登山未経験者が富士山に登ってみた(6)

知らないって事は、いろいろと恐ろしいものだと思う。
富士登山の死亡事故報告を読んでいると、無計画・軽装で登った人たちが多かった。特にTシャツ・短パン・スニーカーで登頂を試みた外国人などとか。

ツアー参加の場合も、知らないといろいろと怖いことになった。午前1:40に準備を始め、2:00には"本八合目トモエ館"を出発する予定が告げられた。参加者は各人身支度を調え、集合場所に集まってくる。外は相当寒いだろうから、速乾性下着代わりのTシャツ、長袖シャツ、宿で借りた防寒着を着込み、最低限の荷物を積んだザックを背負って山小屋の外に出た。


外は霧…水滴が細かい粒子になった世界だった。「ボウッ」と白い壁の中からヘッドランプをつけた登山者が現れ、山小屋の前を通過して行く。強い風が吹き付けていて、耳が凍り付く気がするほど寒かった。周囲の人を見ていると、皆、フードで頭を覆っている。アレはなんだろう……ああそうか、雨具をつけているのか! 慌ててザックを下ろして雨具を着る。風は強く、ガイドは山頂に登頂できるかどうか相談を続けている。出発が20分遅らされたので、雨具をつける準備ができたのは助かった。

集合場所に集められた人たちに対し、ご来光は運が良ければ見られるかもしれない、強風が続く場合は引き返すことが告げられた。頂上は山小屋がすべて閉まっており補給はできない。また、トイレもないのでここで済ませておくように、とのことだった。この悪天候を見てパーティのうち5人がリタイアした。

そして(僕にとって)死闘が始まった。
八合目から頂上までは、ご来光見物をしたい登山客でごった返していた。
なかなか前に進まない。強風に煽られた霧…いや、いま考えると雲の中にいたのだと思う、雨、霙が身体にたたきつけられる。なんどもフードが外れるほどの強風。その中に立って、前進を待つ。幸い山小屋で借りた防寒着が高性能で、お腹が冷えて下るようなことはなかった。両手で握ったストックを空手の正拳突きのように動かして、少しでも身体を温めようとした。前にいる人は髪の毛が凍り付き、身体が震えていた。低体温症になりかかっていたのだろうか。

山頂を目指す人の行列は、霧の中を光の川になって、頂上に向かって、そして僕らのいる位置を目指す八合目からずっと続いていた。


晴れているときは、こんな光の川を目撃できるんだそうだ。
http://portal.nifty.com/2010/08/11/c/4.htm

2012年7月8日のご来光は、4:26だと聞いた。そのときを僕たちのパーティーは九合目を過ぎた場所で迎えた。厚い雲の中が一瞬、赤く切り裂かれた。太陽の力はすごいもので、風が雲を払うと、雲海と、紫色に染まった空を眺めることができた。ふたたび闇に沈んだ登山道を僕たちは歩き出す。



今年はまだ頂上からの下山道が開通しておらず、登山道を対面通行で利用していた。そもそも岩場を無理矢理下るわけなので危険であったし、登り客のスピードも全く上がらなかった。やがて下山客が「もう少しですよ、がんばって」と声をかけてくれるようになった。霧の中にうっすらと鳥居が見えた。

頂上は霧に包まれていた。
多くの人が疲れ切って座り込んでいる。
お鉢巡りは最初から実施されないことが伝えられていたが、ガイドすら火口を眺めに行って来いとは言わなかった。僕たちパーティは、富士山頂上浅間大社の碑の周りにザックを下ろして、へたり込んでいた。目の前には、下山客が長い列を作って順番を待っていた。






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