BL漫画レビュー:宮本佳野『青色セクスアリス』

とりあえず作者買いしている宮本佳野の新作「青色セクスアリス」。
セクスアリスとは性生活という意味だそうだ。

全寮制の高校で、青春真っ最中の高校2年生・陸。
教師の遠山に憧れているけれど、ゲイだと認める勇気もないー。
そんなある日、一人の寮生が突然、姿を消した!?
不良だけど寮生の信頼厚いリーダーの岡嶋、その同室の優等生・大友と一緒に、事件の謎を追うけれど…!?

閉ざされた男子寮には、男子高校生の恋と秘密が眠っている。

はっきり言おう。
本作、歴代宮本佳野作品のなかでワースト3に入る失敗作。
なんでこんな中途半端な作品を生み出したのか、僕には理解不能だ。

全寮制男子校を舞台にすると、ある種とてもハードルが高くなる代わりに、自由で複雑な設定が出来るのが特長だ。ハードルの高さとは、少女マンガ黎明期に竹宮恵子、萩尾望都らの大傑作が発表されているから、読者の求める水準がそもそも高いから。一方で、全寮制の学校を舞台にするといわゆる「世間の目」から隔絶した世界を作り上げられるので、かなり凝った、むちゃくちゃな設定も可能になる。

全寮制学校が舞台となるBLには、もちろんライトなものからヘヴィなものまで色々とある。ライトな作品だとエロ作品に堕ちることが多いような気がする。だって授業付きのハッテン場みたいなものだから。
他方、ヘヴィ系の作品になると、全寮制学校という舞台を活かしたゴシック小説のような仕上がりとなる。社会的な監禁装置ともいえる全寮制学校の中で、少年たちは様々なものから追い詰められる。古からのしきたり、先輩後輩関係、暴力、肉体関係(含む性暴力)、恋愛関係など張り巡らされた迷路のような環境から脱出しようとする主人公に読者は寄り添う。あるいは自ら作っていた心の壁をぶち破り、新たな人間関係を作って行く。寮はあくまでも仮の宿り。登場人物たちはいずれ何らかの形で卒業して行く。読者はそのカタルシスを楽しむのだ。

宮本佳野は陰影を活かし、モノトーンで美しい絵作りが出来る作家だ。
コメディよりも、シリアス基調の作品の方が断然上手い。
過去には「MOONY~桜花寮トリロジー」「彼の庭に咲く花」を発表している。
なのに……青色セクスアリスの中途半端さはどうしたものだろう。。。。

「閉ざされた男子寮には、男子高校生の恋と秘密が眠っている」だそうだが、実際のところ秘密らしい秘密はない。行方不明になった生徒のエピソードも、クライマックスまで本人が登場しないので秘密もなにもあったものではなく…。




しかも、このセリフの量。
吹き出しで画面が埋まっているマンガなんて滅多に見たことがない。
ちょっと異常?
すべった設定を、登場人物たちはセリフでなんとか繋ごうとしているのか??


やっぱり男子高校生を全寮制の学校に閉じ込める以上、相当凝った設定があることを期待したいのだよ。寮生活は「逃げられない」から、全力で運命や暴力に立ち向かってほしいのだよ。その過程で愛や友情が生まれ、人間関係が積み上がって行く。全寮制BLマンガの醍醐味はそこにあると僕は思っている。

1.絵柄
相変わらず端正な絵柄。

2.ストーリー
「閉ざされた男子寮には、男子高校生の恋と秘密が眠っている」はちょっと無理がある。正直なところ全寮制学校を舞台にする理由が見つからない。

3.エロ度
ビギナー向け。

4.まとめ
切なさ、やりきれない想い、子供の無力さと悔しさ、やさしさ、どうしようもないけれど愛さずにはいられない等々、もともと宮本佳野が得意とするテーマと外れると微妙な作品になる傾向がある気がする。シリアスは読者受けが悪いのかもしれないが、強みをもっと活かして欲しいと思う。

絵柄 :★★★★☆
ストーリー:★☆☆☆☆
エロ度 :★☆☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

0 件のコメント:

コメントを投稿