フロントにたどり着いたときにまず感じたこと、それは長い時間を掛けて大切に磨かれてきた建物だけが持つ独特の空気感だった。それはクラシカルホテルだけが持つ、歴史とプライドが醸し出すもの。仕立ての良いシャツに袖を通したときのような心地よさに包まれて、僕はすっかりうれしくなってしまった。僕らの生まれる前からこの宿に集い、寛いできた人たちがふっと漏らすため息が積み重なっているような、目をつぶるとそのざわめきが押し寄せてくるような気がする。周囲には、僕らのほかに旅人はいないのに。
彼氏がチェックインの手続きを行う。
荷物はすでに部屋に届けられているという。
若い女性の仲居さんに誘われて、今宵の部屋にいざ参らん。
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