2011年台湾旅行記-8

ニューヨークで初めての海外旅行を共にして以来、旅行中に一回はロマンティックディナーをやる癖がついてしまったような気がする。今回は僕の誕生日祝いということで、シェラトン台北の"辰園"で、宮廷料理ディナーを彼氏がプレゼントしてくれた。それだけでも十分嬉しいのだけれど、二人でシャワーを浴び、ドレスアップしてレストランへ向かう高揚感は、例えようがない。

宮廷料理とはいえ、たった二人ということもあり、僕らはたくさんのお客で賑わうフロアのテーブルに通されることを予想していた。台北に数あるレストランの中でも、辰園はそれなりに有名だ。特に宮廷料理(ミニ満漢全席)を供するのはここだけである。受付で予約をしている旨を告げると、僕らは個室へ案内された。僕たち二人のためだけに用意された部屋。清王朝の宮廷衣装を纏った給仕。なんかもう、部屋に一歩踏み込んだだけで、胸がいっぱいになってしまった。


扇子には、今夜のメニュー10品のお品書きが並んでいた。
中華料理にあう白ワインをボトルで注文して、幸福な晩餐は始まった。

2011年台湾旅行記-7

MRT台北駅に戻り、僕らは新光三越の中をうろついた。もちろんブランド品なんかを買うつもりなどはなく、目当てはお土産用のパイナップルケーキだ。そして、三越の大きな紙袋をぶら下げて、僕らはシェラトンまで歩く。晩ご飯までしばらく時間がある。今日も足つぼマッサージに行っても良いが……「茶芸はどう?」と彼氏が言う。シェラトンの裏手にある"徳也茶喫館"に行く。

明朝の端正なアンティーク家具が用いられた古風なイメージの店内は、とても落ち着いた空気が流れている。お茶を淹れる際の湯気が店内の空気をしっとりとさせているのかもしれない。日曜日なので、お菓子付きのお得なセットはなかったけれど。

僕が選んだのは凍頂烏龍茶。彼氏が選んだのは金萱茶。凍頂烏龍茶の味と香りはだいたい予想できるものだが、彼氏の選んだ金萱茶は甘い香りのするお茶だった。知識のない僕は「うーん、クッキーの匂いがする」と表現したが、お茶の解説本によるとココナッツやバニラのような香りがするというので、あながち外れではなかったと思う。

お茶は個別のポットに入れて供することもできたが、彼氏が「じゃあ茶芸でやってみる?」と得意そうな顔をしたので、お願いしてみた。僕は初体験だ。アルコールランプで温められたお湯を、中華式の小さな茶壺(急須)に注いで、香りを楽しむ。うちの彼氏は、僕がやってみたいことをなんでもやりこなしてしまう。真剣なまなざしでお湯を注いでいる姿が、かわいらしくて仕方がない。


幸せなゲイカップルがお茶を楽しんでいると、となりのテーブルから「……あ、でも日本語話してるわよ!?」と声がする。年配の女性3人と若い女性の4人がチラチラとこちらを見ているので、日本人ですよ、と声をかけてみた。彼女らも茶芸をやってみたかったのだそうだが、テーブルを見ると個別ポットだった。確かに残念だろう。彼氏の手つきを興味津々で眺めている。

彼女らはシェラトンに泊まっているという。僕らもシェラトンだというと、そうなんですか?と少し驚かれた。まだお若いのに……と言うので、あー、僕は43歳になるんですよと告げると、また驚かれた。若造のくせにシェラトンに泊まっているのかと思われていたようだ。彼氏と苦笑する。

彼女らはツアーで台北に来ているらしく、フリーの今日は烏来に行っていたという。僕らも烏来にいましたよと告げると、また驚く。どこかですれ違っていたかもしれませんねと笑いがこぼれた。

彼女らも明日帰国なので、今夜最後の晩餐を決めかねていたらしい。台北駅のフードコートに行くつもりだというので、最後の晩餐はロマンティックディナーでもどうですか?と言ってみた。今夜のご飯を予約してなかったら、ご一緒してもよかったのかもしれないが、今夜は特別の晩だから黙っていた。

"徳也茶喫館"を出たのは16:00をだいぶ過ぎた頃だった。ご飯の予約は19:00だったので、シェラトン17階にあるサウナと大浴場で、日中の埃を洗い落とした。この施設を初めて使ったけれど、設備は良く整えられていて快適だった。窓の外は紫色からやがて宵闇に覆われ、台北駅のネオンが白く輝き出す様子をジャグジーバスから眺めていた。ディナーに備えて風呂に入るなんて、ちょっと贅沢な気分だ。部屋に戻り、ドレスアップしてから、彼氏が予約してくれたシェラトン地下にある辰園(広東料理)に向かった。

2011年台湾旅行記-6

新店駅からバスに揺られて、僕たちは烏来(ウーライ)を目指す。MRT駅前からバスに乗り、終点まで乗って行く。はじめバス停が分からずウロウロしたけれど、大通り沿いに行列のできているバス停があり、行き先を確かめると烏来行きだった。近代的なデザインのMRT駅からスタートして、バスは約30分、山奥に向かってズンズン分け入って行く。乗り物酔いしやすい人はちょっと注意した方がよいかもしれない揺れだ。

バスの終点は烏来の町外れにある。観光大橋を見上げ、エメラルドグリーンの川面を眺めながら、中心地の烏来老街へと進む。鄙びた温泉街だ。


道の両側には土産物屋、飲食店、温泉宿、そしてソーセージなどを焼いている屋台がたくさんある。タイヤル族独特の食べ物を出している料理店もあるようだ。

道の突き当たりに橋が架かっている。橋を越えたところに、烏来のトロッコ駅がある。


小さなトロッコに揺られ、山を登る。トロッコの終点には烏来瀑布がある。そこからさらにロープウエイが出ていて、烏来瀑布公園に続いている。


山腹のロープウェイ駅は、山岳地帯独特のひんやりとした空気に包まれていた。ここから烏来瀑布公園へ続く階段が伸びている。二人ともヒーヒー言いながら階段を上り、雲仙楽園に到着。たまたまタイヤル族の伝統舞踊が披露されている時間にぶつかり、人混みに混じって見物する。


再びロープウェイに乗り、烏来瀑布の写真を撮ってから、トロッコに揺られて下山。マイナスイオンに満ちている渓谷は、きっと健康には良いのだろう。


烏来老街に戻ってきて、僕らは屋台で山猪肉を買って食べてみた。鋏で細切りにしてくれたものを串でつまみ上げながら食べる。カレーパウダーを振ってあるので、猪の臭みみたいなものはない。

烏来と言えば温泉。水着着用は面倒なのですっぽんぽんでOKな烏来温泉「国際岩湯」で入浴。肌がつるつるになる良泉で、水圧でぶっ倒されそうな勢いの打たせ湯を体験したりなど。温泉から上がり、近くの食堂で彼氏推薦の魯肉飯を楽しんで、烏来を後にした。

2011年台湾旅行記-5

ちょうど一週間前の日曜日の朝、僕らはシェラトン台北から台北駅に向かって歩いていた。雨が降るかもしれないという天気予報が外れて、とてもさわやかな風が吹いている。日向では少し汗ばむけれど、日陰に入るとすぐに冷涼な空気に包まれる。

台北では朝ご飯が無料でついているホテルが多い。シェラトンは朝食が別料金。ここのビュフェは品数が豊富であると地元民にも知られている。だけど、彼氏は旅行計画段階から、小吃で食べる台湾式ハンバーガーに行きたいと言っていた。彼氏は一日早く台北入りしていたから、もう台湾式ハンバーガーを食べたのか?と尋ねてみると、寝坊して、お目当ての店では食べられなかったと言う。それじゃ、朝ご飯は台湾式ハンバーガーを食べてみることになった。

シェラトンを出て、煉瓦造りの監察院の脇を通り、広い交差点を渡る。忠孝西路沿いにあるセブンイレブンをちょっと超えた先に、アリエッティのような風貌の小姐が、熱した鉄板の上で大ぶりなへらを振るっている店があった。

ここで、台湾式ハンバーガー(割包)を注文する。僕は他の客が頼んでいた炒め麺が気になった。台湾でよく見かける平たい細麺に、味噌のようなタレをまぶして炒め、そこに卵をぱっとのっけている。「あれが食べたい……」彼氏に相談するも、どのメニューか分からない。「あのお客が頼んだやつ」と身振り手振りで伝えると、焼麺というものらしい。

レモンジュースと、ハンバーガー、そして焼麺を注文してテーブルに座る。初めての小吃。僕たちは細い間口の先に、路線バスが走って行く様子を眺めている。休日の朝の光に包まれた街の風景は、どこかのんびりしている。小吃から眺める風景は、僕にとって初めての経験だった。初めての経験と言えば、彼氏も僕と一緒にいると時々初めての経験を強いられるらしい。今回も僕が「あれが食べたい!」とねだるので、初めて食べてみたよと笑っている。

薄甘くてさっぱりとしたレモンジュース。


焼麺。お好み焼きソースのような甘く濃いめの味付けでなかなかおいしい。


台湾式ハンバーガーは、不思議な味だった。アメリカ式ハンバーガーとの違いをなんと表現したらよいのだろうか……ああそうだ、アメリカ式ハンバーガーのネギはハンバーグの中に入っている。台湾式はネギの細切りと香草がハンバーグの外側にあって、それが不思議にアジア的な風味を醸し出している。パンズは包子のようなフニフニの柔らかさ。これは癖になるうまさだ。

ハンバーガーだけだと少しお腹が空いたかもしれないが、焼麺でちょうどいい感じ。機嫌良く小吃を出て、MRT台北駅からMRT新店駅まで地下鉄で移動した。

2011年台湾旅行記-4

MRT士林駅から地下鉄に乗った僕らは、台北駅で板南線に乗り換えて、西門町で下車する。台北のゲイシーンは、ここ西門町と、Club FUNKY、そして中山北路付近にあるゲイバーだ。MRT西門町駅で下車し、日本統治時代の煉瓦造りの建物「紅楼」を目指す。その裏手の広場一帯が、ゲイたちの集まる場所だという。


一見、普通のオープンカフェのように見える。女性や、男女カップルもいるし、もちろん男同士のカップル・グループも多い。よく観察すると……ああ、なるほど。来るたびに洗練されている姿に驚かされる台北だけど、まだまだ一般人は「野暮ったい」。
ゲイエリアで分かるのは、皆、シャワーを浴びてきたばかりのようにこざっぱりとしていて、ファッションも洗練されている。髪なんかは1週間以内に美容院に行ってきたばかりでしょ?みたいなのだ。日本国内ではノンケとゲイのファッション格差はほぼ無くなっているけれど、台北ではまだまだ格差は大きいようだ。

それぞれカクテルを頼み、おまけにアイスクリームを頼んでみた。アルコールを飲みながら周囲を見上げると……。


ああ、やっぱりここはゲイエリアなんだなーと苦笑してしまった。
お互いニコニコしながら、おしゃべりを楽しむ。暑くもなく寒くもない、秋の初めのような気候はさらりと肌に優しく、僕らは夜風に吹かれている。

それでも二人とも前夜の寝不足と、今日初めてのアルコールで程なくグダグダになる。長居せずに引き上げた。地下鉄に乗って、シェラトン台北に戻る。ライトアップされたエントランスが美しかった。

2011年台湾旅行記-3

以前、ひとり旅で台北を訪ねたときは、士林観光夜市にも足を伸ばしてみた。だけど行ったことのある人たちは分かってくれると思うが、美食広場でなにかを食べるのはなかなか勇気がいる。メニューは漢字で書かれているから、ガイドブック片手にがんばれば食にありつくことはできるだろう。だけど……あの人混みの中は、かなり勇気がいるぞ。

そんな美食広場の中を、ヒョイヒョイと彼氏は飛び込んで行く。僕は彼に手を引かれるようにその人混みの中をついて行く。食べるものは彼氏にお任せ。そして今回知ったのは、夜市は1皿だけ頼んで次々と店を梯子するという楽しみ方があることだった。

夜市での一皿目。
彼氏がお勧めの蚵仔煎(牡蠣のオムレツ)。


ハフハフと口に運びながら、漢字看板の溢れる不思議な空間を眺めた。
もう一品、ビーフンを食べてから撤収。


市場の中を移動して、またまた彼氏お勧めの一品に到着。


こちらは官財板(シチュー入り揚げパン)。
厚切りの食パンを軽く油に潜らせ、おじさんが器用にナイフを振るってパンを切り開く。その中にシチューを詰め、蓋をして完成。


再び移動。漢字の海を泳ぎながら、行き着いた先で四川風ワンタンと台湾担仔麺。


すっかりお腹いっぱいになって、美食市場から退散。

もう1軒、彼氏は行きたい先があるという。ローマの"真実の口"以来、旅先で思い残しを作らないようにしたいと僕は考えるようになった。喜んで彼氏にくっついて芋洗いのようにごった返す道を歩く。彼氏が言うには「まだ時間が早いからこんな状態だけど、そのうち道の真ん中にワゴンが出て大変なことになる」らしい。道中、2、3箇所でワゴンが道の真ん中に置かれていて、人の流れを遮っていて大変だった。


目的の胡椒餅を売る屋台にたどり着いて、彼氏がお買い上げ。僕は満腹で食べれなかったけれど。歩き食いしながら一駅先のMRT士林駅から再び地下鉄に乗る。