一ノ瀬ゆま『gift 中』:BL漫画レビュー

サブタイトルは「赤い桎梏の、約束の場所の、望んだ十字架の、」と上巻に続き長い長い。
「gift 上」のレビューはこちらで。

美しく獰猛な青年・勁と出会った宥。危うく距離を詰め、熱を分け合うように情を交わすふたりだが……。邂逅と宿命の物語、中巻! !

上下巻と思いきや、堂々の上・中・下の三部構成になったようだ。
その分、ストーリーが複雑化し、伏線を回収してうまくラストにつなげられるのかやや心配。

ボクシングジムトレーナー御子柴宥(みこしばゆたか)に才能を見出された白石勁(しらいしけい)。勁は宥の身体と引き替えに、弱小ボクシングジムに入会する。クローゼットゲイの宥は男だらけのボクシングジムトレーナーという立場もあり、周囲に自分が同性愛者であることが知れることを極端に恐れていたが、勁と身体を重ねるようになる。

複雑、そして悲惨な過去を背負った勁は、二人の子供人格に操られる「抜け殻」のような状態であった。勁は宥を喜ばせるためにボクシングを続け、2ラウンドKOでデビュー戦を勝利する。

ここまでが上巻。

そして中巻は怒濤の、そして想定外の展開を見せる。

宥のもとで徐々に人間性を取り戻して行く勁。
勁のボクシングセンス、「神の与えたギフト」に魅了される宥は、結果として勁を追い込んで行く。宥は愛情を注いでいるつもりが、情事後のピロートークですら結果として勝利を求められていると勁は考えるようになる。



勁の中の子供は「設定④: 宥は勝利以外の結末なら『要らない』」としてしまう。期待されるが故に、その期待を裏切ってしまったとき、自分の存在価値はないと考えてしまう。

WBCフェザー級タイトル戦の前座試合出場が決まり、それに向けて調整を続けるうちに、勁は心因性の拒食症を発症する。そして試合に負ける。

「俺、いつ出て行けばいいの?……勝てなかっただろ、あんたの欲しいものをやれなかった」と問う勁に「負けてもなにも変わらないよ。おまえはここにいていいし、俺は勁がボクサーじゃなくても傍にいてほしい……おまえが好き……けい……すきだ、すきだ、けい、すき」と宥は気持ちを伝える。

二人の気持ちが伝わった幸せが、直後に暗転し、勁はボクシングジムを出て行く。
そして街で実の兄と再会し、さらに過酷な運命へ墜ちて行く。

勁は「崔」と名乗る在日アジア人を首領とする非合法活動に手を染める集団「ヴェイクラム・デイ」に引きずり込まれる。殺人を唆されても「殺すな」という宥の記憶だけが勁を「あっち側」へ墜ちることを押しとどめていた。

そもそも勁と宥が離れ離れになった原因の一つは、宥の弱さが引き起こした。
ゲイバレを宥があそこまで恐れなければ、勁は部屋を出て行かずに済んだ。
勁の才能だけじゃなくて、勁の存在を愛していると早く伝えていれば、こんなに拗れなかった。
勁が「あんたの欲しいもん、なんでもやるよ」と自分のすべてを差し出していたことに気づいて、宥は勁を探し始める。御子柴ボクシングジム存続のためではなく、勁を取り戻すために……。




宥からのメッセージに気づいた勁。



勁にとって宥は、血の通った桎梏(しっこく:手かせ足かせ)であり、約束の場所だった。

約束の場所に戻るため、勁は望んで十字架に登ることを受け入れる。
「彼の元へ帰りたいかい?
 ……その刃物で腹を刺してほしい。」

「ヴェイクラム・デイ」の非情な要求に対する勁の答えはシンプルだった。

「おれかてなかったから、ほかになにもないから
 おれのぜんぶ ゆたかにあげるの!!」

きょう ゆたかとあうやくそくだから よろこぶかおが みたい

ほんと、このBLマンガを紹介しようとすると、とにかく説明説明の連続となってしまう。
BLの枠に収まらない作品、と言えば簡単かも知れないけれど、一ノ瀬ゆまの繊細な作画も見方を変えれば劇画作品に分類できないわけでもなく、もし宥と勁のセックスが描画されていなければ、ヤングチャンピオンあたりに掲載されていても不思議ではない方向性を感じてる。
ここしばらく僕は「ブロマンス」というキーワードを引き合いにしているが、セックスに至らないまでも男同士の深い信頼関係、愛情関係は現実世界を含めいくらでもある。団体スポーツの世界から、軍隊、ヤクザが世話になった兄貴のために命を落とす任侠の世界を含めて。なぜボーイズラブなのか、読者を納得させられる着地点を作家には見えているのか、かなり不安だ。

1.絵柄
相変わらず美しく、スタイリッシュ。裸体もとても美しい。
御子柴ジムの雑魚キャラももう少し丁寧に描いてやれよ、と思ったりする。

2.ストーリー
中巻ではいったんボクシングから離れて、新興宗教の非合法活動に身を落とす勁の過酷な運命が中心。上巻とはだいぶ趣が変わってしまっていて、下巻でボクシングストーリーには戻れないんじゃないかな、と思う。

3.エロ度
エロい。でも過酷な運命を前にしたささやかな、幸せの時間であったということが読者には分かっているから、エロいというよりも痛々しい、涙を誘う感じ。

4.まとめ
結果として「望んで十字架に登った」勁は、このあとどれだけの犠牲を払うことになるのだろう。どんなエンディングを迎えようとも、この物語から目を離すことはできない。願わくば二人に幸せと安寧の日々が訪れますように。

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★☆
エロ度 :★★★☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

0 件のコメント:

コメントを投稿