しかし、稔は高校卒業とともに家を離れたままで、豊たち兄弟の間は、ずっと続いている手紙のやり取りが繋いでいる。
ある日届いた手紙には、八年ぶりに見る稔の写真が同封されていた。
そして、その夜、稔が家に戻ってきた。稔と過ごす久しぶりの夏。
やがて稔への想いが「兄」に対する以上の意味を持ち始めたことに気づいた豊は……。
幻冬舎のバーズコミックス ルチルコレクションから。
ルチルからの作品は、ハズレが少ないと僕は思っている。
ただ、昔ふうのボーイズラブとは少し異なっているのだけどね。
ボーイズラブの世界で兄弟ものというと、義兄弟が恋に落ちてしまうのはまだかわいい方で、リアル兄弟でできちゃって背徳のあまり誰も知らない土地へ流れて行くとか、ハードルの高い設定ではある。
『拝啓、兄さん様』はリアル兄弟ネタで、まあベッドシーンの描写がないので安心して読んでいられる。それよりもメインとなるのは文通という古風なコミュニケーションツールを使っていることで、二人の想いをより強く、深く、結びつけている。
物語もとても丁寧に作られていて、幼い二人の思い出、稔が家を出る時のエピソード、稔が帰郷してきた夏、どれもが丁寧。縁側のある田舎の家。窓を開け放して昼寝する夏の午後。日めくりが告げる夏の終わり。誰もの記憶の底に眠っている、まぶしい夏の日の思い出。それを一つ一つ引き出される思いがする。幼少期に幸せな思い出を持っている人は、一生幸せなんだろう。
ボーイズラブだけの傾向ではないのだけれど、最近のマンガの絵柄は大きく変わったなあと思う。手塚治虫から古い時代の少女マンガに主流だった「マンガ絵」。その後「アニメ絵」というものが登場した。そして最近だとこの『拝啓、兄さん様』のような、実写のような背景に違和感なく溶け込んでいる人物造形が生み出されてきている。マンガはこっち方面へ進んでゆくのだろう。そして、この空気感は日本人以外の作家にはまだ生み出せていないような気がする。なんだろう、この空気の揺らぎのような感じは。
1.絵柄
今風で、繊細で、季節感があって、どのコマも愛おしい。
2.ストーリー
8年ぶりに帰郷した兄と弟の話。海の近くの田舎町と、古い昭和風な一軒家で過ごす夏の日々は、その設定だけでも十分にファンタジーだ。こういう空気感はなにより愛おしい。
3.エロ度
エロはなし。
4.まとめ
以前は、セックス描写のないボーイズラブはつまらないと思っていたけれど、『拝啓、兄さん様』のような作品も良いものだと感じるようになった。なんというか、誰の心の中にも大切な永遠の夏の日があって、それを思い出させる愛おしい一冊。僕はこの作品がとても好きになった。ぜひぜひ、オススメ。
絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★★
エロ度 :☆☆☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)
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