新潟加島屋の"さけ茶漬け"

昨日、広告代理店と打ち合わせをするために三越前にいた。
打ち合わせ自体は1時間ほどで終わって、17時の時報を聞きながら僕は地下鉄の入り口をめざして歩いていた。マンダリンオリエンタルの影が落ちて、逆光になった夏の空が印象的な青さだった。ふと「鮭買って帰ろう」とライオン像を見て決めた。

今でこそ都内のあちこちで買えるようになってしまったのだが、"新潟加島屋"の"さけ茶漬け"は三越でしか手に入らない食通好みの手みやげだった。一般に連想されるようなカサカサの鮭フレークとはまったくちがう。鮭の身をていねいに焼き上げて、ほぐしたところに焼酎が振りかけてあるんだろう。その身はしっとりとやわらかく、味わい深い。加島屋の手提げ袋を見かけると、僕のお腹はグーッと鳴るんだ。酒の肴に一口二口つまむのも良い。

さて。
僕がアメリカでステイしていた先は、カリフォルニア出身の日系二世の家だった。けっこう有名な家で、さまざまな日本人が出入りしていた。お金を一切受け取らない方だったので、ツテがなければ泊めてもらうことはできず、泊まった翌日からは家人と同じように家事手伝いを肉体労働(?)でお返しすることになっていた。肉体労働といっても、その動作を通じてアメリカの文化習慣を学ぶわけで、部屋で放置されているよりかはむしろありがたい経験だった。
お金は受け取ってもらえないので、日本からの訪問者はいろいろと手みやげを持って行った。お茶、せんべい、缶詰、お菓子……変わったところでは森永のホットケーキミックスとかもあったな。けっして贅沢な暮らしをしている人たちではなかったが、けっこう味にはうるさい人たちだった。彼らが認めてくれる数少ないアイテムの1つが"加島屋のさけ茶漬け"だった。これは何度もリピートしている人たちじゃないと知り得ない必殺アイテムで、けっこうなポイント稼ぎだった。

日曜日。みんなで寝坊した朝は手抜きブランチになった。
前日、肉厚の鍋で炊いたご飯はわざと冷やしてある。そこにどっさりと"さけ茶漬け"を惜しげなく乗せて食べる。韓国人街から買ってきたお豆腐で作った味噌汁と、また手みやげの"近為の柚こぼし"があれば、それを箸休めにして。ブランチはそれだけ。ほんとうに質素。

パンケーキを焼く日もあったけれど、もう一つ名物料理(?)があった。
あれは料理と言ってよいものか……戦争が終わっても、財産を没収された日系人たちはとにかく貧しかった。そのときよく食べたご飯だと言っていた。
まずベーコンをじっくりと炒める。米国系ホテルのブレックファーストで出てくるような干物みたいにカリカリなベーコンに仕上げる。肉と脂は別々にして、脂はほかの料理の味付けに使うために取っておかれていた。
ベーコンが焼き上がったらその上に卵を落として、半熟目玉焼きを作る。大きめの平皿にご飯を適量盛って、その上に目玉焼きをのっける。粗挽きコショウを強めに振り、醤油を適量かけて食べる。半熟卵にフォークを入れればトロッと黄身が出てくるので、それをご飯にまぶして食べる。日本の卵かけご飯+αと言ったところか。

僕は半熟卵が苦手だったので、ご飯にカリカリベーコンだけ乗っけて醤油をかけて食べる。それを僕は「ベーコン飯」と呼んだ。案外クセになる味だと思う。

あれから長いことメインランドを訪ねていないけど、朝寝坊した週末、「ベーコン飯」を口に運びながら、Interstate を飛ばしていたあのころを思い出す。

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