北紀行 2012(9) ねぶたエクスプレスに乗って函館へ

ねぶた祭りがクライマックスに向かって盛り上がってゆく中、僕はそっと桟敷を離れた。時刻は20:30を少し過ぎた頃、青森駅に向かって歩き出した。奥州街道を西進し、何台ものねぶたと跳人たちを追い越した。ねぶたは青森県庁のある交差点で、奥州通りから八甲通りへと右折してゆく。交差点にはTVカメラのクレーンが出ていて、たくさんの立ち見客たちで溢れている。

八甲通りは混雑しているので、僕は一つ先の夜店通りを歩いた。建物に反射したねぶた囃子が遠くに聞こえる。交差点で道が切れると大きく響いてくる。それを何回か繰り返し、新町通りにぶっかったところで左折し、青森駅へ向かった。ここに来ると、祭りの音は聞こえてこないはずなのに、しばらくの間、僕の耳には夢のように、あのお囃子とらっせーらー♪のかけ声が響いていた。

コインロッカーから荷物を取り出し、コンビニでお弁当を買って、臨時特急ねぶたエクスプレスを待った。21:00を過ぎると続々と人が駅に集まってくる。跳人の衣装を纏った若い子らが野辺地方面に向かう普通列車を目指して駆け込んでくる。





ねぶたエクスプレスのホームには、JR北海道のツアーバナーに率いられた団体などが何組かと、あとは一般客たち。みどりの窓口に相談したときは、企画列車だから一般人はチケットを取りにくいのではないかと言われていたけれど、思ったよりは一般客がいるように思った。僕が乗った車両は、乗車率90%は超えていたように思う。たった6両の全席指定の臨時特急は、予定より数分遅れて青森駅をあとにした。

ねぶたエクスプレスが走りだすと、僕はお弁当の包みを開いた。とりめしと冷たい緑茶と。なんか祭りの余韻でぼーっとしていたので、あまり味は覚えていない。



車窓は暗闇の中にポツポツと人家の明かりがみえるだけ。
やがてねぶたエクスプレスが青函トンネルに突入する頃には、乗客のほとんどは眠りに落ちてしまい、車内はしわぶき一つない静かさだった。途中、木古内駅に停車したところで何人かの乗客が下車していった。初めて上陸した北海道。併走する国道228号線の先には真っ黒な津軽海峡、そして函館湾が広がっている。

ねぶたエクスプレスは、五稜郭駅で乗客の半分を下ろし、そして終点函館駅に到着した。ホームに降り立ったとき、ひんやりと冷たい空気に身震いした。



近代的にデザインされた駅舎を出ると、駅前ターミナルは暗闇に沈み込んでいた。乗客たちはあっという間に散ってゆき、ぽっかりとさみしい空間に僕は取り残された。

もう少しで日付が変わる頃だった。今夜の滞在先のコンフォートホテルは、すぐに見つかった。宿泊カードにサインしながらスタッフに尋ねると、僕が今夜最後のチェックイン客だという。部屋に入って、やっと人心地付いた。荷解きをしている間、なんども鈴が鳴った。その度に、数時間前の祭りの喧噪が蘇ってくるのだった。


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