BL漫画レビュー:山中ヒコ『500年の営み』

『このBLがやばい!2013年度版』で第7位にランクインした珠玉の作品。
"500年の営み"っていうタイトルからして、時空を超えるSF系作品だということは分かるだろうと思う。これがねぇ……えらく泣かされるんだわ。

「あんまり似てなくてごめんね
ーーーーー好きだよ」

亡くした恋人を追って自殺したはずが
250年の冷凍保存の末、
未来世界で目覚めた山田寅雄。      
世話係として起動したアンドロイドは
優しく親身になってくれるものの、
亡くした恋人の〝3割減〟の残念ロボットでーーー?
いじっぱりな青年が愛を受け入れ、
希望を求めて歩き出す、痛切な未来ラブストーリー。
"500年の営み"については、もうすでにたくさんの人が感想を書いているから、ゲイ腐男子が感じたことを書き残してみようか。あんまり参考にはならないかもしれないけれど。

この作品で僕がうるっとさせられたのは2箇所。
そのひとつは、山田寅雄の両親が登場するシーン。
寅雄の父親が勝手だと思うという感想があったけれど、うーん、、、どうかな。現実の世界でも、少なくない数のゲイが両親の期待に応えられなかったという負い目に傷ついている。ごめんね、父さんの期待に応えられなくて。ごめんね、母さんを困らせてしまって。普通じゃなくて、ごめんね。
カミングアウトして受け入れてもらえた!という人生を送っている人たちは、それはそれで幸せなんだと思うけれど、現実はそんなに簡単じゃないからね。





しかも、寅雄は恋人の後追い自殺をして二重の親不孝をしたわけで。
恋人を失い、そして失ってから両親の愛に気づかされたわけで。
両親もいろいろと苦しんでいたわけで、一人息子に先立たれて悲しんでいたわけで。
でも200年前に両親は亡くなっているわけで。
うん。。。。せつない。
泣けてくるわ。

寅雄の前に現れたヒカルB。
死んだ恋人に似せて造られたアンドロイド。
これがさあ、もうあざとい設定でね。
なんでもできるスーパーマンだった元恋人太田光に似せて造られたはずなのに、不器用なアンドロイド。オリジナル3割減のアンドロイド。リンゴの皮むきすら満足に出来ない。いつもごめんねって謝ってばかりいる。




こんな健気なアンドロイドがいたら泣けちゃうでしょう。

「オレ、 太田光にあんまり似てなくて、ごめんね」

太田光に似せて造られたアンドロイドだから、本来オリジナリティはないはずなんだ。だけど、オリジナル3割減のアンドロイドだったから、寅雄はヒカルと向き合えたんでしょう。オリジナルの光は憧れの対象で、コンプレックスをかき立てる対象で、なかなか素直になれない対象で。そして光は「オレの全て」であって、寅雄の立場では与えるよりも、与えられる関係のままで……。ヒカルBはオリジナルの3割減だったけれど、ヒカルBと過ごした時間は「オリジナル」だった。

光が死んで、ヒカルが現れてからはじめて、寅雄は切ないとか、いとおしいとか、もどかしいとか、思いやりを知り、そしてヒカルを探しに旅に出る決心をするまでに成長する。ヒカルBが掛け替えのない存在だと確信できたから。物語は500年掛けた一人の青年の成長物語として完結する。

別にBLじゃなくても、SF作品として描けばいいのにと言う声もあるのだけど、うん、これはBLで良かったと思うよ。女性型アンドロイド「ヒカル」じゃここまでピュアに描けないし、アンドロイドじゃなかったらああいう別れ方はできないから。

ああ、それからD-4QPがめちゃくちゃかわいいです。
ペシミストなロボットなんて、愛さずにはいられないじゃないですか。

とにかくすばらしい作品です。
泣きたい方は、ぜひどうぞ。

絵柄 :★★★☆☆
ストーリー:★★★★★
エロ度 :☆☆☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

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