さてと、紀伊國屋から届いたゆうパックを開封して、最初に取りかかったのがこの作品。というか、この順番で読んでつくづく良かったと思う。
「このBLがやばい 2014」のランキング第5位の作品。
秀良子『宇田川町で待っててよ。』
渋谷区宇田川町。
人通り多い街中で、同級生・八代の女装姿を目撃してしまった百瀬は、その日から毎日、「あのこ」のことを考えてしまう。
一方、そんな百瀬の様子に戸惑いつつも、熱の籠もった目線をそらせない八代は渡された女子高の制服に袖を通し、彼の前に立つが……。
臆病な女装男子と、一途すぎる男子高校生の不器用で青いラブストーリー。
これから"宇田川町で待っててよ。"、"スメルズライクグリーンスピリット"と女装ものが2本続く。最近のBLは女装が流行っているのかな!?
正直、ゲイあるいは同性愛者は差別される対象だと思う。もちろん、世界の状況に比べれば日本は遙かにましだけど、それにしたって身近な人が同性愛者だと分かったら、周囲は相当困惑するだろう。テレビカメラの向こう側に棲んでいるオカマたちは、遠くにいるからみんな安心して笑っていられるのだ、というのも一つの真実だ。
そのマイノリティな同性愛者の中で、さらに差別の対象になっているのがいわゆる「女装子」。「女装子はキモイからあっちいけよ!ぶーす!!」くらいのことは平気で言われて差別される。というか、オレも若い頃、平気で言ってました(ごめんなさい)。本格的なニューハーフさんとちがい、ただのゲイの女装は汚いんだよ、正直なところ。そんな風に差別されても女装を貫き通す女装子たちの強さったら、尊敬されてもいいものなんだけど。
で、"宇田川町で待っててよ。"を一読して、これはボーイズラブにつきまとっているジェンダー論一派に対するカウンターアタックなのかなって思った。もちろんジェンダー論は幅が広くて、例えば古い時代だと左翼が絡む社会的な立ち位置の性差が問題とされて「男女共同参画」みたいな主張が強かったし、それが進んで「男の子らしい、女の子らしい色使い」までも差別であるというキチガイが現れたりして。いまでは胡散臭いキチガイ集団っていうイメージだ。キチガイは言い過ぎでも、とにかく何でも噛みつくめんどくせーヤツらという感じかな。
男は実は女なのに、男の振る舞いをさせられている、というのが生物学的には正しく、「男らしくしろ!」という強制は多分に歴史・文化的な経緯で「そうなっている」に過ぎないわけで。
女装子の八代が女装に目覚めたのは、つきあっていたバカな彼女に女装させられたのがきっかけ。八代はもともとそういう性癖だったのかもしれない。だけど、女装という「型」が与えられて、八代の中の「オンナ的」な部分が現れてきたわけで。乙男(オトメン)どころか、男がオンナに化けるきっかけなんて、ほんと些細なことなのかもしれないね。
このマンガがすごいのはさ、女装した八代に勃起する百瀬と、勃起している百瀬に興奮して勃つ八代がいるわけ。昔のBLだったら「オレはホモじゃない。××が好きなだけなんだ」っていうOnly one思想があったけどさ、「宇田川町で待っててよ。」だと、欲情の対象すら男女の絶対性差じゃなくて、ただ二人の関係性と「ポジショニング」に過ぎないということになってしまう。ジェンダー云々どころじゃない、かなりラディカル。
八代は最後に、こんなモノローグを残す。
『俺が本当に恐れたもの
戻れない
俺はきっとこいつに
泣いて
あえいで
みっともなくすがって
「入れてくれ」と懇願する日がきっとくる』
以前、SM嬢にアナル開発されるうちに「本物」が欲しくなってしまったノンケたちの心の揺れ動きを読んだことがあるけれど、まさに、こんな感じだった。ジェンダー運動家らの想像を遙かに超えて、リアルは本当にすごいと思った。ホモじゃないけれど「抱かれている間はオンナになれる」と告白する彼らの声を聞いて、(社会的)ジェンダーとか、性差がいかに曖昧なものなのかと思わずにはいられなかった。
1.絵柄
正直、あまりうまくない。
デビューしたての吉田秋生だって、これよりは上手かった。
でもまあ、なんか吉祥天女を連想したなあ。
2.ストーリー
けっこう深い、問題作だと思う。
八代はさ、百瀬を怖がるんだよ。その恐がり方は、たぶん女の子の感覚のそれと同じで。女の子はやっぱり男が怖いんだなあと感情移入してしまった。
3.エロ度
それなりにエロいが、オレは女装子を組み敷く趣味がないんで、そこら辺はスルー。
4.まとめ
「宇田川町で待っててよ。」は木原音瀬の「美しいこと」の逆を行く作品だと思う。エンディングでは女装した八代と百瀬がデートするところで終わっているので、ゲイになったのは八代で、女装子好きの百瀬は異性愛者かもしれないわけで、いまいちすっきりとした終わり方ではないかも。八代の心の動きが一番の見所。
絵柄 :★☆☆☆☆
ストーリー:★★★★☆
エロ度 :★★★☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)
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