BL漫画レビュー:スカーレット・ベリ子『ジャッカス!』

良作打率のいいスカーレット・ベリ子先生の新作をレビュー。

「触っていいって誰が言った?」

ズボラな姉のせいで、うっかりパンストを履いたまま登校した啓介。
このままではクラスの笑い者!!
危ういところを親友・正行の機転で乗り切るも、保健室で着替えるさ中、
正行が脚をガン見していて……。


「ジャッカス!」って、日本人にはあまり馴染みのない単語。
jackassとは、まぬけとか、バカという英スラングだ。

主要な登場人物は男子高校生。
陸上部所属で、美脚の持ち主啓介。
女喰いまくりな金持ち天然イケメンの正行。
カミングアウト済みオカマの克己(保健医を落とそうとしている)。
そして、ホモフォビアの晴臣(実は克己が好き)。

これだけの登場人物をほぼ並列に並べて物語を進行させると大体破綻する。ところがそれを破綻させないのがスカーレット・ベリ子の構成力。絶妙なバランス感覚で過不足なく物語をまとめ上げる力は、作家本人の力なのか、相当に優秀な編集者が付いているのか、いずれにしても読者は幸せだ。

ジャージの下から現れたパンストに包まれた美脚が、正行の「やる気スイッチ」を押してしまう。



撫でて、さすって、口付けて、甘噛みされているうちに、二人はそれぞれ勃起していることに気づく。

男子高校生なんざ、ちょっとした刺激やシチュエーションでいくらでも勃つ。
勃ったら抜くまでおさまらない。
抜きあいを描写しているだけならホモ漫画なんだが、少女漫画の血を引くBLはここからが腕の見せ所。電車通学中の啓介に克己はいう。「こっちは子供だもん焦るし後先考えてらんないよ。自分のものにしたいっていうので頭いっぱいになっちゃう。そういう独占欲って止められないよ」。

身体(今回はフェチ?)から始まった性的独占欲を、どうやって両想いへ持って行くか。

女喰いは得意な正行は、啓介のバイト先に通い、耳元で囁き、贈り物をする。女は喰った後が面倒くさいという正行は、「理想の脚の持ち主が啓介ってもう最高なんだよね」と言う。ゲイではないけれど身体(脚だけどな)を求められる啓介の方が先に相手を好きになってしまうが、「好きは好きだけどさ、友達としてだろそれは」とグルグル悩む。女扱いされることに戸惑う啓介に、「その他大勢の女と一緒にされたくなかったんでしょ?」と克己は指摘する。

「相手の性癖に付き合ってでも正行先輩の親友っていう自分だけの特別なポジションを守りたかった……独占欲だよ」

決心した啓介は、正行を誘う。





ゲイビデオを見ているうちに正行に抱かれる自分を妄想して射精した啓介は、正行を足コキでイカせる。「こんな事したら本当に友達に戻れなくなる!」と叫ぶ正行に、「お前……気づいてたな、俺の気持ち。散々人使ってオナニーしといて、それでこっちが気持ちを傾けたら、気付かない振りして人の所為にして……マジでクソ野郎だな!」と啓介。

その後いろいろあってハッピーエンドになるんだが、本作品、啓介と、啓介のねーちゃんが男前すぎて惚れるわ。克己ちゃん、オトナすぎて泣けるわ。登場人物が皆キャラ立ちしているので、スピンオフ作品がいくつか登場しそうな予感がする。

1.絵柄
うまい。デッサンの乱れもなく、シンプルかつ力強いライン。
おそらくデジタルで作画しているんだろう、電子書籍で見る時は読みやすい。

2.ストーリー
4人の登場人物のうち、啓介と正行がメイン。保健医を口説いている克己。ホモフォビアな晴臣は実は克己が好きで、克己を追いかけているうちにひょんな事から新宿二丁目に出入りする事になる。学校の外でゲイシーンと接触した克己と晴臣をスピンオフすれば、もう一作は描けるな。

バカそうで実はかなり男前でいい子の啓介、たのもしい姉ちゃん。
正行が好きだという事をカミングアウトした時に「心配すんな。馬鹿な弟に馬鹿がもういっこ追加されたってだけの話でしょ?何よその顔。捨てられるとでも思った?」と笑った姉。僕が読んできたBL漫画で、もっとも男前で、ホロっとさせられた「家族」だったな。

ストーリーが適当で粗雑なBL漫画が増えている中、ここまで作り込んである作品はなかなかないと思う。

3.エロ度
フェチから始まるわけですから、テンションはちょっと変だ(笑)。
ヤンキーっぽいのが抱かれて色っぽい声をあげているのは、ちょっと……かなりエロいぞ。

4.まとめ
啓介の姉ちゃん、克己の背中を押した晴臣、失恋した晴臣と付き合っていくだろうデザイナー保坂。みんな誰かに支えられて、愛されて、力づけてもらっている。世の中に存在理由のない存在なんてない……そんなメッセージが込められているんじゃないかと感じたりする良作。絶対にオススメ。力強くオススメ。読まないと損するぞ!

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★★
エロ度 :★★★★☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

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