うずら家 - 戸隠高原とおわら風の盆

横倉旅館に泊まるもう一つのメリットは、戸隠神社中社脇の「手打ちそば うずら家」に近いということだ。「唯一無二」という看板を掲げた「戸隠蕎麦の至宝」との呼び声も高い名店を訪れることは、今回の戸隠滞在最大のイベントだった。

うずら家はおもしろいシステムを採っている。
店の前に名前を記入するシートが置いてあって、名前を書いておけば後で戻ってきたときに最優先で席に案内される。ディズニーリゾートのファーストパスみたいなものか。問題は、開店10:30の蕎麦屋が、いつこのシートを店の外に置くのかということだ。
僕らが戸隠神社奥社を訪ねたのは、夏の終わり8月31日日曜日。僕が冗談半分で朝7時過ぎに覗きに行ったら、すでに数組の名前が書かれたシートが置かれていた。驚きながら僕の名前を記した。シートは朝6時過ぎには店の前に置かれているようだ。

横倉旅館に戻り、朝食を食べた後、僕らは戸隠神社奥社参拝へ出かけた。
うずら家に戻ってきたのは、11:00頃だった。
シートを見るとすでに6枚目。
1シートに16名の「代表者」の名前を書く場所があって、11:00の時点ですでに80組、つまり最低80名以上、カップル換算だと160名の待ち客がいるというすごい状態になっていた。



さて、二階の座敷に通されて、生わさびをすり下ろしながら蕎麦を待つ。
先に出てきたのは「蕎麦掻き」。
蕎麦掻きは1つでざる蕎麦一枚分の蕎麦粉を使っているというので、僕らは3人でシェアすることにした。ふわぼったりとした歯触り。味噌と山葵を和えた薬味があって、これが抜群に美味かった。




そして、ざる蕎麦が到着。
ちょっとでも伸びるのが怖くて、すぐに箸で掬って蕎麦つゆにつけて啜る。
身体に、電撃が、走った気がした(きわめて個人的な感想)。
そして、戦慄した。

少しざらっとした舌触り、しっかりとした歯ごたえ、口腔から鼻腔に抜ける蕎麦の香りと蕎麦つゆの出汁の香り、そして滑らかながら存在感を感じさせる喉ごし。
いままで僕が食べてきた蕎麦って何だったの??と、ガツンと衝撃を受けるうまさだった。


正直なところ、蕎麦フリークな人たちは、美味しい蕎麦屋をいくらでも知っているだろう。僕は、父の田舎にある大人気のへぎ蕎麦屋へ相当通っている。その店も開店と同時に満員になる蕎麦屋だ。へぎ蕎麦のあの独特の歯ごたえ、喉ごしに慣れていると、前日の「くるまや」は正直物足りなかった。
うずら家の蕎麦は、なんだろう、僕の人生観を変えてしまったのかもしれない。凄いと思った。感動した。そして少し怖くなった。これからどんな蕎麦を食べても、僕は心から楽しめなくなってしまうのかもしれないと思ったから。これは食事じゃなくて、もはや特別な体験そのものだ。


サイドディッシュにきのこの天ぷら(+海老1点)も頼んだ。
サクサク揚がった天ぷらは楽しい。
蕎麦屋だと、蕎麦つゆと天つゆを一緒くたにされることが多いが、ここは別。
そういうところがうれしい。

ミシュラン中部を作ることがあるならば、ミシュラン調査員は絶対行くべき蕎麦屋だろう。
そして、うずら家の蕎麦を食べるために旅をするのだって、十分にあり得ると思うのだ。

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