BL漫画レビュー:あべ美幸『SUPER LOVERS スーパーラヴァーズ』

いわゆるプロ漫画家が描いたBoysLove。
「八犬伝―東方八犬異聞―」を休載してまで描いたBLとはなんだったのか??

俺と家族になってみる?
-それで、もっとドキドキしてみない?

「母危篤」という知らせに騙されて海外に来るハメになった高校生の海棠晴は、そこで突然「お前の弟だ!」と零という男の子に引き合わされてしまう。野生児で誰の言うことも聞かない零を必死で世話する晴だったが、どうも零には出生について秘密がある模様。おまけに、ようやく零が自分だけに懐き始めた矢先、ある悲劇が晴を襲う。--そして5年後、成長した零に再会した晴だったが…?
苦労性長男、超美形双子、野生児末っ子の4兄弟が贈る一筋縄じゃいかないトラブル・ラブ登場!!

今日のBL書評は上手くまとまらないと思う。
だけど、今日書かないと言葉は溶けて消えてしまいそうな気がする。
上手くまとまらないこと前提で、備忘録的にスーパーラヴァーズを取り上げる。

ハードディスクがクラッシュして、たくさんのBL本を失った。そんななかで、再投資しても取り戻したかったのが「スーパーラヴァーズ」だけだったことに、僕はとても驚いた。無人島へ持っていく本はなに?の問いかけの答えを手に入れたような気分だった。実際、ハードディスクがクラッシュ後、僕はスーパーラヴァーズを再度購入した。

スーパーラヴァーズをBLと言って良いのかは議論の分かれるところ。
元ホストの超絶美形長男と、野生児末っ子が色々あるけれどカップルではある。
だが、本誌の中での比重はそれほど大きくなくて、テーマは別なところにある気がする。
というか、テーマは第1巻でストレートに提示されているのだ。



竹宮恵子の時代から、女性が描き、女性が消費するボーイズラブには、同性愛に仮託されたテーマがあった。逆にテーマが仮託されていない作品は、極論ただの「やおい」だったのだと思う。Boy meets Boyがたいしたハードルではなくなってきている今日、男性同性愛自体を作品テーマに取り上げたっておもしろくも何ともない。「なぜあなたはBoysLoveを描き続けるの?」という問いかけに答えを持つ作品が、やっぱり良作と言えるのだろうと思う。

アホっぽい設定ではある。
しかも話の進展は遅い。
だがしかし、人間の根底に横たわっている「寂しさ」をテーマに、その喪失感を埋めるために家族を維持することに熱心な長男と、物心ついてから初めて人間に優しくしてもらった長男を恋うてやまない末っ子。血は繋がっていないとはいえ兄弟であるから、世間体から言えば零は「弟」でいるしかなく。だけど、溢れる想いは長男晴を恋うて止まない。作品の中では「運命」とされている。だから「なぜ男同士で…」という葛藤はなく、周りもいちゃつく二人を責めたりはしないのだけど。

美形双子も長男が大好きで、次男に至っては割と重度なブラコン。従兄弟として登場する夏生も、やはり寂しさを抱えた人物。そんな登場人物たちが、たぶん吉祥寺の住宅街に設けられたカフェ付きの家で暮らしている。僕はこのテーマがとてつもなく好きなのだ。心の奥底にある耐えきれないほどの寂しさを、人はどうやって乗り越えて行くのだろうかと。

1.絵柄
本当に少女マンガの血を引く正統派ボーイズラブ。第1巻の主要登場人物の登場のさせ方が典型的。随所に花が置かれ、華やかな画面で構成されているのもその証左。常に光源を意識した絵造りになっていて、夏の午後を彼らと一緒に過ごしているような気分になる。
キャラクター造形も秀逸。美麗。僕は大好きだ。

2.ストーリー
色々とBLを読んできた中で、もっとも好きなシリーズ。いや、愛しているといって良いかもしれない。一つ屋根の下で暮らしているたくさんの「寂しがり屋」たちが、どうやってそれぞれの幸せを掴んで行くのか、それとも個々の幸せよりも「家族」を優先させるのか興味は尽きない。

3.エロ度
それなりにやってる。全然生ぬるいが。

4.まとめ
繰り返しになってしまうが、少女マンガフォーマットで描かれたきわめて正統派、きわめて端麗美麗な作品。人と人とが関係し、番い、共に生活する中で、人は自身の抱えている寂しさをどう消化し、どうやって乗り越えて行くのか。あるいは短い生において、ぬぐい取れない寂しさを自分の傍にいる存在がどれだけの慰めになるのか。その答えをボーイズラブが提示できるならば、それはすばらしいことだと思う。とても大切な作品。僕は最終章まで見届けるつもり。

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★★
エロ度 :★★☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

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