最近思うこと(3) 「えらそうな無能な門外漢」が跋扈する社会

さて、ここしばらく、朝鮮半島の企業が調子に乗っているのは、サムスン電子・LG電子の薄型テレビの躍進がきっかけだったと思います。日本の地上波テレビなんて馬鹿臭くって観ていられませんが、それでもリビングの中心に居座っている家電のロゴが目に付くのも事実です。

日本のテレビ製造が凋落したのは、たぶん、直接的にはソニーからサムスン電子へ技術流出がきっかけだと思います。韓国政府の補助金と意図的なウォン安演出があったとしても、ソニーと同等性能を持つテレビが、ソニーよりも安い価格で発展途上国にばらまかれれば大変なことになります。

その点で、第一級の罪人は、当時のソニーCEOの出井伸之氏の名前を挙げざるを得ません。彼は色々かっこいいことを言っていましたが、技術者のマインドを理解していなかったのではないでしょうか。よく引用されるこんな記事があります。

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電機メーカーを取材する記者や業界関係者は、'04年に設立されたソニーとの合弁製造会社「S-LCD」に、サムスンの企業風土が表れていると口を揃える。

ソニーは'97年から平面ブラウン管テレビ「WEGA」ブランドを発売したが、この商品の成功のために薄型液晶テレビへの切り替えが遅れたことも事実であった。出井伸之会長兼CEO(当時)は薄型テレビへの方針転換を決め、液晶パネル製造のパートナーにサムスンを選んだ。

経済産業省や国内メーカーからは、テレビ技術の流出を危惧する声が上がり、国内各社に対する裏切りと見なされ、「国賊」と非難された。それでも出井氏は「国内メーカーとの提携は考えたこともなかった」と語っていた。

しかし、出井氏はこれらの非難に耳を傾けるべきだった。S-LCDでは、ソニー側とサムスン側の建物の間にファイアウォール(通信を制御する壁)が建てられ、テレビ技術は相互に漏れないよう管理されていると言われた。だが、あるソニーの元技術幹部は、こう証言する。

「ファイアウォールなんて、あってないようなものでした。そもそもパネルがあるからといってテレビができるわけではなく、やはり画作りの技術があって初めてテレビ画面ができます。画作りが弱いサムスンから聞かれれば教えるしかなく、ソニーの優れた技術がサムスン側に流れたことは否めません。
  また、サムスン側と一緒に働いていた優秀なエンジニアがヘッドハンティングされ、私が知る限りで50人以上が引き抜かれました」

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/352
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S-LCDで製造された液晶パネルの半分を、ソニーが引き取る契約になっていました。仮に出井氏の言う「ファイアウォール」があったとしても、「ソニー製品」として発売されるテレビのパーツに対し、現場の技術者たちが手を抜くことは考えられない。というか、ファイアウォールを理由に技術レベルを下げることに躊躇しない技術者がいたとしたら、それは三流の人物でしょう。優れた技術者はいつでも最高を目指す……だからこそ、彼らの活動がマイナスの方向に行かないように食い止めるのが経営の責任です。そういう観点から見ると、出井氏の判断は愚の骨頂です。

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ソニー入社後は、外国部、スイス留学(ジュネーブ大学付属国際問題研究所修士課程修了)、スイス、フランス駐在を経験し、欧州を中心とした海外営業畑でキャリアを形成していった。60年代、70年代の10年近くにわたるヨーロッパ駐在を経て80年代、技術系出身ではないながら、オーディオ、コンピューター、VTRなどの事業本部の責任者を歴任。さらに90年代は広告・宣伝、デザイン、広報部門の担当役員としてソニーブランドのイメージアップに貢献してきた。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E4%BA%95%E4%BC%B8%E4%B9%8B
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技術会社のトップに、こういう人物を就けてはなりません。
英国のダイソン社CEOのジェームズ・ダイソン氏がこんなことを言っています。

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英国のエンジニアは世界一報酬が低く、企業内で最も冷遇されている。口先がうまく要領のいい連中が企業の主導権を握る一方、エンジニアはその陰にかすんでしまっている。日本のホンダやソニーのように、本当はエンジニアこそ企業経営の中心にいなきゃならないのに。英国のエンジニアは人が良く、押しが弱く、野心も少ない。ひたすら知識を吸収するだけで、小悪党にコロッとやられてしまう。

会計士や重役、経理屋は創造的な人間をしばしば妬む。自分で何かを創ることがないからだ。そして、いつだってすぐ創造的な人間の足を引っ張り、何にでも批判的、否定的になり、自らの重要性をことさら強調したいがために、創造的な人間はビジネスを知らないとか言いたがるんだ。
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たぶん、ソニーが苦境に陥っている原因の一つに、技術者上がりの役員が減ったことが挙げられるのではないでしょうか。本来ならば本田宗一郎と藤沢武夫のように、井深大と盛田昭夫のコンビのように、製造業は技術者をバックアップしながら経営して行かねばならないもの。その点でソニーは道を誤ってしまった。そしておそらく、大会社になってしまったソニー社内には、あちらこちらに「めんどくさい人たち」が増えてしまったんでしょうね。

僕の父親が、品川に創業してまもなくのソニー社内にあった診療所に出入りしていました。「明るい会社だった。社員がみんな屈託がなくって……夢の会社ってのはああいうのをいうんだろう。本当に良い会社だった。うらやましかったよ」と言っていました。外部の人間から見ても、伸び盛りの、夢の工場だったことがうかがえます。

大企業病って、「どうせやっても無理だ」という負け癖と、身動きが取れない社内調整の煩雑さ、そして「えらそうな無能な門外漢」があちこちに巣くっていてめんどくさい……なんてことでチャレンジ精神を喪失したり、外部環境の変化に対して鈍感になってしまったり、あるいはオリンパスの不正会計のような不正や失敗の隠匿に血道を上げたりして道を誤るものだと、僕は考えています。

いま日本企業・日本国の政治が混迷しているのは、負け癖がついたのと、「えらそうな無能な門外漢」が幅をきかせていて、正しい方向へ足を踏み出せない状況に陥っているように僕には見えます。

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