BL漫画レビュー:キタハラリイ『ジェラテリアスーパーノヴァ』

さて、新人作家がいきなりドラマCDデビュー作品となったことで、amazonに巣くう腐女子らに叩かれている本作。ちょっと応援にまわってみようぞ。

出会い系で適当に知り合った間柄。
知っているのはお互いのいい加減なハンドルネーム。
いつも近所にあるジェラート屋「スーパーノヴァ」で待ち合わせをして部屋でヤルだけの関係。
……だったはずなのに、少しずつ変化している自分の気持ちに気付く里谷。
自分だけが深みにハマっていく不安…。
でも気付いた気持ちには抗えずー?

ジェラテリアを巡って繰り広げられる苦くて甘い、恋の駆け引き。

Amazonで批判しているレビューを取り出してみよう。

「あらすじ的にはネットで知り合ったリーマン×学生の名も知らないセフレな関係から進展する他の方も書かれてるようによくあるふつうの内容です。エロがとくに売りというわけでもなく、画力もまだまだ発展途上。ラフな作風がはやりの昨今とはいえ、人物の顔もデッサンも不安定すぎてうまいとは言えません。ならば心理描写がすごくうまいかといえば下手というわけではないのですが特筆してうまいというわけでもなく無難にまとまってるだけなので後に残りません。」

まあ、ね。
腐女子、ボーイズラブ、そして同性愛者という捻れた関係でもの申すわけだから、意見なんてかみ合わないに違いないのだが、ちょっと擁護したいと思う。この作品は「セックス経験は豊富だが、恋愛には疎い大学生が、恋を知り、そして(社会的な意味で)カミングアウトする話」ってところが肝なのだと思う。

腐女子の好きな「関係性」ってヤツを、僕はイマイチよく理解できない。彼女らが好きな「純情ロマンチカ」シリーズのように、狭い人間関係でグルグル悩んでみたり、三角関係になってドタバタしたり。あるいは主従関係のヤクザ作品で「関係性が~最高!」とか叫んでいる一方、もっと普通で、もっと大変な関係性に彼女らは疎いんじゃないかと思う。

ゲイの世界には「ハッテン場」という言葉がありまして、その昔は二丁目や堂山のようなゲイバーやいわゆる「ハッテン場」だったものが、雑誌ができ、Webができ、そしていまではアプリ全盛時代。そういう所の出会いは、どうしても身体の関係で始まってしまう。それを否定はしないが、身体だけのキモチイイ関係から、恋愛関係にスライドさせるのは相当困難。はっきり言って裸でヤッてるだけなら、ゲイなんて難しくも何ともない。ベッドを出て、服を着て部屋を出て、社会に出た時に、同性愛者として生きていくさまざまな困難にぶつかるわけだ。僕はそれを社会的カミングアウトと呼んでいるが、性愛から恋愛に移行させるには避けて通れないポイント。

大学生の里谷智秋は、性体験はそれなりにあるようで、身体も開発済みのよう。でも決定的に恋愛経験が少なく(あるいはない?)て、引き留めたい、あるいはそれ以上の関係に進みたいけれど「なー、今日泊まっていくの?」としか言えない。

一方、大学ではイケメン里谷は合コンのお誘いもあり、彼を気にしている女の子もいる。ノンケ、あるいは「普通」の大学生に戻るチャンスはいくらでもあるけれど、週末はセフレのkioとの衝動的なセックスに溺れている。

11月29日土曜日。セックスのあとのけだるさに浸っていると「なあ、腹減らない?どっか近場に夕飯、食いにいこーよ」とkioに誘われ、里谷は「恋愛関係」にステージを移してゆく。





この展開、上手いと思う。
というか、こういう機微は、経験したことのない人には分からないと思う。

出会い系とかクラブとかで知り合って、色々あって恋愛関係に移行できるパターンはこれ。夜明けのラブホで「こんなところ二人で出るのもなんだからさぁ、オレ先に行くね」とベッドに取り残されたらダメな関係。「腹減ったから、ここ出てモーニングでも食う?」となったら続く関係。知っていた?

そのあと、コート姿のリーマンkioと出会ってしまった里谷が自分のガキ臭さに凹んだり、煮詰まったkioが連絡取れなくなったりでグルグルとするのだけれど、それらは皆身体から始まってしまった恋愛関係の試練なのだ。

1.絵柄
良いと思う。僕好みの直線で構成されるシンプルな美しさがある。

2.ストーリー
匿名で知り合った大学生とリーマンのお話。
たぶん読者の多くが「ジェラート屋関係ねーじゃん?」と思っているだろうから、自説を書いておくと、里谷はバニラ一本槍。政田直規(=リーマン)は都度フレーバーを変える。里谷は一途で、政田は浮気性(柔軟性がある)ともとれる。もう一歩踏み込むと、里谷は経験不足で、政田は経験豊富とも取れる。さらにもう一歩踏み込むと、バニラ択一の里谷に対し政田は「たまには他も試したら?」と薦めているから、里谷の経験の幅を広げようとさりげなくリードしているとも言えるし、一緒に新しい経験をしようよと呼びかけているとも言える。その感じはデート編で表現されているような気がする。

そういう文脈でタイトルにジェラテリアを冠する必然性はある。「牛丼 渋谷文化村通り店」じゃストーリーに広がりは作り出せないから。「いつも紅ショウガ?今日は七味にしなよ」じゃしまらない。

本編は里谷目線だが、デート編は政田視線なので、いろいろと謎解きも楽しめる。めでたくカップルとして歩き始めた二人のその後が見れて、たっぷり余韻を楽しめる。

3.エロ度
そこそこエロイ。19歳で初体験後、里谷くんはどんだけくわえ込んできたの?って思ってしまうほどの乱れ方がステキ。

4.まとめ
良作、佳作だとおもう。定期的に読み返したくなる味がある。僕はオススメする。

絵柄 :★★★★☆
ストーリー:★★★★☆
エロ度 :★★★★☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

0 件のコメント:

コメントを投稿