頂上からの下山道がまだ開通していないため、登山道を無理矢理下ることになる。狭い登山道は渋滞し、また、両手でスティックを操りながらも岩場を通過するのは、かなり恐怖感は強かった。
それでも、時々風が雲を払うと、雲海と、遙か下方に河口湖の湖面がキラキラと光っている様子が見えて、感動的な美しさだった。
"本八合目トモエ館"に戻ってきたのは7:00過ぎた頃だった。
精根尽き果てた。
所在なげにしていたリタイアした人たちから「どうでした?」と尋ねられた。「しんどかった。頂上まで寒くて大変だった」と僕は答える。彼らは他の帰還者達にも様子を尋ねていたが、ほとんどの人が「しんどかった」と返していたのが印象的だった。
弁当を食べた。炊き込みご飯に鮭の切り身がのっている。温かい緑茶を飲んで、ちょっとほっとした。
ガイドの小島さんに訊くと、「いままで最悪の渋滞だった」と言った。こんなに遅れるのは初めてだと。
"本八合目トモエ館"を7:30に出発。点呼を取った後、ここから下山道を各々のペースで下る。軽い石が滞積したすべりやすいジグザグ道を、滑らないように注意しながらざっくざっくと下る。約1時間ほど歩いたところで白い建物が見えてくる。期待して寄ってみると七合目の公衆トイレだった。まだ一合分しか下っていないのか……かるく目眩がした。
やがて下山者から忌み嫌われているという、六合目に向かっての長い横道に突入する。地図上では、黄色く描かれている吉田ルートが横一直線になっている部分だ。ここに階段部分があって、痛めつけられてきた膝に響く。約30分は歩く。
そこをがんばって歩き終えると、六合目のグレートウォールの下に出る。登山道と対面通行になる。馬も歩くその道は石畳で舗装されていて、これもまた膝にきつかった。
なんだかんだで五合目の雲上閣に戻ってきたのは11:00頃。本八合目からの下山に、約3時間半の時間がかかったことになる。雲上閣入り口の下山者名簿にチェックを入れる。ロッカーから荷物を取り出し、更衣室で着替える。荷物を詰め替えて、レンタル品の返却準備を整えた。二階のレストランで天ぷらうどんを食べる。冷たい水を飲みながらぼんやりしていると、数時間前のあの寒さが嘘のように感じられた。
食事を終え、お土産を買うために売店に降りて行くと、五合目駐車場は外に出られないほど激しい雨に見舞われていた。ずぶ濡れになって到着する下山者たち。30、40分の差で早く降りて来られたことは、本当にラッキーだと思った。
12:00に五合目を出発したバスは、1時間ほどで河口湖に到着。そこで風呂に入ってさっぱりしてから東京を目指す。入浴施設に到着したとき、僕は思わず笑ってしまった。前回河口湖で猛烈な下痢に襲われた事件の時、息絶え絶えになって宿の迎えの車を待っていた場所じゃないかと。
風呂を浴びた後、河口湖脇の遊歩道に座って、湖面の向こうに聳えているはずの富士山を眺めた。いまは、雲にすっぽりと覆われたあそこでなにが起こっているのか、僕は想像することができるようになったことがうれしかった。
東京丸の内でバスを降りた。日曜日を楽しむ人たちで賑わう丸の内中通りを歩いていると、なんだか不思議な気分になった。山から下界に下りてきた人たちは、皆同じ事を感じるんじゃないだろうか。
あれから一週間が経った。
ちょうど一週間前、僕は本八合目を目指して山を下っていた頃だ。
とても懐かしい気がする。
「富士一度登らぬバカ、二度登るバカ」ということわざがあるという。
僕はすでに、山頂を目指して再びあの道を登りたくなっている。
富士山登山記終了。
ほんまにお疲れさまでした(登るのも、書くのも)!
返信削除実はわたしは高校生のときに一度家族で富士登山に行ったことがあるんですが、高山病だったのか頭痛がひどくなり、八合目で断念したんですよねえ。
でもやっぱり、1度は登りたいです・・・。
そして1度登ったら、coolさんのようにもう1度と思うんでしょうねえ。
> コガさん
削除おお、ご経験者でしたか!
それは大変失礼しましたっ m(_^_)m
高山病は体質らしいんで、ゆっくり慣らしていけばなんとかなると思うんですけどねぇ。。。
晴れているときは、頂上からの眺めはそりゃもうすごいです。
断片的にしか見られなかった自分でもそう思いましたよ。
チャンスがあったらぜひ!