人間五十年 化天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり

昭和16年に制定された「人口政策確立要綱」というものがあって、これは昭和35年に内地人口(当時は朝鮮半島や樺太などの外地があったからね)を1億人にすることを目標とした人口増加政策でした。

総務省のデータをつまみ食いするとこんな感じ。

明治5年(1872年) 34,806 → 明治44年(1911年) 49,852
大正元年(1912年) 50,577 → 大正14年(1925年) 59,737
昭和元年(1926年) 60,741 → 昭和16年(1941年) 72,218

で、人口が1億人を超えるのは昭和42年(1967年)なんですね。
2,800万人増加させるのに26年かかったわけです。

ただこの数字には、からくりもあると思うんです。
それは医学と公衆衛生の発達による、平均余命の伸びが背後にあるからです。

ちょっとデータを見てみます。
0歳時の平均余命が一番参考になるかと思います。

年度      男    女
明治24~31年 42.80歳  44.30歳
明治32~36年 43.97歳  44.85歳
明治42~大正2年 44.25歳 44.73歳
大正10~14年 42.06歳  43.20歳
大正15~昭和5年 44.82歳 46.54歳
昭和10年   46.92歳  49.63歳
昭和22年   50.06歳  53.96歳
昭和25~27年 59.57歳  62.97歳
昭和30年   63.60歳  67.75歳
昭和35年   65.32歳  70.19歳
昭和40年   67.74歳  72.92歳
昭和45年   69.31歳  74.66歳
昭和50年   71.73歳  76.89歳
昭和55年   73.35歳  78.76歳
昭和60年   74.78歳  80.48歳
平成2年    75.92歳  81.90歳
平成7年    76.38歳  82.85歳
平成12年   77.72歳  84.60歳

グロスの人口が減るのは、平均余命の伸びが鈍化したこと、すでに既知の通り出生率が下がったことが組み合わさり、戦後のベビーブームの人たちがそろそろ鬼籍に入る年頃となればどうしたって減るに決まっている。

僕が物心ついてから「少子高齢化」「年金破綻問題」「社会保障費増大問題」がいつも叫ばれていましたが、あらためて驚くことに、昭和22年以前は0歳時の平均余命は50歳未満で、シャレじゃなくて「人間五十年 化天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり」(敦盛) ですらなかったわけです。少なくとも「高齢者」は問題になりようがなかった時代だったと思われます。昭和22年といったら1947年。信じがたいところですが、たった65年前の話なわけです。

人口問題は、経済面だけではなくて、腰をすえて考える必要がありますね。

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人口政策確立要綱【閣議決定】

大共栄圏の確立を目標として歴史的巨歩を踏み出したわが国はその東亜における先導者たる使命達成のため今や急激かつ永続的な人口の量的ならびに質的の飛躍的発展増殖が要請せられるにいたり右人口政策の確立につき企画院、厚生省が中心となり研究中であったが成案を得るにいたり政府は昭和三十五年内地人人口一億を目標とする人口政策確立要請案を二十二日の臨時閣議に付議、星野企画院総裁より要案の説明をなし金光厚相、石黒農相、橋田文相および東条陸相より人口政策確立の適切急務なる百発言あり正式閣議決定をなした、しかして政府は右確立要綱に本づき急速施策を実施し日本民族の悠久なる発展を期するとともにその人口配置の適正化をはかり東亜における指導力確保の不動国策の達成に邁進することとなった、要綱中特に注目すべきは人口増加の方策として出生増加のため今後十年間に婚姻年齢を現在よりおよそ三年早め一夫婦の出生数平均五児(現在平均四児)を基本目標としこれが方策として婚資貸付制度、独身税、家族負担調整金庫制度(仮構)などを取上げている点および国土計画の一環として人口の産業的、地域的分布の再編成のため農村人口の一定保有、大都市の地方分散を企図している点である
しかして政策は同日人口政策確立要綱および右に関する金光厚相および伊藤情報局総裁談を発表した
人口政策確立要綱

第一 主旨
東亜共栄圏を建設してその悠久にして完全なる発展をはかるは皇国の使命なり、これが達成のためには人口政策を確立して我国人口の急激にしてかつ永続的なる発展増殖とその資実の飛躍的なる向上とを計るとともに東亜における指導力を確保するためその配置を適正にすること、特に喫緊の要務なり

第二 目標
右の主旨に本づきわが国の人口政策は内地人人口につきては左の目標を達成することを旨とし差当り昭和三十五年総人口一億を目標とす、外地人人口につきては別途これを定む

一、人口の永遠の発展性を確保すること
二、増殖力および資実において他国を凌駕するものとすること
三、高度国防国家における兵力および労力の必要を確保すること
四、東亜諸民族に対する指導力を確保するためその適正なる配置をなすこと


第三
右の目的を達成するためとるべき方策は左の精神を確立することを旨としこれを基本として計画す

一、永遠に発展すべき民族たることを自覚すること
二、個人を基礎とする世界観を排して家と民族とを基礎とする世界観の確立徹底を計ること
三、東亜共栄圏の確立発展の指導者たるの矜持と実務とを自覚すること
四、皇国の使命達成は内地人人口の量的および質的の飛躍的発展を基本条件とするの認識を徹底すること

第四 人口増加の方策
人口の増加は永遠の発展を確保するため出生の増加を基調とするものとし併せて死亡の減少を諮るものとす
一、出生増加の方策
出生の増加は今後の十年間に婚姻年齢を現在に比し概ね三年早むるとともに一夫婦の出生数平均五児に達することを目標として計画すこれがため採るべき方策概ね左の如し

イ、人口増殖の基本的前提として不健全なる思想の排除につとむるとともに健全なる家族制度の維持強化を計ること
ロ、団体または公営の機関などをして積極的に結婚の紹介斡旋指導をなさしむること
ハ、結婚費用徹底的軽減を計るとともに婚資貸付制度を創設すること
ニ、現行学校制度の改革についてはとくに人口政策との関係を考慮すること
ホ、高等女学校および女子青年学校などにおいては母性の国家的使命を認識せしめ保育および保健の知識技術に関する教育を強化徹底して健全なる母性の育成につとむることを旨とすること
ヘ、女子の被傭者としての就業については二十歳を超ゆるものの就業をなるべく抑制する方針をとるとともに婚姻を阻害するがごとき雇傭および就業条件を緩和または改善せしむるごとく措置すること
ト、扶養家族大きものの負担を軽減するとともに独身者の負担を加重するなど租税政策につき人口政策との関係を考慮すること
チ、家族の医療費、教育費その他の扶養費の負担軽減を目的とする家族手当制度を確立すること、これがため家族負担調整金庫制度(仮構)の創設などを考慮すること
リ、多子家族に対し物資の優先配給、表彰その他各種の適切なる優遇の方法を講ずること
ヌ、姙産婦、乳幼児などの保護に関する制度を確立し産院および乳児院の拡充、出産用衛生資材の配給確保その他これに必要なる諸方策を講ずること
ル、避姙、堕胎などの人為的産児制限を禁止防遏するとともに花柳病の絶滅を期すること

二、死亡減少の方策
死亡減少の方策は当面の目標を乳幼児死亡率改善と結核の予防とにおき一般死亡率を現在に比し二十年間に概ね三割五分低下することを目標として計画す、この目的達成のためとるべき方策概ね次のごとし

イ、保健所を中心とする保健指導網を確立すること
ロ、乳幼児死亡率低下の中心目標を下痢、膓炎、肺炎および先天性弱質による死亡の減少におきこれがため都市、農村を通じ母性および乳幼児の保護指導を目的とする保健婦をおくとともに保育所の設置、農村隣保施設の拡充、乳幼児必需品の確保、育児知識の普及をはかり併せて乳幼児死亡低下の連動を行うこと
ハ、結核の早期発見に努め産業衛生ならびに学校衛生の改善予防ならびに早期治療に関する指導保護の強化、療養施設の拡充などをなすとともに各県連絡調整の機構を整備して結核対策の確立徹底を期すること
ニ、健康保険制度を拡充強化してこれを全国民に及ぼすとともに医療給附のほか予防に必要なる諸般の給付をなさしむること
ホ、環境衛生施設の改善特に庶民住宅の改善をはかること
ヘ、過労の防止をはかるため国民生活を刷新して十分なる休養をとり得ることとすること
ト、国民栄養の改善をはかるため栄養知識の普及徹底をはかるとともに栄養食の普及、団体給食の拡充をなすこと
チ、医育機関ならびに医療および予防施設の拡充をなすとともに医育を刷新し予防医学の研究および普及をはかること

第五 資質増強の方策
資質の増強は国防および勤労に必要なる精神的および肉体的の資質の増強を目的として計画す

イ、国土計画の遂行により人口の構成および分布の合理化をはかること、特に大都市を政開し人口の分散をはかること、これがため工場、学校などは極力これを地方に分散せしむるごとく措置するものとす
ロ、農村はもっとも優秀なる兵力および労力の供給源たる現状にかんがみ内地農業人口の一定数の維持をはかるとともに日満支を通じ内地人人口の四割はこれを農業に確保するごとく措置すること
ハ、学校における青少年の精神的および肉体的錬成をはかることを目的として教科の刷新を行い訓練を強化し教育および訓練方法を改革するとともに体育施設の拡充をなすこと
ニ、都市人口激増の現状にかんがみ特に都市における青少年の心身錬成を強化してこれをして優秀なる兵力および労力の供給源たらしむること
ホ、青年男子の心身鍛錬のため一定期間義務的に特別の団体訓練を受けしむる制度を創設すること
ヘ、各種厚生体育施設を大量に増加するとともに健全簡素なる国民生活様式を確立すること
ト、優生思想の普及をはかり国民優生法の強化徹底を期すること

第六 資料の整備
一、人口動態および静態に関する統計を整備改善すること
二、国民体力法の適用範囲を拡張しその内容を充実するとともにその他の体力および保健に関する資料を整備充実すること

第七、機構の整備
一、人口問題に関する統計調査研究の機構を整備充実すること
二、人口政策の企画促進および実施の機構を整備充実すること

出典:大阪朝日新聞 1941.1.23(昭和16)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10000848&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1

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