BL漫画レビュー:定広美香『サーフジャンキー』

思い返すといつの時代にも「定広美香」というジャンルがあった。
ジャンルと言ったらおかしいかな。
卒業して50年経った大学を訪問したら、昔の定食屋がそのまま営業していた驚き!みたいな感じ。変わらない味付け、変えようもない味付け、みたいな。

サーフィンとセックスは上級者だけど恋愛はビギナーの律郎。サーフィンも恋愛もビギナーのしぶき。湘南の海で出会った二人は恋に落ちた…。迷い、傷つけ合い、そして成長していくサーファーたちの伝説の恋物語!!

さてと、2007年の発行の定広美香作品。もちろん最新作であるはずはないけれど、ビンテージと呼ぶほどには古くはない。そんな作品の書評など。

定広美香はミレニアム(w を乗り越えて活動を続けているBL作家としては希少種。amazonで確認できるところで1993年発行の「空気の存在」というコミックスがある。作家生活20年越えというしぶとさも、たぶん、すごい部類に入る。絵柄は古代種の不破慎理のような王道BL系ではなくて、レディコミと劇画系を足して2で割ると定広になる。キャラクターは力強い直線で構成され、背景の描写はやや少ない。

医者もの、禁忌もの、刑務所ものとかいくつかあるうち、2003年から2007年までに発表された作品群が、定広美香がもっとも豊穣な時代だった。具体的にはアンダーグラウンドホテル、オーガニック・サンズ、無傷じゃいられねぇ、サーフジャンキーあたりが最も美味しい。そして2006年の6mmの禁忌から迷走が始まって、以降、長い黄昏の時代に入る。最新作の「ヤバイ目で見ンなよ!! 」は、「さすがに今の時代にこのセンスはねぇだろ~」と思わずにはいられまい。

で、豊穣の時代に話を戻すと、オーガニック・サンズは百姓BLで、まあこれはこれでアリだった。収穫の後は離れでセックス、軽トラの荷台でセックス、夏祭りの法被を着てセックス、ビニールハウスでセックス、そして収穫した米を世話になったゲイバーのマスターにお届け……青臭さい夏草の匂いが立ち上ってくるような農村ボーイズラブは、なかなかおもしろかったのだよ。なんかゲイ雑誌さぶに通じるドメスティックさが。

それに対して、「無傷じゃいられねぇ」と「サーフジャンキー」は湘南青春シリーズ。これが典型的な定広作品なわけで。彼女は究極、髪の白い(べた塗りしていない)タチと、髪の黒いウケの二人の物語しか描けない作家。「無傷じゃいられねぇ」はヤンキー高校生もので、移動手段はバイク。場所柄ちょっとはサーフィンもででくるけれど、主要な舞台は陸。ヒリヒリするような熱さがあって良い。

「サーフジャンキー」はタイトル通り、舞台は海、板の上。ビーチで知り合った二人が恋に落ちる。舞台は湘南からハワイのノースショアへ。この安直に海外へ舞台転換するのが少女マンガのDNAを引っ張っているようで、好きだなあ、この唐突さ。





や、腐女子にはわからないだろうけど、ゲイの間では伝統的にベリーショートの男子は人気があるのだよ。だから「しぶき」のキャラクター造形は、まあ二丁目ではモテる一つの典型、しかもサーファー。モテないはずがなくて。

1.絵柄
安定の「定広美香」クオリティ。
レディコミ、劇画系が受け入れられる人には好まれるはず。
ボディラインの描き方とかアダルティ。

2.ストーリー
サーファーってこんなに楽しいのかね!?とか妄想してしまう湘南ライフ。「無傷じゃいられねぇ」が陰ならば、「サーフジャンキー」は陽の作品。両方併せて読むべし。

3.エロ度
エロイ。が、描写がスポーツのようなセックスなので、わりとさらっとしたイメージになる。妙に客観的な絵造りなので、ホモビでもトレースしているんだろうか???

4.まとめ
イマドキのBLが恋愛プロセスを重視する少女マンガに回帰しつつあるなか、「やらないか」に近いテンションで定広はこれからも続けてゆくのだろうか??そんな淡い危惧を抱きながら、定広豊穣の時代を懐かしむのも一興。サーフジャンキー、青春してます!ホモってます!

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★☆☆
エロ度 :★★★★☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

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