広島・松山旅行記(12) 広島 Cafe Ponte ITALIANO

宮島から僕らを乗せてきた船は、広島平和公園そば、元康橋のたもとに到着した。船着き場には長蛇の列ができていて、宮島→平和公園よりも平和公園→宮島行きの方が旅客需要は多いのかもしれない。45分の船旅を終えた僕らの前に、瀟洒なカフェが待ち構えている。Cafe Ponte ITALIANO。岩惣で僕らの世話をしてくださった若い仲居さんが、広島に行ったら立ち寄ってみてくださいと薦めてくれたカフェだ。喉も渇いたし、宮島でサラスヴァティ(Sarasvati)というカフェに寄り損なった彼氏が行く気満々。旅行カバンを引き摺っていた僕らは、橋のたもとに近いオープンテラスに案内された。





最近、広島が外国人に人気だという。
トリップアドバイザーでも外国人に人気の観光スポット第一位は広島平和記念資料館と原爆ドームだという。確かに戦争遺産という意味で、一度は訪ねてみなければならない場所だと思うが、Cafe Ponte ITALIANO の席に座り、元安橋を行き交う人を眺めていると「ここはセーヌ河岸か?シテ島のカフェか?」という錯覚に陥る。平和記念公園の周りは妙にヨーロッパ的な雰囲気がある。背の高い建物のない風景、川向こうは緑がいっぱいで、バックパッカーの外国人がたくさん行き来している。同じくたくさんの川と橋のある大阪中之島とはちょっと雰囲気がちがう。

といいつつも、カフェの敷地内には原爆で亡くなった方々の小さな慰霊碑があったり、ここから130メートルの場所が爆心地であったりと、よく考えると寛いでいて良い場所ではない気もする。だけど、オレンジとモエ・エ・シャンドンに囲まれていると、なんかそういう悲惨な歴史がぼんやりと輪郭を失ってゆくような虚脱感もある。

思い起こせば、僕にとって広島は15年ほど前に上司と訪れた街だった。ANAに乗って広島空港に着き、バスに乗り換えて市内中央の広島バスセンターに降り立ったとき、僕は膝を折られるような重圧を感じた。曇天に覆われた空だった。路面電車の電線が空を細かく砕いて、陰鬱な空気が押し寄せてくるような感じがした。

隣で紅茶を楽しんでいる彼氏はお守りなのか?
そんなことを考えている自分に苦笑した。
馬鹿な…自分が歳を取って、感受性が摩耗しただけだ。
怖いものを怖いと感じる感受性を失い、甘やかしてくれる彼氏に依存しているだけなんじゃないか……そんなことを考えていると、せっかくの紅茶を苦く感じた。

チョコレートケーキはなかなかの出来だった。



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