北紀行 2012(5) トランス状態の街…ねぶた祭りが始まるまで

ねぶたの家ワ・ラッセを出て、僕はふたたび青森駅に戻ってきた。このベイブリッジはフォトジェニックなデザインに仕上がっている。青森の「A」を象っているのだという。なるほどなあ。


それにしても、これから大きな祭りが催される最寄り駅とは思えない平静さ。僕は首をかしげながら、まずは桟敷席を予約してある青森市役所前に向かって歩き出した。この時期、派出所も金魚のねぶたを下げて盛り上げに一役買っている。沿道には、金魚のねぶた飾り、跳人が着ける腰鈴、団扇などを売っている屋台が出ている。跳人の衣装レンタル受付中というポスターを何枚も見た。僕も沿道の露天商から、金魚の付いた腰鈴を買った。カメラバックに付けると、シャラン・シャランという涼やかな音を立てる。



新町通りを東進し、緑地帯のある柳町通りを左折。さらにテクテク歩くと本町という大きな交差点に出た。そこには露天の焼き鳥屋、氷を浮かべたクーラーに缶ビールを投げ込んでいる男たち、歩道にパイプ椅子を並べている若い運営スタッフらが忙しそうに動き回っていた。地図の印象とは異なり、駅から結構距離がある。

400人を収容するという青森市役所前の大桟敷は、17:30から開場の予定。時計を確認するとまだ16:15。入り口は市役所駐車場側だというので、念のために覗いてみると、すでに3人の客が行列を作っている。出遅れちゃイケナイと思い、慌ててコンビニでペットボトルのお茶を2本買い、4人目の行列客になった。他の観光客のおばちゃんと世間話をして、時間をつぶす。

夕方になって、やや日差しは柔らかくなったものの、太陽はジリジリと肌を焦がす。それでも湿度は低く、カラッとした気持ちの良い空気。そして、ねぶた祭りが始まる頃にはエアコンいらずどころか、肌寒く感じるほどだった。

17:30になって、大桟敷が開放される。手元のチケットに記載されているブロックの中で自由席。僕は「あ」のグループだったので最前列を確保できた。一人に割り当てられる桟敷のサイズは60cm四方で、荷物が多いと苦労する。そこでポイント!桟敷の中に通路が切ってあるので、最前列の通路脇の席は、実質荷物置き場付きの場所でお得だと思う。僕も靴を置くことが出来てラクをさせてもらった。



大桟敷は、歩道よりちょっと引っ込んだ場所に設置されている。歩行者の頭よりちょっと高い位置から見物する具合になる。周囲のおばちゃんたちに、僕の買い求めた金魚の腰鈴が大人気。金魚が全部真っ赤なものと、僕の買ったもののように赤と白2色で作られているものがあるのだ。赤白2色の方がちょっとカワイイ。「それどこで買ったの?」と質問されることが多かった。

通りはまだ平日モード。クルマで溢れている。
そこに、シャラン・シャランという涼やかな音が混じる。腰鈴を商っている若い男女の売り子たちの姿が徐々に増えてくるからだ。その重なり合う鈴の音が、街をトランス状態に攫って行く。高揚してゆく気持ちを抑えきれない。

隣のおばちゃんたちは売り子を呼び止めては、僕の買った金魚を売っているか尋ねる。探し始めると案外見つからないものだ。おばちゃんらは何組かの売り子をパスしたあと、ふらふらと現れた女の子たちからお目当ての金魚の腰鈴を買うことができたようだ。




浴衣姿の跳人たちの姿が目に付くようになった頃、奥州街道からクルマが締め出された。どこかでドンドンと太鼓を叩く音がする。19:00をまわって、視界の端で静々と曳かれるねぶたの姿を捉えた。


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