雨上がりの夕方に、思いがけず広い空を見つける。

眠りから覚めた電車の中で、少し離れたところにばあちゃんがいた。
席を譲ろうと思って腰を浮かせかけたら、僕の下車駅で、そのばあちゃんも電車から降りてしまった。もうちょっと早く気づいていればなあと思いつつ、ゆっくりと階段を上って行くばあちゃんの後ろについて、人波を避ける支援はする。

若い男性の勢いとは違って、老人の動きは弱々しい。
でも、言葉を変えると、優しい動きと言えなくもない。
なにかを殴ったり、もぎ取ったり、争ったりするには頼りないけれど、人の頭をなでてやるには十分な柔らかさ。そんなことを考えていたら、片膝をたて、僕のワイシャツにアイロンを当ててくれていたばあちゃんの姿を思い出した。ばあちゃんの細い腕が操る古いアイロンはテフロンが剥がれ、布の上を滑らすとキシキシと小さな音を立てた。遠い夏の日の夕方を思い出していたらせつなくなって、鼻の奥がツンとした。

今日は激しい雨が降った後、なんか大気がしっとりとした夕方になった。仕事を切り上げて、東京駅まで歩く。半月来ていない間に再開発工事が進み、日本橋高島屋の横、COREDO日本橋の前に広大な空き地が出現していて、思いがけず広い空を振り仰いだ。

いま、東京駅を覆っていた黒色の大丸デパートビルが撤去されて、新幹線と、丸ビル群と、そして思いがけず広い空を楽しむことができる。もう何年かしたら見ることのできない風景になってしまうのだろうけれど。

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