フランス旅行記(2015年) モン・サン=ミッシェルに滞在(6)

翌朝、僕らはすっきり目覚めた。
交代でシャワーを浴びたあと、朝食レストランが始まるまで島内を散策する。
もちろん修道院内部は入れないから、城壁であるとか、修道院に続く古い荷揚げリフト跡を眺めたりとか。モン・サン=ミッシェルの、城壁と家々が朝日を浴びてバラ色に輝く様子を眺めながら、僕らはしばらく風に吹かれていた。ビジターを乗せた最初のバスが到着する前の、静かな時間に身を浸す。

朝食はホテル本館(?)にあたる建物の二階で、ビュフェ式で供されていた。開け放たれた窓から鳥が侵入してきて、パンを突いているのはご愛敬か。コーヒーはやっぱりカフェの方が美味しいなあ。









11時に出発するバスで島を離れ、レンヌ駅からTGVでパリへ向かう。

フランス旅行記(2015年) モン・サン=ミッシェルに滞在(5)

晩ご飯はホテル併設のレストランが良いという話を聞いていたので、ル ムートン ブランで摂った。プリフィックスコースにしかない田舎風パテを無理矢理出してもらって、ワインと一緒に味わう。田舎風パテはレ・テラス・プラールの方が美味しいと思った。メインは羊肉を使った地元料理。モン・サン=ミッシェル周囲の草を食べて育った羊は独特の塩味がして、美味いなあと笑顔がこぼれる。2時間近くかけてダラダラと食事して店を出た。







観光客の数は減ってきたけれど、夕陽に染まるモン・サン=ミッシェル全景を撮影するにはまだ日が高すぎる。二人ともワインで酔っ払ってしまい、いったん部屋に引き上げた。そしてベッドに沈没。ふたたび目を覚ましたのは22時をずいぶん過ぎた頃だった。やや寝ぼけ気味の彼氏をたたき起こして、カメラを持って島を出る。海に向かってハイビームを浴びせかけている車があった。その光の先にはザン、ザザンと激しい音を立てて押し寄せる海水があって、日中人が歩いていた干潟が水没している。島と対岸を結ぶ道を冷たい強風が嬲っていた。カメラを構えてもピントの合わない写真が量産されるばかりだった。

グランド・リュに戻ると、あれだけ激しく吹いていた外の風が嘘のように穏やかだった。観光客が去ったモン・サン=ミッシェルにステイする人だけが目にする光景が広がっている。






フランス旅行記(2015年) モン・サン=ミッシェルに滞在(4)

1時間ほど昼寝して、あらためてモン・サン=ミッシェルの外観を眺めに行くことになった。僕らが到着した3時間前の驟雨が夢のようだ。ドーバー海峡から渡ってくる雲は、常に形と厚さを変えて流れて行く。島から少し離れたところまで歩いて写真を撮った。海水の引いた干潟を歩いている人を眺め、そしてグランド・リュの土産物屋を冷やかし、城壁の上から修道院を見上げる。気づくと結構な距離を歩いている。









ふたたび部屋に戻ってくると、鴎の雛たちも食事中だった。
僕らも晩ご飯を食べに、螺旋階段を下って行く。

フランス旅行記(2015年) モン・サン=ミッシェルに滞在(3)

モン・サン=ミッシェルは訪ねる価値があるのかないのか。
モン・サン=ミッシェルに宿泊する価値があるのかないのか。
モン・サン=ミッシェルに宿泊するなら島内と対岸どちらが良いのか。

様々なブログやフォートラベルの旅行記に意見が溢れているが、いずれもが正解であるし、間違いであるように僕は感じている。モン・サン=ミッシェルのすばらしさはその外観であって、修道院内部で感動する光景に出会えるかというと、一部好事家を除けばたぶん否だと思う。ヴァティカンのような美術品で飾り立てられた場所ではない。モン・サン=ミッシェルはローマでたとえると、サンタンジェロ城のような立ち位置だと考えたらいい。ライトアップされたサンタンジェロ城は「やっぱりローマに来て良かった!」と思わせる美しさがあるけれど、中身はどうかと尋ねられると「…………」だと思う。

モン・サン=ミッシェルに宿泊する価値があるのかないのかと言われれば、そもそもモン・サン=ミッシェル自体がパリから往復7時間も掛けて日帰りしてまで行きたいところだろうか、となってしまう。とにかく日帰りは「疲れて大変だろうなあ」としか感じられない場所ではある。例えば大阪に滞在している外国人客が日帰りで江ノ島観光すると言いだしたら、そんなに苦労して見るところがあるのかな?と現地日本人としては考えてしまうところだろう?

モン・サン=ミッシェルに宿泊するなら島内か、対岸のどちらか?と問われれば、条件付きで島内が正解だと思う。理由はビジターが帰ったあとの、中世そのもののグランド・リュを独り占めできるから。条件が付くのは島のインフラが古いままなので、バリアフリーとか期待できないところ。石畳のグランド・リュは歩きづらい部分もあるし、キャリーバッグを引っ張ればゴトゴトとひどい音を立てる。ホテルの客室の多くはエレベータのない狭い階段の先にある。大きなスーツケースは自分で運び込まなければならない。だから、健脚であるか、あるいは1泊二日の小さな荷物を持っての滞在ならば悪くはないと思う。大きな荷物を持っての観光ならば、対岸のメルキュール モンサンミッシェルあたりに滞在した方が楽だと思う。

で、なぜ僕らがモン・サン=ミッシェル島内に宿泊したのかと言えば、フランス旅行中日に休養日を作りたかったから。見るところは修道院とお土産屋しかなく、他に行くところがないから。しかも島内に部屋を持っていれば、疲れた時は戻って昼寝をすれば良いから。

そういうわけで、僕らはモン・サン=ミッシェル島内最安のル ムートン ブラン(Hotel Le Mouton Blanc)に泊まっていた。アサインされた部屋はフロントのある建物から少し離れた、なんの看板もない民家のような扉の先にある3階。建物の中にはご老人にはまったく勧められない急勾配の螺旋階段がある。さあ行くぜ!とかけ声をかけて僕らは階段を上った。

部屋はこぢんまりとしていたが、清潔なシーツに包まれた程よい硬さのベッドがあり、十分な量のお湯が出るシャワーブースが備わっていた。窓を開けるとひんやりとした海風が流れ込んでくる。十字架を掲げた小さな尖塔があり、その先に広大な干潟が見える。尖塔の中で鴎が雛を育てていて、時々餌をねだる声が聞こえてきた。





疲れた僕らはベッドでしばらく昼寝する。
鴎の雛たちもうつらうつらしている穏やかな午後だった。

フランス旅行記(2015年) モン・サン=ミッシェルに滞在(2)

レストラン レ・テラス・プラール(Les Terrasses Poulard)で食事を済ませたあと、そのままグランド・リュを先に進んで修道院モン・サン=ミッシェルを見学することにした。僕にとっては約10年ぶりの再訪だ。僕らが訪れた2015年7月7日は干潮のタイミングだったようで、島の周りは遙か遠方まで灰白色の光景が続いている。


















バスから降りた時の、周囲が真っ白に見えるほどの強い雨も上がった。
強い日差しに曝される南仏とは異なる、淡い青空にふわふわとたなびく雲が現れて、僕の好きなウジェーヌ・ブーダンの絵のようだと思った。印象派発祥の地ノルマンディならではの美しさだ。いつかオンフルールを訪ねてみたいという希望はあるのだけれど、実現の見通しはないのだよなあ。

フランス旅行記(2015年) モン・サン=ミッシェルに滞在(1)

ビジターセンター近くから無料シャトルバスが運行されていて、それに乗り込んでモン・サン=ミッシェルを目指す。前回僕が訪ねた時は堤防の上に敷かれた道路を移動していったが、新しいアプローチはサンマロ湾の潮流を回復させるために細い橋脚の上に道を敷き、その上を移動する方法になったのだという。

雨宿りをしたこともあって、モン・サン=ミッシェル島内に到着したのは14時近くになっていた。とりあえずホテルに荷物を預け、ランチを摂ることにした。島内はオムレツ財閥に支配されており、どこに行ってもラ・メール・プラールから逃れられないような仕組みになっているような気がする。そんな中、修道院へと続くグランド・リュ沿いにあるレストラン レ・テラス・プラール(Les Terrasses Poulard)で食べた料理が、今回一番美味しかったような気がする。


食べたのはプリフィックスのコース。お値段は18Euro。
下の3品から1品
・フレッシュ野菜サラダ
・田舎風テリーヌ
・野菜のマリネサラダ

下の3品から1品
・ハムの蒸し煮 シードル風味
・ムール貝の白ワイン煮 フライドポテト添え
・ノルマンディ風ヴォライユ(家禽類)のシュプレーム

デザートは下の3品から1品
・バニラアイスクリーム
・アップルパイ
・チョコレートムース

僕が選んだのは、田舎風テリーヌ、ノルマンディ風ヴォライユ(家禽類)のシュプレーム、チョコレートムース。その他に僕らはシードルを頼んで乾杯する。

普段シードルを飲む機会はあまりないのだけれど、やさしい炭酸の刺激は嫌いじゃない。ノルマンディに来たらこれは外せない。



田舎風テリーヌは、ものすごくよい出来で、美味かった。これ、赤ワインと組み合わせたら何枚でも食べたくなるだろう。たった2枚しかないので、もったいなくてチマチマ食べることになったよ。



ノルマンディ風ヴォライユ(家禽類)のシュプレームのシュプレームとは「胸肉」のこと。肉汁が混じった甘めのソースがお米に染みて、これはものすごく日本人好みの味付けだと感じた。こちらも2皿くらい欲しくなる逸品。


デザートはチョコレートムースで。


レストラン レ・テラス・プラールは眺望レストランと言うだけあって、窓の外には灰白色の干潟と、羊が草を食んでいる草原が広がっている。僕はこのレストランが好きになった。