そのうち僕が悪いことを思いついた。
プーケットにも盛り場があって、そこはバトンビーチという場所らしい。マイカオ・ビーチのような閑かなビーチリゾートとは対照的な、昼間っからカマカマしい雰囲気で過ごしたいならばパトンビーチに滞在しろ、なんだそうだ。もっともゲイサウナとGO GO Barが数軒あるだけだそうで、バンコクのすさまじさに比べれば可愛いもんだそうで。
マリオットからパトンビーチへ行くバスが出でいることがわかったので、お昼から寝起きの彼氏に頼んでコンシェルジュに予約を頼んでみた。電話をかけたコンシェルジュは「残念だけど、もう満席。タクシーチャーターでどうですか?」と言う。僕の記憶が確かならば、バスだと往復一人750バーツ。二人で1500バーツ。タクシーをチャーターしたらおまけしてもらって2000バーツくらいだった。しかも現地3時間滞在を4時間に延ばしてもらった。それでお願いすると、TOYOTA ハリヤー系の高級RV車が用意され、高速道路をぶっ飛ばしてパトンビーチへ向かう。
パトンビーチが近づくと、道路の渋滞は激しくなり、ちょっと身動きを取るのも大変そうな人の波と、延々と続く車列に驚かされる。僕たちはミレニアムホテルが併設されているジャンクセイロン ショッピングセンター前で車を下ろされた。約束の時間前に帰りたくなったら電話してくれと、モバイルフォンの番号が書かれた名刺を渡された。
さて、パトンビーチ。
なんというか、闇に咲いたケバケバしい毒花の花圃に迷い込んだ気がした。紫のネオン、遠雷のように鳴り響く大音量のサウンド、肉の焼けるにおい、歩行者天国になった通りで客を引く女たち、アローコプターを空に飛ばす少年、ドラフトビールで酔っ払うファランたち。アジア的なカオスの濁流に呑み込まれる町、それがパトンビーチだった。
この町の地図を準備することを忘れてきてしまい、僕らは大通りに沿ってグルグル歩き回る羽目になった。なかなかレストランも決められず、歩き疲れたところでビーチ沿いのシーフードレストランに入ることにした。
イカのフライや、エビの黒こしょう炒め、空心菜の炒め物などを注文した。待っている間、彼氏とおしゃべりをしていたんだが、実はこの頃から僕は体調不良に襲われていたんだ。日中、プールで泳いだあの1時間で、酷いサンバーンを起こしていた。サンバーンとは、要は炎症が起こっているわけで、それが下肢を含めて広範囲に広がっていた。はじめ熱を持っていたそれは、関節痛に発展し、さらに寒気がして身体がガタガタと震えだした。口に運んでいる食べ物の味もよくわからなくなってきた。
レストランを出て、彼氏に申し訳ないけれどホテルに帰りたいと頼んだ。車を降りたショッピングモールの中を歩き回って公衆電話を探し、運転手のモバイルフォンを呼び出した。10分ほど待ってチャータータクシーが到着したので、這々の体でホテルに戻ったのだった。バスだったらもっとお安く済んだけれど、23時近くまでパトンビーチを離れることが出来ず、僕は相当つらい思いをすることになっただろう。高い出費になったけれど、結果的に助けられた。
ヴィラに戻って、早速、風邪薬とバファリンを飲んでベッドに潜り込んだ。