BL漫画レビュー:ゆき林檎『玉響(たまゆら)』

ゆき林檎作品初の書評は、まったく関係のない方向へ (^^;

貿易商の一人息子である麻倉通忠は全寮制の旧制高校へ入学する。
そこで同室になったのは、幼い頃に唯一心を許した幼馴染み、立花だった。
けれど立花との再会は麻倉にとって複雑なもので--

って、麻倉忠通が入学した大正11年(1922年)当時、旧制高校と呼ばれていないだろとか軽く突っ込んでみる。当時は単に「○○高等学校」と呼ばれていた。

初版は2014年6月、その後店頭から姿を消し、Amazonでも手に入らない時期が長く続いた。ありとあらゆる手を使ってでも入手しようと思案していた矢先、2015年2月に増刷があり、ボーイズラブコーナーに平積みになった作品。

裕福な貿易商の家に生まれた麻倉忠通は、灰色の髪とブルーの瞳を持つハーフの少年。しかも華族の家柄だ。一方、幼馴染みの立花寅一は商家の息子。日本人離れした容姿のため、虐めに遭っていた忠通を救い、忠通が唯一心を許していた相手が立花だった。
13歳の夏、立花の情事を目撃してしまった忠通は姿を消す。欧州から帰国し、全寮制高等学校に入学した忠通と同室になったのは、4年ぶりに再会した立花だった。




お話として、特に新しさを感じさせる作品ではない。
木原敏江の「摩利と新吾」をBLで今風に書き直すとこんな感じになるか?
不思議なのは、ボーイズラブあるいはマンガ、小説の世界において、旧制高校を舞台にした作品が発表され続け、かつ、そんな世界を見たこともないのに魅了される読者が一定数いること。憧れなのか、懐かしさなのか、それとも美しさなのか。登場人物達は文学、哲学、国家、人生について語り合い、お互いの才能を磨き高め、そして国家を背負って行くような人物に育って行く。玉響の中でも万葉集や、プラトンが登場する。だけど、自分たちの周りにこんな世界はあったっけ?

最近読んだコラムで、川崎の殺人事件を枕に、中学・高校の荒れている根本理由を説明している文章に出会った。以前から僕も口にしていた事柄ではあったが、断言してもらってスッキリした。

「老生、断言する。現在の中・高の学習内容は量も多く、また難しく、十分に理解できない生徒が大半であり、学習が少しも楽しくないのだと。つまり、学校の勉強が分からない。ここに最大の原因がある。
 それを歴史的に言えば、こうなる。現在の高校の前身は、旧制の中学校等や高等女学校である。小学校卒業後、そこへの進学者はせいぜい一割。さらに一部は旧制高校・旧制大学へ、あるいは専門学校等へと進学する。残りの者や小卒者は社会に出て働いたのである。そして手に職を叩き込んでいった。
 ところが、現在ではほぼ全員が高校に進学する。となると、当然、大半の者は学習内容が分からない。土台ーーはじめから無理な話なのである。国数社理英はリベラルアーツ(教養科目)であり、少数の者のみがすべてを理解できる。大半の者は、わけが分からぬままにずっと椅子に座り続けている。中高六年間。

大事な文章なので記録しておきたかった。
BL書評に書き込む内容ではないことは確かなのだが。

僕は世界史で大学受験したが、日本史をとっている同級生の内容を聞いて仰天した。世界史もいい加減覚えることが多くて辛かったが、扱っている内容のほとんどは歴史の流れだった。日本史ではどこかの寺の、なにかの仏像の、なにかの冠の形状を、ものすごく長い漢字の羅列で書かされていた。それって学者の世界の話じゃないのか?と、当時思っていた。学者バカが繰り出す入試に対応するため、各科目学者の卵程度の知識と理解を求められたら、大半の高校生は挫折するだろうよ。

6年間をわけの分からない学問のために机に縛り付けられているのは、確かにもったいないことだと思う。ある人間の可能性や才能をある年齢で決めてしまうのも酷なのだけど、早くに適正を見極めることも大事だと思うのだよなあ。職人の道に進んでも必要に応じて高等教育に戻って来られる、あるいは高等教育を受けていても職人の道へ進める、みたいな柔軟性のある制度を設計できたら、たくさんの人が救われるんだろう。

結局、旧制高校を舞台にした物語は、いずれも将来を嘱望されたエリートの卵たちのストーリーなのであって、ほとんどの者にとってはファンタジーなのだよなぁ。そのファンタジーにBLフレーバーが添えられているのだから、ますますファンタジーの世界へ行ってしまうわけで。

1.絵柄
うまい。端正で美しい。

2.ストーリー
旧制高校を舞台にした二人の青年の物語。正直、とりたてて新しさを感じさせるものはないのだけれど、手触りの良い、端正な物語。やや切ない。

3.エロ度
Amazonのレビューでは、セックス描写への不満が散見されるのだけど、この物語の肝はそこじゃないだろ?

4.まとめ
戦前の物語は、いつもロマンが溢れている。

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★☆☆
エロ度 :★★☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

2 件のコメント:

  1. 去年まで小中学校の子供たちとのつきあいのある仕事現場にいまして、早い子では、小5くらいでもう「わからない」森に突入しています。
    そこでつまづくと、あとからあとから増える学習量にただただボーっとするのみ。

    親は「せめて高校、それも公立の普通科に行ってほしい」と思うんでしょうけど、成績が底辺の子は学校に居場所がないので、外につるめる仲間を求める。するとああいうことにつながっていく。

    今は高校卒業資格を発行できる専門学校のようなものもできていて、メイクやヘアなども習うこともできて技術も身につけることができるようになっているので、普通科に固執しないで広く進学先を考えたほうがいいなと思うよね。

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    1. そうなんですよねぇ。
      リベラルアーツに向いていない子でも、科目を絞って各個撃破して行けばちゃんと習得できるかもしれないのに、躓いた教科に足を引っ張られているうちに戦線が伸びきってしまい、「わからない」森を彷徨うことになるんですよねぇ。
      中学校の程度の内容はともかく、高校の教科は単位制にして、4年かかっても5年かかっても自分の理解度に合わせて学習できれば良いんじゃないかと思ったりしてます。
      エリート養成のためにはオールラウンドの授業が必要なのかもしれませんが、凡人達はもっと絞り込んだカリキュラムでも良いんじゃないかなあ。

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