五所川原 立佞武多(たちねぷた) 2013年東北紀行 10

2013年8月4日は日曜日。
最上階の露天風呂から見上げた岩木山の山頂は、今日も雲がかかっている。
雨は降っていないのだけど、白い天幕が張られたような空が続く。

8時過ぎにご飯を食べ始め、自然と「今日は何をしようか?」という話題になった。
もちろん、弘前ねぷた祭りが始まる19:00には戻ってきていなければならないのだけど。

父親は「弘前城は何度も見たから行かない」と言う。
この人の悪い癖だ。
誰かを案内してやろうというマインドがないのか!?

で、喧嘩をしていても仕方ないので、前日、青森市の臨時駐車場からアスパムまで移動したとき、タクシーの運転手さんが「五所川原の立佞武多はたいしたもんですよ」と言っていたことを思いだした。青森市の人が褒めるくらいだからきっとすごいのだろう。僕らは五所川原の立佞武多を見に行くことにした。

弘前城の脇を抜けて、カーナビの指示に従い県道37号線、板柳町で五能線の踏切を渡り、国道339号線バイパスを走って、五所川原市市内に入る。あとは道路沿いの看板を見ながら、「立佞武多の館」に到達した。背の低い建物しか目に入らない五所川原市内で、「立佞武多の館」はおかしい。ここだけが周囲のパースを狂わせている。

今回、言葉にならない感動に包まれたのは、ここ、五所川原の巨大な立佞武多をみあげた時だった。それほど床面積の大きい建物じゃない。あまり期待しないで展示会場に入ったら、そこはまさに異世界だった。

そびえ立つ3基の巨大な立佞武多。
申し訳ないけれど青森のねぶたを遙かに凌駕していた。
その存在感、その質感、観客を睥睨し、遠くの敵を睨み付けているような力強さ。
僕はバカみたいにぽかんと開いた口がふさがらなかった。

エレベーターで4階まで上がり、高さ22mの立佞武多に近づくことから始まる。
そこから回廊はグルグルとらせんを描くように地上まで戻ってくる。
その間、すごい、すごいという言葉しか出てこなかった。









五所川原の立佞武多は、1998年に80年ぶりに復活したもの。
このとき作られた「武者」は、岩木川河川敷で運行され、7月7日には古習に倣い火が放たれ、昇天させられたという。 回廊に飾られた写真に気づいたら足を止めて欲しい。「武者」の写真と、立佞武多復活を成し遂げた男たちの写真がある。それはちょっと泣けてくるような、神々しい美しさを放っている。たぶん、五所川原の立佞武多は、復活・復元というよりも、古の写真と設計図を見つけた男たちによって、新たに産み出されたものなのだろう。だから、写真の彼らは伝統の担い手どころではなくて、これから長く続く伝統を産み出したレジェンドたちなのだ。そのレジェンドたちだけが放つ、とてつもないパワー、突破力が、いまだ写真から波動のように伝わってくる。これもまた北の美しい情念なんだろう。

うまくタイミングが合うと、場内で五所川原立佞武多祭りの映像が上映される。これがかなり手練れの制作者によって作られたもので、観客の胸を熱くする。

五所川原の立佞武多は、死ぬまでに一度は見ておくべきものだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿