広島・松山旅行記(8) 岩惣(いわそう)に泊まる そのさん

岩惣には温泉が出ている。
露天温泉は新館地下1階なので、まずは浴衣に着替え、下駄でふらふらと歩く。
途中、紅葉谷公園に出入りする観光客とすれ違うので、浴衣をきっちりと着こなせていないと恥ずかしい思いをする。浴衣の風情は和風っぽくて、景色とよく似合う。
温泉は、まだ早い時間だったので僕ら以外には1、2人の相客がいるだけで、広い浴槽に浸かってしっかりと疲れを取った。運が良いと露天風呂の前を野生の鹿が横切って行くという。

まだ陽が高いうちから温泉に浸かっていたのは、まあ、旅先だからひとっ風呂浴びてのんびりしたかったのと、それから食後に再び外出する予定があったからだ。

温泉でリラックスして"錦楓亭"(きんぷうてい)に戻ってきた。うるさいテレビは布のカバーを掛けたまま、彼氏のやわらかい声と、紅葉谷を流れるせせらぎの音を楽しんで過ごした。静かな和室は気持ちが安らぐ。

晩ご飯は18:00スタート。
白ワインをボトルで頼んで、食事が始まった。

前酒:広島産・檸檬酒

箸楽め:落花生葛よせ 蟹身 京湯葉 柚三つ葉 からし味噌

前八寸:焼松茸 菊花 菊菜 いくら すだち酢 穴子カナッペ
    焼秋刀魚ばってら 南京きんつば 海老塩麹焼 柿たまご

お造里:紅葉山・旬の鮮魚 妻一式 山葵 芸州造り醤油

焜炉:紙鍋にて・白味噌仕立て 京かぶら 秋鴨煮寄せ
   飛竜頭 青梗菜 柚子

温石:和牛香焼き 松きのこ 焼栗 京ひしほ味噌

瀬戸の品:名物・焼きあなご
     宮島産 焼牡蠣 檸檬

揚もの:ころ柿海老真丈 紅卸し 旨出汁

御飯:釜焚ききのこ御飯 赤出汁 香の物

水菓子と甘味:秋の果実ゼリー掛け 栗蒸し羊羹

大変美味しゅうございました。
焼牡蠣は"牡蠣屋"に軍配が上がる、あの美味さはちょっと異常だったから。
食前酒の檸檬酒がとてもさわやかで、機会があったらまた飲んでみたいと思う。

広島・松山旅行記(7) 岩惣(いわそう)に泊まる そのに

"もみぢだに公園"の石碑の脇を抜けて、山に向かって歩く。
綺麗に掃き清められ、打ち水がされた坂道は、これから待ち構えている驚きへの期待を盛り上げる。

いくつかの建物を通り過ぎ、やがて"錦楓亭"(きんぷうてい)という表札の掛かった建物に案内された。あの玄関をなんと呼ぶのだろう。秘密めいた庭園に続く扉のような、和風建築に住んでいる人しか知らない、あの不思議な扉を開けると、茶室へ入るような小さな障子を開ける。目の前すぐにクローゼットがあって、その前を右に曲がると、一直線に伸びる廊下が続いている。



"錦楓亭"は10畳間、16畳間の和室2部屋と、紅葉谷を眺めるためにしつらえたとしか思えない洋室の3部屋を持つ離れ。廊下の先には古びた懐かしい洗面台があって、その奥がトイレになっている。余計な家具のないすっきりとした各部屋は、僕はとても居心地良く感じられた。プライベート感溢れる空間に僕たちはすぐに馴染み、リラックスした。広い部屋は落ち着かないという人が僕の周りにもいるけれど、どうしてなのだろう。手足を思い切り伸ばして寝転んだり、窓の桟に腰掛けて紅葉谷を眺めたり、狭苦しいホテルの部屋では味わえない開放感を楽しめる。





僕たちを案内してくれた仲居さんに、今夜はよろしく頼む旨を挨拶すると、彼女はいったん部屋の外に引っ込んだ。この離れには食事のための配膳室が完備されている。僕らが寛いでいると抹茶ともみじ饅頭を用意してくれた。もみじ饅頭は、岩惣の女将が菓子匠に発注して誕生したものなのだとか。美味美味。




広島・松山旅行記(6) 岩惣(いわそう)に泊まる そのいち

今回の広島・松島旅行は、そもそも彼氏が宮島に宿を取ってくれたことから始まった。「ちょっといい宿を取ったから期待していて」という彼氏の言葉に甘えて案内されたその宿は、国立公園紅葉谷公園へ向かう橋のたもとにあった。安政元年(1854年)に創業し、現存の母屋は明治25年に建てられたものだという、伝統の日本旅館 岩惣(いわそう)。

フロントにたどり着いたときにまず感じたこと、それは長い時間を掛けて大切に磨かれてきた建物だけが持つ独特の空気感だった。それはクラシカルホテルだけが持つ、歴史とプライドが醸し出すもの。仕立ての良いシャツに袖を通したときのような心地よさに包まれて、僕はすっかりうれしくなってしまった。僕らの生まれる前からこの宿に集い、寛いできた人たちがふっと漏らすため息が積み重なっているような、目をつぶるとそのざわめきが押し寄せてくるような気がする。周囲には、僕らのほかに旅人はいないのに。

彼氏がチェックインの手続きを行う。
荷物はすでに部屋に届けられているという。
若い女性の仲居さんに誘われて、今宵の部屋にいざ参らん。







広島・松山旅行記(5) 厳島神社

世界遺産 厳島神社。
安芸の宮島と呼ばれるパワースポットの中心に位置する社殿は、長い回廊が巡らされている。朱色に塗られた柱が林立する光景は華麗の一言だけど、左右に間延びしたその姿はファインダーの中では収まりが悪い。厳粛な雰囲気で結婚式が執り行われている。お邪魔しないように、静かに参拝。









安芸の宮島は、パワースポットにちがいない。
くよくよしていたことや、色々と疲れていたこととか、そういうモヤモヤしたものが自然と剥がれ落ちて、気持ちが軽くなってゆく場所だった。

広島・松山旅行記(4) 厳島神社 表参道商店街

宮島で一番にぎやかな場所は、表参道商店街だろう。
約350mの参道の両側には、土産物屋、食べ物屋が軒を連ねている。
場所柄、縁起物の杓文字を商う店が多く、沿道に日本最大ということは世界最大の杓文字が飾られている。
それから、名物もみぢ饅頭を焼いている店がたくさんある。





ONE PIECE 広島限定手ぬぐい。
不思議なもので、あれだけ切った張ったのマンガ主人公が、日本に来るとなんて平和で、楽しそうに見えるのだろう。眺めているこちらまで幸せな気分になる。そして、チョッパーの可愛らしさはもはやワールドワイドクラス。観光地でONE PIECEグッズをチェックするのは、僕の密かな楽しみだったりする。

彼氏と表参道を歩いていて、とにかく気を惹かれたのは海産物を焼く匂い。特に牡蠣を焼く匂いはたまらなく食欲を誘う。穴子飯を食べたばかりだというのに。

表参道商店街の中に、これまた彼氏には目の毒な料理屋が盛大に牡蠣を焼いていた。牡蠣専門料理屋の、その名も「牡蠣屋」。店頭のPOPは、上3分の1が牡蠣料理の紹介。下3分の2がワインリストという塩梅。そのリストを眺めていた彼氏がそわそわし始めた。焼牡蠣は僕が食べたいと言い出した。

僕らは店頭のカウンターに案内される。
焼牡蠣4ピースで1000円。ワインはグラスで600円台から。僕らはシャブリをハーフボトルで注文した。よく冷えたシャブリを楽しんでいると、程なく焼牡蠣が到着。「なにもつけないで、そのまま召し上がりください」と薦められた。さっそく焼牡蠣を口に運ぶ。熱々、プリプリ、牡蠣のミネラルをたっぷりと含んだエキスが口腔を満たし、磯の香りが鼻腔に抜ける。「これは美味いわ!!!」と僕らは大興奮。座った場所も良かったのかもしれない。"ダ・ミケーレ"の窯の出口前に陣取って、マルゲリータピッツァを食べているようなもの。焼牡蠣も火から離れて30秒過ぎてしまったら、一番美味しいタイミングを逃してしまうにちがいない。





彼氏とシャブリのグラスを揺すりながら周囲を眺める。「牡蠣料理屋」でお酒を出すのは従来のスタイルだとしたら、ここはお酒を飲むために立ち寄れるバー。昼間っから堂々と酒を飲むための店が大手を振って営業しているのはすばらしいことだ。小洒落たインテリアのOysterバーがこんな場所にあるなんて。
僕らの近くでは外国人のふたり組がスパークリングワインと焼牡蠣を楽しんでいて、しかも彼らが表参道商店街を歩いている外国人を呼び込むので、すっかりここはどこのFisherman's Wharf?ってノリになった。

正直なことをいうと、このあと美味しい食事が用意されているのだけれど、今回の旅行は「牡蠣屋」の焼牡蠣がすべて持って行ってしまった。それほどハートと胃袋が鷲掴みされたすばらしい体験だったのだ。

広島・松山旅行記(3) 厳島神社 大鳥居

あなご飯の藤田屋を出て、海岸へ続く緩い坂道を下って行く。
厳島神社出口と金比羅神社、そして大願寺の境内が額を付き合わせている辻まで来ると、目の前が大きくひらけた。フェリーで宮島に上陸したときには気づかなかった引き汐で、砂浜が沖まで続いている。厳島神社大鳥居の周りに人が集まっている。早速僕らも行ってみることにした。

空を覆っていた雲から青空が顔を出し、やわらかい日差しが降り注ぐ中、濡れた砂の上を歩く。ノルマンディーの、モンサンミッシェル以来の砂の上の散歩だった。島からは幾筋か小川のような流れがあって、水と水とが出会う場所はやや大きな水たまりになっている。靴が濡れないように浅瀬を探して、軽くジャンプを繰り返す。そんな僕らの横を修学旅行の学生たちが、豪快に水飛沫を上げながら走って行く。これだから若いヤツらは……と苦笑いしながら、僕らも大鳥居の柱を目指した。




厳島神社の大鳥居は、自重でこの場所に立っている。
扁額が掛けられていて、沖側は「厳嶋神社」、島側には「伊都岐島神社」と書かれている。伊都岐島神社は古い時代の呼び名で、平清盛の時代に厳嶋神社と書くようになったのだとか。



チャプチャプと打ち寄せる波音を聞きながら、沖を行き交うフェリーを眺めていた。
島の方角は、子どもたちの歓声でにぎやかだ。




広島・松山旅行記(2) 宮島 穴子めし ふじたや(藤田屋)

彼氏と共に宮島フェリーターミナルに着いて、「さあ、宿まで歩こうか」と歩み出すと、たまたま別の客を迎えに来ていた宿の車が横付けされていた。今夜宿泊の予約を入れている旨を伝え、僕らも同乗させてもらう。あとから分かったことだけど、観光客でごった返す門前町のあのにぎやかな通りを、キャスターバッグを引き摺って歩くのはちょっと大変だ。

宿に荷物を預かって貰い、僕たちは穴子飯を食べに出かけた。宿のフロントでどこが一番美味いのか?と尋ねると、いろいろ味付けがちがうからと渋るスタッフ。あえてどこがオススメか?と重ねて尋ねると、「ふじたや」に行くお客が多いという。じゃあそこへと、僕たちは宿をあとにした。フロントを出て、鹿がのんびり歩いている「佐々木八重子の店」を通過して、左に曲がる。そのまま道なりに歩くと、厳島神社の出口が現れる。朱色の回廊はあとで訪ねることに。

金比羅神社の角を曲がり、坂道の中腹にあなごめし「ふじたや」があった。

小学生未満の子どもはお断りという、大人向けの料理屋。
僕らが訪れたときはたまたま席が空いていて、カウンターにふたり並んで穴子飯が出てくるのを待った。カウンターの中がオープンキッチンなのかと期待したけれど、調理は別の場所で行われているようだ。

しばらく待って穴子飯が到着。
鰻重とはちがうあっさり、フクフクと柔らかい歯ごたえ。
やさしい丼を楽しんだ。




移動が多くて僕らは少し疲れていたにちがいない。
ちょうど飲み頃の緑茶をすすりながら、これからの旅程についておしゃべりするのは気持ちをリラックスさせる最高の時間。今日のベースにたどり着き、あとは観光と温泉、そしてご飯を楽しむだけなのだから、楽しいことしか待っていない。

穴子飯は、お財布にはあまりやさしくない2300円/お一人様。