小指『不純愛プロセス』:BL漫画レビュー

初見の作家さん。
もともと電子書籍で分割配信されていた作品だとか。

「これで見たことぜんぶチャラにしてくんないかなあ…?」
自分が通う大学の講師・内海が偶然男性とキスしている所を目撃してしまった芹澤は、秘密にする代わりに飲みに行こうと誘う。
終電を逃し内海の部屋へと流れた芹澤が目を覚ますと、目の前には自分の”モノ”を咥える内海の妖艶な姿があってー…?

情欲と恋が交差する、ヨコシマでまっすぐな愛のプロセス。

エロに夢みるノンケ大学生
「コレは…本当にあの内海先生なのか…?」

普段は無表情な隠れゲイ講師
「だって君、口でされてみたかったんでしょ?」

なかなか素敵なコピーを背負ったカバーは、若い男にのしかかる眼鏡の男。
戸惑っているようで、実は強い眼差しで見上げている青年が気になって手に取ってみた。

あらすじの通り、コンパの帰り、繁華街の小路で男同士がキスする現場に出くわしてしまった芹澤。
そのうちの一人が、退屈な大学講師(地理学)内海だと気づく。

「秘密」は日常生活に彩りを与えてくれることがある。
「性」が隠蔽(抑圧?)されている日本において、「聖職」教員はさらにそれを隠すことを求められている。
何でもかんでも「オープンリー」にという姿勢もどうかと思うが、目の前に立っている教員が「ホモだったとは…」ってのは、捉え方はどうであれその人間の奥行きが急に広がったような印象を受けるにちがいない。

芹澤は、口止め料にと飲みに誘う。
「金をくれ」じゃなくて、一緒に飲もうよってところがちょっと可愛い。
酔って話すことといえば、彼女にフェラしてくれと土下座したのに振られたという失敗談。
そして内海の家に押しかけて、酒を呑み直そうという。




うたた寝しているうちに内海にフェラされて、口の中で果ててしまう。


「つーか、口でされんのってあんなに…」
気持ち良さを忘れられない芹澤は、「もう1回やってくれたら…忘れてあげてもいいよ」と内海を脅迫するのだった。

まあ、気持ちいいからね、アレは。
「男同士で気持ち悪い」という先入観や、本能的な忌避感がなければ、相手が男であろうと女であろうと気持ちいいことには変わりはない。
性欲に溢れている大学生芹澤にそういう先入観がなかったのが、この物語を成立させているキーだと思う。

内海に何回かヌイてもらっているうちに、芹澤は内海本人をだんだん知りたくなってくる。
内海の家に上がり込んで、芹澤が自分語りをすることもある。




「オレは単純に1人でいるのが好きじゃないんですよ。いろんなトコに顔出してはいるけど、実際みんな付き合いが浅いっていうか…」
「…さびしがり屋なんだね」
「アンタはめんどくさがりだろ!」
「そう、せーかい」

若い男が同じ部屋の中でゴロゴロしている風景は、なんか和む。
それはなんていうか、嫌味じゃない、キレイなものが側にいる快適さとでもいうのか。
それが頭のいい子だったらいい、素直で柔軟性のある子だったらとてもいい。
会話自体にとても意味あるような気がする。

そんな2人の空間に、内海の不倫相手から電話がかかってくる。
芹澤が電話を取り上げてキスしたら、「すげーキョヒられ」た。





ホモの大学講師、フェラの快感に興味本位だっただけの芹澤が、ちゃんと内海と付き合いたいと考えるようになる。

むかーし、むかーし、栗本薫が人物の書き分けができないうちは登場人物を2人に絞れとアドバイスをしていた。
それはよくわかる。
そしてリアリティーもちゃんと持たせろと。
なんでもありのファンタジーをやるためには、読者をねじ伏せられる高い技術がなければダメだと。
それもよくわかる。

この作品が好もしいのは、そこら辺がよくわかっていること。
あくまで主人公は2人。
コンパ好きだから友達がぞろぞろ出てきてもいいはずだが、悩みを相談しているのは1人だけ。
内海の不倫相手もだいぶモブ扱い。
それでいいのだ。
何にフォーカスして、何を省くべきなのか、この作家はよくわかっている。
おかげでストーリー全体に無駄がなく、すっきりとした仕上がりになった。

紆余曲折があって不倫相手と別れた内海がどうやってハッピーエンドを迎えるのか。
なかなかいい着地をするので、続きは本編で確かめてほしい。

1.絵柄
なんつか、少女漫画系BLではない。
なんつか、華が飛びまくる白泉社、エロい小学館に対して、地味にリアルな集英社風とでもいうか。
僕がなんども言ってきた「男に実は女を投影している」BLじゃなくて、いい感じで普通の大学生っぽい芹澤がいい。
こういう普通っぽい男の子が、実は一番エロくみえるんだ。

2.ストーリー
エロへの興味から身体の関係に進んでしまう教師と生徒。
王道といえば王道で、だけどディテールがよく練られているので、良い作品に仕上がっていると思う。



「ごめんね。君のこと散々めんどくさいって言っておいて。僕も…人のこと言えないのにね」
「でもーー俺は先生のめんどくさいところ、嫌いじゃないよ」

良いセリフじゃないですか。
他にもなかなか良いセリフがあって、作家は繊細な言葉選びができる人なんじゃないかなと思う。
あと両想いになった後の芹澤の言葉遣いや、立ち居振る舞いがわりと品を感じさせる。
普通なんだけど、ちゃんといいお家で育てられてきた子なんだろうなあと思わせる。

3.エロ度
年上の男を股間にひざまづかせて、快感と戸惑いにドキドキする芹澤がかわいい。
一方で「毎日部屋でヤってばかりだから俺、棒扱いされてるのかって心配しちゃったよ!」と不安を吐露する姿もかわいい。

4.まとめ
初単行本だそうだけど、いい作品だと思う。
BLのどういうジャンル(属性分けとかではなくて)に位置付けられるべきなのか、僕にはまだわからないけれど、こういうリアル系青春ストーリーはこれからも増えて欲しいと思う。良作。

絵柄 :★★★★☆
ストーリー:★★★★★
エロ度 :★★☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

0 件のコメント:

コメントを投稿