最近思うこと(4) 現地化しないことが日本の敗因なのか

『ボツになった「テレビ産業壊滅の真相」記事』という、なかなか興味深い文章を読みました。と言っても、新興国視市場における現地化マーケティングにおいて、日本は韓国企業に遅れをとっているという、既に何度も指摘されている話題です。

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 筆者は、2カ月かけて世界一周を行ってみた。そして、BRICsをはじめとする新興諸国の電機製品売り場を見て回った。すると、そこは、サムスン、LG電子等の韓国製品に独占されていたのである。日本製品は隅の方に置かれて埃を被っていた。筆者はこの有様にショックを受けた。

例えば、インドでは、サムスンのテレビの右隅には、どのチャンネルにしてもクリケットのスコアが表示されるようになっていた。クリケットはインドの国技であり、インド人はテレビでクリケットを見るのが大好きである。ところが、競技時間が6~8時間と長い。それで、ちょっと隣のチャンネルを見てみたい。だけどクリケットのスコアも気になる・・・、というインド人の要望に応えたのがサムスンのテレビだ。これで日本製の半額である。

また、インドの冷蔵庫には鍵と瞬停用のバッテリーがついていた。泥棒の多いインドでは冷蔵庫にも鍵が必要なのだ。さらに、停電が多いため、数時間程度だったら、内蔵したバッテリーが機能する仕組みを韓国製の冷蔵庫は備えていた。それで、日本製の半額である。日本製はまったく売れていなかった。

このような事情は、他の新興諸国でも同じだった。新興国だけではない、欧州やアジアなど多くの国が、韓国勢に席巻されていた。そして、BRICsなど新興諸国の人々に、日本製品の印象を聞いてみると、「高品質」と答えた人は皆無であり、ほとんどの人が「タカーイ!」と答えた。
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ボツになった「テレビ産業壊滅の真相」記事』
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/31471


なんというか……マーケティングってほんとうに難しいと感じさせられる。
僕は、サムスン電子なんて、イノベーション的なことはほとんどなにもやっていない企業だと思っています。彼ら自身が自らを「ファスト・フォロワー(迅速な追随者)」と呼んでいるわけで、常に二番手で、先行者が成功したと見るや市場に参入してすべてをかっさらっていこうとする簒奪者という感じじゃないかと。新製品が売れることはすでにわかっているので、「あとは売り方さえ考えればいい」ということを彼らはやっているだけ。汚いやり方だと思いますが、しぶとさ、現地マーケットに食らいつくひたむきさは、かつての日本企業の姿を彷彿とさせられる所ではあります。

でも、これって、20年くらい前までのソニーと松下電器産業その他の構造そのものなんですよね。当時ソニーは「モルモット」って呼ばれていましたっけ。ソニー社史には、このように記述されています。

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木原たちが国産初のVTR試作に取りかかった頃、週刊誌に「ソニーはモルモットだ」という記事が出た。評論家の大宅壮一氏(故人)が、週刊誌の記事の「日本の企業」に東芝を取り上げ執筆した中で、引き合いに出されたもので、「トランジスタでは、ソニーがトップメーカーであったが、現在ではここでも東芝がトップに立ち、生産高はソニーの2倍半近くに達している。つまり、儲かると分かれば必要な資金をどしどし投じられるところに東芝の強みがあるわけで、何のことはない、ソニーは、東芝のためにモルモット(医学などの実験用動物として使われる)的役割を果たしたことになる」と書いたのだ。


しかし、こういう言われ方は井深たちにとっては、残念なことであった。確かに『モルモット』かもしれないが、日進月歩の電子工業の世界にあって新しい製品を産み出していけるのは、ソニー自身がすぐれた技術力と社長以下全社一丸となったチームワーク、そして実行力を持っていたからだ。それを抜きにして、大会社と比較されたのではかなわない。
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Sony History
http://www.oqx1.jp/works/SonyHistory/1-8/h4.html


そのモルモットが息絶える寸前となっているならば、そのフォロワーが滅びるのは自然の摂理でもないかと。じゃあこの後、どうしたら良いのか、という選択肢において、取る道は2つしかないのではないかと思うのですね。

1つは、新興国市場を放棄して、日本市場だけを相手にする。
2つは、韓国・中国企業を叩き潰すために、なりふり構わない構造改革を行う。

1つ目の話はどうでも良さそうなので、2つ目の話に絞って考えてみたいと思います。

家電製品については、今後、韓国・中国企業と対抗するには、現在のフルラインナップ型の家電メーカーの体制では、対抗は難しいのではないかと思います。動きが鈍くなりますし、サムスンを潰すためには、豊富な資金量、選択と集中、そしてなによりも身軽であることが必要です。
城山三郎の「官僚たちの夏」並みに、ここの一つ経産省に八面六臂の活躍を期待したいのですが、もし日本の家電メーカーの復活を目論むならば、レガシーキャリアーとLCCに分かれようとしている航空業界のような、2極化した構造改革が必要かと思います。

家電メーカー自体の数を減らす必要があるでしょう。
そして談合のようにも聞こえますが、モルモット役を務めつつ高級市場で暮らすごく少数の企業と、低価格・大量生産市場を担当する何社に役割分担する。お互いの市場には立ち入らないようにして、日本企業同士の潰し合いは絶対に避ける。そして低価格・大量生産組は、サムスン・LGと徹底的に戦える企業として、世界市場へ進出する……。

悪名の高い行政指導とも言えますが、日本の家電メーカーのどこが生き残るのかを市場原理に任せて放置していたら、全滅する可能性だってあるでしょう。全滅する前に生かす芽と、摘む芽を選択する……「国」が生き残るために必要なのは、まさに「政治」なんだと思います。

appleのスティーブ・ジョブズは垂直統合で企業規模を拡大してきましたが、彼が徹底した「現地化」をはかったという話は聞いたことがありません。むしろappleの世界観を拡大し、世界をapple化しようと目論んでいたようにも見えます。

「消費者に、何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない。
製品をデザインするのはとても難しい。
多くの場合、人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいのかわからないものだ」
(スティーブ・ジョブズ)

新興市場では、確かにサムスンのやり方がいまは上手く行っているのかもしれませんが、次の5年、10年はどうなるのかわかりませんよ。

それにしてもマーケティングは幅の広い用語だとつくづく思います。

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