青の洞窟を出て、アナカプリまで 2011年欧州旅行記-27

ボートから船着き場に降りた僕らは、夢見心地のままフラフラと階段を登った。この世のものとは思えない世界にいたような不思議な興奮と、そして気まぐれな天候次第と言われていた青の洞窟見物に無事成功した安堵感から、しばらくの間腑抜けになっていた。アナカプリへ戻るバス停近くにあるカフェで、とにかく一休みした。レモン味のアイスバーを囓りながら、海と、時折観光客をはき出しに車が現れる小さな広場を見遣る。青の洞窟に入る前は、とにかく「入れるか、入れないのか」だけしか考えていなかったから、周囲の風景もろくに見ていなかったのだ。例えば、これが青の洞窟の最寄りバス停。簾の日よけが被せられていたことに改めて気づいた。この場所は崖の上の高台で、遠く水平線まで望むことができる。


ナカプリへは、再び小さなバスに乗る。最初は座っていたけれど、お年寄りに席を譲って、僕は立ったまま、窓の外を流れてゆく景色を眺めていた。マリーナグランデからアナカプリまでは道路もずいぶん混雑していたが、青の洞窟とアナカプリの間は、地元住民たちがのんびりと暮らす静かなエリアだった。目の前に10代前半の若い女の子を連れた一家がいたが、さすがに美人だと思う。美人の多い国は、芸術も発達するんだろう。

アナカプリの小さなバスターミナルで下車し、町のメインストリートを歩いてみることにした。白い壁と、ブーゲンビリアの花がよく似合う小路を進む。通りの両側には土産物屋、レストランが軒を連ねている。


時間はちょうど11:30近く。僕らも昼食はアナカプリで摂ることにする。
ガイドブックに載っていたピッツアリアはどうも営業している感じがしない。道沿いに歩いて行くと、一軒の白壁のピッツアリアがあった。Light Lunchがけっこうお値頃。店のガランと人気がなかったが、中に入ってみると主人が出てきた。「開店時間前だが、かまわないよ。どうぞどうぞ」と招き入れられた。テーブル席では、スタッフたちが賄い飯を食べている最中。僕らは窓際の明るい席に通された。


僕が「とにかく、ワインを頼もう」と切り出すのはめずらしい。青の洞窟の興奮で、妙に動悸を感じたからだった。ひょっとしたら軽い熱中症にかかっていたのかもしれない。ワインとミネラルウォーターを注文する。パンをかじりながら冷たい白ワインで一息ついていると、主人がこの店をどこで知ったと尋ねてくる。僕らのもっているガイドブックを手に取ると、「うちはLe Arcateの系列店。今日はあちらが休みなんだよ」と言う。そのLe Arcateこそ、僕らが最初に行こうとしていたピッツアリアだったのだ。まったく僕らは運がいい。


新鮮なトマトを使ったサラダ。ちょうど野菜不足を感じていたのでうれしい。日本の野菜とはちがう、露地栽培のなのか、本当に青臭い、野菜野菜した一皿だった。この頃になると、ドイツ人を中心とする団体旅行客の一団が入店したり、その他、カップルが何組か来店して満席になった。まったく僕らは運がいい。


メインはピッツアか、パスタ。僕はピッツアを頼み、彼氏はパスタを選んだ。
ふっかふかのナポリタイプのマルゲリータ。とろっとろのモッツアレラチーズに、酸味の効いたトマトソースがベストマッチング。一人で食べ切るにはやや辛かったが、もちろん完食する。彼氏もパスタをなんとか胃袋へ送り込んで、二人でふ〜っとため息をついているとデザート。もう食べられないよ、と思いきや、マスカルポーネチーズにエスプレッソパウダーのかかったアイスクリームは、めちゃめちゃおいしい。甘いものは別腹別腹と二人で笑いながら、無事完食した。この陽気でご機嫌なピッツアリアの名前はAl Buco。トンマーソ・デ・トンマーソ通り沿いにある。

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