLの世界だ。「俺は先生の囲い者でもいいんだぜ」と告げてしまう哀しさ……ホモ漫画ではなかなかここまで到達しない。

それにしても、現在のBLは「結局なにがテーマだったのか」という作品が少なくない。昔の宗教画がエロを描きたい口実であったように、BLは単に男の裸とセックスを描きたいだけじゃないのか?と思うことが少なくない。貶しているわけじゃないんだよ。しかし、BL業界が、コンビニで売られているような、いわゆる男性向けエロ漫画と同一視、同一ジャンル視されたら、それを素直に受け入れられないだろう。いままで何回かBL論を読んだが、男性向けエロ漫画と、BLは同じではないのか?という根源的な問いかけを見たことがない。JUNEまでは、成り立ちと作家・読者からして、たしかに男性向けエロ漫画とはちがうことは分かる(耽美は竹宮恵子からしてちょっと微妙)。だが、現在の「BL」は、フェミニズム系の言い訳を取っ払うと、(メイン)女の創作活動であること以外、なにを目指しているのか……よく分からない。そりゃ「人が生きるにも死ぬにも訳なんかねえよ」という松庵の言葉通り「BLを描くにも読むにも訳なんかない」のかもしれない。そもそもBLってなにか、について深く知りたいなあと思う。

1.絵柄
劇画調……と言えるのかもしれない。
少なくともBLとしては異色に分類されるだろう。
読み手を選ぶかもしれないが、少なくとも過去の「江戸時代物」BLの中でもっとも成功しているのではないか。
力強い線、大胆なコマ割。
時々挿入される和物らしいモチーフがいい。雪であり、松であり、波であり……動きはないのに鯉を添えることだけで雪の淫乱な雰囲気を醸し出せる力量はすばらしい。

雪が降った翌日の、冷たくて、清涼感に満ちた空気に出会うことがある。
血が飛び散ったりするのに、「雪と松」の画面は、どれも凛とした清潔感に満ちている。
これも特筆することだと思う。

2.ストーリー
「宙ぶらりん」な村医者と渡世人ふたりの物語。
美味しい食事やセックスの日常と、斬り合いの非日常が交互にあり、そして二人の男の間に情が育ってゆく様を丁寧に描いている。登場人物を絞り人間関係がシンプルなので、結果として主人公二人に思い入れできる。

本名を知っていても、過去を捨てさせるためにあえて「雪さん」でとおす松庵は、とても優しい男。

3.エロ度
女性作家と男性作家の「エロ」さを感じるポイントが確実にちがうことが分かっておもしろい。
雪は目がエロい、服を着ていてもエロい。こんなエロい雰囲気のキャラを描けるBL(女性)作家はあまりいない。
性器が描写されるのは1回(正確には2回)だけ。あとはのしかかっているか、引きで股間に顔を埋めている絵があるだけ。だが、背中だけでも雪のエロさは充分に伝わってくる。作家の描画力だと思う。

4.まとめ
雪は「ウケ」ではあるのだけれど、けっして「女」ではない。女性的な顔立ちだが、いざというときは体を張って松庵を守っている。だから「雪と松」はBLのお約束通り左側が雪、右側の松庵先生の方がむしろ女性的なのかもしれない。

「このBLがやばい」にランクインすることは確実だと思う。
続巻があるのが、ほんとうに嬉しい。

「雪と松」は読まなきゃ損!な作品だ。

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★★
エロ度 :★★★★★
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

小指『不純愛プロセス』:BL漫画レビュー

初見の作家さん。
もともと電子書籍で分割配信されていた作品だとか。

「これで見たことぜんぶチャラにしてくんないかなあ…?」
自分が通う大学の講師・内海が偶然男性とキスしている所を目撃してしまった芹澤は、秘密にする代わりに飲みに行こうと誘う。
終電を逃し内海の部屋へと流れた芹澤が目を覚ますと、目の前には自分の”モノ”を咥える内海の妖艶な姿があってー…?

情欲と恋が交差する、ヨコシマでまっすぐな愛のプロセス。

エロに夢みるノンケ大学生
「コレは…本当にあの内海先生なのか…?」

普段は無表情な隠れゲイ講師
「だって君、口でされてみたかったんでしょ?」

なかなか素敵なコピーを背負ったカバーは、若い男にのしかかる眼鏡の男。
戸惑っているようで、実は強い眼差しで見上げている青年が気になって手に取ってみた。

あらすじの通り、コンパの帰り、繁華街の小路で男同士がキスする現場に出くわしてしまった芹澤。
そのうちの一人が、退屈な大学講師(地理学)内海だと気づく。

「秘密」は日常生活に彩りを与えてくれることがある。
「性」が隠蔽(抑圧?)されている日本において、「聖職」教員はさらにそれを隠すことを求められている。
何でもかんでも「オープンリー」にという姿勢もどうかと思うが、目の前に立っている教員が「ホモだったとは…」ってのは、捉え方はどうであれその人間の奥行きが急に広がったような印象を受けるにちがいない。

芹澤は、口止め料にと飲みに誘う。
「金をくれ」じゃなくて、一緒に飲もうよってところがちょっと可愛い。
酔って話すことといえば、彼女にフェラしてくれと土下座したのに振られたという失敗談。
そして内海の家に押しかけて、酒を呑み直そうという。




うたた寝しているうちに内海にフェラされて、口の中で果ててしまう。


「つーか、口でされんのってあんなに…」
気持ち良さを忘れられない芹澤は、「もう1回やってくれたら…忘れてあげてもいいよ」と内海を脅迫するのだった。

まあ、気持ちいいからね、アレは。
「男同士で気持ち悪い」という先入観や、本能的な忌避感がなければ、相手が男であろうと女であろうと気持ちいいことには変わりはない。
性欲に溢れている大学生芹澤にそういう先入観がなかったのが、この物語を成立させているキーだと思う。

内海に何回かヌイてもらっているうちに、芹澤は内海本人をだんだん知りたくなってくる。
内海の家に上がり込んで、芹澤が自分語りをすることもある。




「オレは単純に1人でいるのが好きじゃないんですよ。いろんなトコに顔出してはいるけど、実際みんな付き合いが浅いっていうか…」
「…さびしがり屋なんだね」
「アンタはめんどくさがりだろ!」
「そう、せーかい」

若い男が同じ部屋の中でゴロゴロしている風景は、なんか和む。
それはなんていうか、嫌味じゃない、キレイなものが側にいる快適さとでもいうのか。
それが頭のいい子だったらいい、素直で柔軟性のある子だったらとてもいい。
会話自体にとても意味あるような気がする。

そんな2人の空間に、内海の不倫相手から電話がかかってくる。
芹澤が電話を取り上げてキスしたら、「すげーキョヒられ」た。





ホモの大学講師、フェラの快感に興味本位だっただけの芹澤が、ちゃんと内海と付き合いたいと考えるようになる。

むかーし、むかーし、栗本薫が人物の書き分けができないうちは登場人物を2人に絞れとアドバイスをしていた。
それはよくわかる。
そしてリアリティーもちゃんと持たせろと。
なんでもありのファンタジーをやるためには、読者をねじ伏せられる高い技術がなければダメだと。
それもよくわかる。

この作品が好もしいのは、そこら辺がよくわかっていること。
あくまで主人公は2人。
コンパ好きだから友達がぞろぞろ出てきてもいいはずだが、悩みを相談しているのは1人だけ。
内海の不倫相手もだいぶモブ扱い。
それでいいのだ。
何にフォーカスして、何を省くべきなのか、この作家はよくわかっている。
おかげでストーリー全体に無駄がなく、すっきりとした仕上がりになった。

紆余曲折があって不倫相手と別れた内海がどうやってハッピーエンドを迎えるのか。
なかなかいい着地をするので、続きは本編で確かめてほしい。

1.絵柄
なんつか、少女漫画系BLではない。
なんつか、華が飛びまくる白泉社、エロい小学館に対して、地味にリアルな集英社風とでもいうか。
僕がなんども言ってきた「男に実は女を投影している」BLじゃなくて、いい感じで普通の大学生っぽい芹澤がいい。
こういう普通っぽい男の子が、実は一番エロくみえるんだ。

2.ストーリー
エロへの興味から身体の関係に進んでしまう教師と生徒。
王道といえば王道で、だけどディテールがよく練られているので、良い作品に仕上がっていると思う。



「ごめんね。君のこと散々めんどくさいって言っておいて。僕も…人のこと言えないのにね」
「でもーー俺は先生のめんどくさいところ、嫌いじゃないよ」

良いセリフじゃないですか。
他にもなかなか良いセリフがあって、作家は繊細な言葉選びができる人なんじゃないかなと思う。
あと両想いになった後の芹澤の言葉遣いや、立ち居振る舞いがわりと品を感じさせる。
普通なんだけど、ちゃんといいお家で育てられてきた子なんだろうなあと思わせる。

3.エロ度
年上の男を股間にひざまづかせて、快感と戸惑いにドキドキする芹澤がかわいい。
一方で「毎日部屋でヤってばかりだから俺、棒扱いされてるのかって心配しちゃったよ!」と不安を吐露する姿もかわいい。

4.まとめ
初単行本だそうだけど、いい作品だと思う。
BLのどういうジャンル(属性分けとかではなくて)に位置付けられるべきなのか、僕にはまだわからないけれど、こういうリアル系青春ストーリーはこれからも増えて欲しいと思う。良作。

絵柄 :★★★★☆
ストーリー:★★★★★
エロ度 :★★☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

雨宮かよう『蜜より甘い毒でお前を支配する』:BL漫画レビュー

んー、なんか小学館Cheese!に掲載されているみたいなタイトルだな。

親の再婚でできた義弟・泰雅に恋してしまった涼。
その想いを彼に見抜かれてしまった涼は泰雅から強引にくちびるを奪われ、甘美な愉悦で官能を煽られ支配されていく。
彼の与える快感に抗えず、咬みつかれ、貪られて堕ちていく涼は……。

雨宮かよう×鳥谷しず、大注目のエロコンビ登場!

んー、もうちょっとあらすじをフォローしよう。

主人公桐原涼(きりはらりょう)は警察庁刑事課企画室に勤務する警視。
父親の再婚相手の連れ子、泰雅(たいが)は憲法学を専攻する大学院生で有名モデル。
しかも、同僚の警視庁捜査一課勤務の来栖の家が経営するモデル事務所に所属している。





涼は泰雅に一目惚れ。
しかし、義弟に恋する気持ちを抱えたまま、悶々と生きている。
で、父親が泰雅の見合いの話を持ってきて、ベッドの中で涼は泣く。。。

はぁ……冒頭の設定を読んだ途端、脱力。
なに、この意味不明な設定は……。

で、セックス。

涼が仕組まれた見合いの席の帰り、女性と二人で歩いている姿を見かけて泰雅激怒。


で、帰宅して制服コスプレセックス。

誤解が解けた後日、裸エプロンでセックス。

パパラッチに取られた写真を来栖にもみ消してもらい、パール産卵セックス。

両親にカミングアウトしてセックス。




んー、なんていうか、セックスだけ描きたかったら、薄い本でやっていればいいと思うんだよ。
むかーし栗本薫が言っていたと思うのだけど、やっぱり読者を引き込むためにリアリティは必要なの。
リアリティが無いのならば、あとは超絶技巧の筆力で読者を引っ張り込むか、狂気迸るような異常な設定でガンガン押してくるか、とにかく高度なテクニックが必要なわけ。

『蜜より甘い毒でお前を支配する』はさ、警察設定でありながらほとんどその設定を活かしていないし、泰雅が有名モデルという設定にもかかわらずモデル・芸能業界への広がりもない。結局、涼は三十前の童貞処女の奥手な公務員であり、泰雅は「イケメンである」からモデルをやってるという、なんてかほとんど後付けの理由。だから弱いんだ。ページを先に進めたいという気が起こらない。たとえエロい細マッチョな美形二人がセックスしていたとしても。

エロ描きたいだけなら、家族の設定とか取っぱずして、ひたすらギシアンさせていた方が潔いと思う。とにかく中途半端というか、物語として雑だ。

1.絵柄
わりとBLらしい絵柄だなあと思う。
脱げは二人とも細マッチョだし、とても肉感のある絵柄。

2.ストーリー
「やおい」の典型みたいな作品。
一応原作付きなんだろ?原作付きでこれはないわぁ……というか、原作あるって言えるのか!?

3.エロ度
蕩ける孔の持ち主涼、ウケが後ずさるほどの巨根の持ち主泰雅。
筋肉質な二人が絡み合って、精液撒き散らして……やってることはエロいんだけど、なんかエロくない。
軽自動車のペタ踏み状態というか、要はパワーが足らないの。
描画は確かにエロいよ。だけど男の体が好きなゲイから見ていて微妙なんだよな。
物語を前に進める力量と、情熱が全く足りていないように思う。
御都合主義のエロは、あんまりエロくないんだよなぁ。

「それは人に挿れていいサイズじゃないだろう。」
「問題ない。どうせあんたは魔法使いになりかけだからな」
「……魔法使い?」
「童貞のまま三十を過ぎたら魔法使い、四十を過ぎたら妖精になるって言うだろう」

笑っていいのやら……???

4.まとめ
表紙と絵柄は悪くないんだけど、物語としてパワーと投入熱量が足りていない。
このレベルでは薄い本の世界に留まるしかない。
ちょっとこれはダメだ。作者は猛省して欲しい。

絵柄 :★★★☆☆
ストーリー:★☆☆☆☆
エロ度 :★★★☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

厘てく『君へおとどけ』:BL漫画レビュー

ラジオから山下達郎の”Ride On Time”が流れてる。
夏を予感させる名曲を耳にするにはまだ早すぎるような気もするけれど、今日はそんな気分で爽やか系(?)のBL漫画レビュー。

イケメン配達員×コミュ障オタクのお届けLOVE!!
深谷泉(ふかやいずみ)、27歳独身。
趣味はネトゲとフィギュア集め、買い物は99%通販生活のインドア派。
そんな深谷の今一番の楽しみはーー。
イケメン配達員・二十八(つちや)さん!!
逞しく男らしい身体に、爽やかスマイルが今日も眩しい★
彼との玄関先の逢瀬のために、毎日のようにオタグッズを通販する日々だ。
これは断じて恋ではない……。
ヒーローやかっこいいものに憧れる少年心なのだ!
自分に言い聞かせていたけれど…!?

お、おう……
あらすじからしてなんか拗らせてるなぁ。。。

もうあらすじが全てを語り尽くしているのだが……。
甘ったるめのフェイスが特徴の、配達員二十八涼太(27歳)。
いつも爽やかスマイルで、お荷物をお客様にお届け中。




インドア・コミュ障の深谷泉にとって、イケメンは「くそ!イケメンは滅びたほうがいい!俺のように嫉妬や憧れで病む者もいるだろう」という対象。だけど「美男子ともなると同性ですらドキドキさせることができるんだな」と思ったりもする。

フィギュアとPCの詰まった部屋に戻って深谷は落ち込む。
「二十八さんを見て胸が高まるのは、俺にないものを山ほど持っているからだ。」

高身長(184cm)、張り詰めた大胸筋、キュッとしまった腰……「かっこいいもの」好きの深谷がやったことといえば……毎日毎日通販の荷物をお届けさせることだった。

あー、こういうお金でなにかを解決しようというのは良くないねぇ。
最近は働きすぎで疲労困憊のクロネコさんなら「毎日来させるんじゃねぇ」とか思っちゃうかもなあ。
と言っても、イケメン配達員さんと仲良くなる方法なんて、僕にもさっぱりわからないが。

イケメンは汗を拭う姿だけでも様になりますね。



深谷はどんどん妄想し、どんどん拗らせてしまう。
「俺にはよくわからんが、フットサルやらサーフィンやら。モテ男御用達のスポーツでもやっているんだろう。なんて爽やかな……」

ある日、24インチワイドモニターを部屋まで届けてくれようとする二十八を、深谷は引きとめてしまう。
漫画、PC、フィギュアが溢れている部屋を見せられない、(恥ずかしい)と思ったから。



これねぇ……コミュ障の人に限った話ではないと思うところがあるんだ。
いやさあ、フィギュア集め、ゲーム廃人、漫画に埋もれた部屋で暮らしていることが恥ずかしいかどうかは、その人の価値観だと思う。価値観は人それぞれだから、俺には恥ずるところ一片もなし、と言い切ることはできる。と言っても、その価値観で周囲の人とうまくやっていけるかどうかは、また別の話ではあるんだよな。

「ゲイ」「同性愛」も同じで、「ゲイの我が生涯に一片の悔いなし」と言い切る人もいなくはないけれど、多くの人は「秘密」を抱えて生きているのが現状だと思う。それを恥ずることではない、臆病な生き方を止めろとカミングアウトを強く勧めるアクティビストもいるけれど、あれはあれで微妙な人たちであることも事実で。自己肯定がなかなか難しいんだ。

抱えている秘密を「恥」だと思ってしまうと、強く生きれなくなってしまう。
引っ込み思案になることがイジメを誘発したり、色々と妄想を拗らせて、さらに色々と問題を呼び寄せる。

あー、難しい。
好きなことを諦めろと言いたくない。
「他人受け」することばかりに流されて、疲れてしまう必要もないんだよ、と言ってあげたい。
だけど、趣味を同じくする人と付き合えるならばともかく、別の世界で生きている人と付き合うためには、自分の「お楽しみ」を少し我慢しなければならないこともある。新しい世界へ向かうアンディと、おもちゃのウッディがお別れしたように、切ない別れ、卒業を迎えることもあるかもしれない。別の世界へ出てゆくことは一つの選択だし、そのまま留まることも一つの選択には違いない。だけど、不安と、知識不足に怯えながらも、新しい世界へ出てゆくことは気持ちの良いことだと、それだけは間違いないと僕は思うのだ。

イケメンの二十八クンがイケメンなのは顔とスタイルだけじゃなくて、相手を肯定してあげれるところなんだ。
「周りの評価はわかんないですけど、自分のしたいことだけ全力でやってますね。それって、かっこ悪いことなんでしょーか?変わろうとしてがんばる深谷さんは超かっこいいですよ。感動しました」


こんな風に肯定してくれる人に出会えたら、幸せの光が差し込んで来たような気持ちになるだろうなあ。

「拗らせる」ということは、考えすぎて動けなくなるということ。
「二十八さんにもっと自分が知られてしまうのが本当は死ぬほどこわい。だけど、二十八さんのきらきらした世界に俺も連れて行ってほしい」と望む深谷だが、実は二十八はそれほどきらきらした世界で暮らしているわけじゃなかった。「想像と違ったの」と振られることが多かった二十八。二十八とって「それは俺の外見から相手が勝手に想像したものであって、俺は生まれた時からずっと『俺』なのに」というのが悩みだったのだ。

深谷が気づいたのは、シンプルな原則だった。
「俺は二十八さんのことたくさん想像してた。そもそも二十八さんは想像してないんだ。だから俺にがっかりしないんだ」


これね。
幸せになるための大事なことなんだよ。
ありのままの相手を受け入れること。

で、めでたく両想いになった二人。
二十八涼太は脱げば細マッチョの肉体派で……。


あら、ステキ!

1.絵柄
猫目男子でわりと好きだ。
表紙は作品の顔というが、メガネの深谷は置いておいて、二十八さんの胸板アピールがおいしすぎる。

2.ストーリー
女性漫画?の「5時から9時まで From Five to Nine」のアーサー、モモエカップルだよなぁとか感じつつ読了。拗らせたほうがグルグル悩んでいる様がかわいいというのが腐女子のお好みなのかなあ。僕は二十八さんの爽やかさに引っ張られましたけど。

3.エロ度
肉体労働27歳のボディはすんげぇぞ。

4.まとめ
佳作というレベルなのだけど、シンプルなストーリー立てと、絵の綺麗さがいい塩梅かな。
こういうほんわか系は、時々読み返したくなるよね。

絵柄 :★★★★☆
ストーリー:★★★☆☆
エロ度 :★★★☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)