BL漫画レビュー:草間さかえ『やぎさん郵便2』

いま一番リリースを心待ちにしている草間さかえ作品。
BLの歴史に燦然と輝く傑作の予感が止まらないシリーズ第3巻目。

返ってきた本のページにまぎれていた恋文。
宛名があるはずの1枚目はなく、文末の署名は本を貸した友人の名。
その友人は急に東京を去るという。
それは渡せなかった手紙の所為か…。
ただ一人が手紙を盗み読まなかったことからはじまった過去と感情と関係が絡み合う4人の男の恋愛物語。
花城の過去との決着、廣瀬の不安、有原が追う手紙の行方、澤の優しさ…。
それぞれの想いの行き先が見えてくるシリーズ3冊目。

僕的には、BLの歴史の中でも屈指の傑作が終幕に向けて進行している様子を、固唾を呑んで見守っている高揚感がある。「マッチ売り」から「やぎさん郵便」と続く、敗戦を迎えた日本の、架空東京で繰り広げられる4人の男たちの恋物語は、不思議な透明感を保っている。この街はやけに雪が降る。雪の上がった翌朝、やけに透明感のある空の下、音のない、何キロ先の景色までもが目に飛び込んでくるような、不思議な明るさが紙面から溢れてくる。敗戦後の、世相はそれほど明るくない状態なのだけど。

あとがきの中で、作者の草間さかえがこんなキャラ組み合わせを書いている。

情緒のない風俗(花城) - 心の身体も素人童貞(廣瀬)
ロマンポルノ系(有原) - 奉仕系の見せかけS(澤)

本作では、澤・有原の一点掛けで良いと僕は思っている。

親友に宛てて書いた恋文を無くしてしまい、動揺のあまり大学を中退して故郷へ逃げ帰ろうとしていた有原。彼は澤に引っかかってしまい、半ば囲い者のように抱かれている。八方ふさがりの中、ドSのように見えた澤の意外な優しさに、有原が少しずつ心を開いてゆく様が秀逸。しかも、あっけらかんとした廣瀬に比べて、有原のセリフはやたら文学的で読者の気持ちを鷲づかみにして行く。このコマなんか大好きだ。


有原は優しい子なのだ。しかも観察眼がある。「(澤)甚一郞が私達女に優しいのは習い性だからね」という志緒婆さんに対し、「澤さんが周りの女の人たちから優しくされて育ったからでしょう」と有原が返し、婆さんを号泣させたりもする。考えようによっちゃジゴロっぽいセリフではあるのだけど。

で、八方ふさがりだった有原の境遇をぶち破ってやったのは澤であって。




そして、そんな澤のもとで、幸せそうに微睡む有原がいて。その有原を「寝ている時は幸せそうだから、一日の半分寝てるんなら人生の半分は幸せだ」って眺めている澤は、かなり幸せな時間を過ごしているんじゃないかと思うのだ。

1.絵柄
架空東京の、レトロで不思議な空気感が紙面から溢れてくる。廣瀬×花城組はあまりどうでもいいのだが、澤×有原組の雰囲気が抜群にいい。その他の脇役、背景の描写も独特で非常に完成度は高いと思う。

2.ストーリー
シリーズ通算3冊目に入り、花城は過去を清算しようと動きだし、澤は有原を雁字搦めにしていた棘を抜いてやった。有原はどんどん澤に心をひらくようになる様子が見所か。

3.エロ度
相変わらず全身をまさぐられて喘いでいる有原くんがエロイ。有原って全身が性感帯なのかね?? それから、同じ大学生同士の廣瀬と有原だが、表情は圧倒的に有原の方が豊か。性格的には廣瀬の方が明るいのにね。

4.まとめ
志緒婆さん、踊り子の夢子など女性キャラクターも丁寧に描かれ、BLにありがちなぞんざいな扱いをされるわけでもなく。なんだろう、いままでのBLの限界を超えて、2組の男カップルが生活している「世界」を物語れるならば、「やぎさん郵便」はBL界の金字塔になるにちがいない。全力でオススメ。

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★★
エロ度 :★★★★★
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

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