この香りは、あなたに似合うと思うの

週末、部屋の掃除をしていて、香水のビンを何本か捨てた。
もちろんそれぞれに思い出があって、捨てるのが惜しいものもあった。
でも思い切って燃えないゴミの袋に放り込んだ。

デスクの上に残った小さな香水のサンプル。
これは前職の同僚がくれたものだった。

"この香りは、あなたに似合うと思うの"

僕より2歳年上の女性。オフィスではお母さん的な存在だった。
そういう人がどんな部署にも一人はいるものだと思う。
彼女とは背中合わせのデスクに座っていた。
チャキチャキの江戸っ子で、浅草は私の庭と言っていたっけか。
忙しい人だったけれど、ヒマができるとお菓子やグルメの話をしていたな。

当時の僕はよく香水をつけていた。
BVLGARI POUR HOMMEは当時つきあっていた男とペア(笑)で使っていた。
自分の好みではBVLGARI BLUE。一人で行動する時はBlueで。
あとは学生時代の流れでINSENSE ULTRAMARINE
……これは匂いがきつかったな。

彼女が薦めてくれたのはDOLICE&GABBANAのMASCULINE。
ラストノートにバニラが漂ってくる若々しいけれど官能的な香りだった。

ひさしぶりにサンプルのビンを開けた。
なつかしい香りがした。彼女の声を思い出した。
いまはお互い消息もわからなくなってしまっているが、きっと元気に暮らしているんだろう。

明日はMasculineをつけて仕事に行こう。

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