表紙がいろいろと意味深なわけで。
声や性格、しゃべり方も全て自分がモデルの会話型人工知能――「DD」。開発したのは、大学生のユルこと万木(ゆるぎ)だ。さらに会話機能を高めるため、AIの育成に精通する紳士・真中にDDを託すことに。「きみの声は素敵でかわいい…好きになっちゃうよ」こっそり育成中の会話を聞くユルだが、真中のDDに甘く語りかける言葉が、まるで自分を口説いているみたいに感じて、うっかりときめいてしまい!?
ふむふむ。
ストーリーとしては、第一話(Lesson01)の扉絵でネタバレな訳で。
年齢50歳くらいの初老の研究者に、男子大学生がときめいてしまい、ワタワタするお話。
一応三角関係で、その一角がユルが創り出して、真中が教育した人工知能というのが捻りが効いている。
どんなリアクションを返してくるのか予測不能なAI、妙に人間くさくて、ジョークも言えるAIは、声と性格はユルがベースになっていることもあり、自分の分身に嫉妬してグルグルする様子はほほえましいかな。
ところで、今は亡きJUNEの女王、BLの遠い生みの母であった栗本薫が、「『夜、誰もいない土俵で、あなたと二人きりで相撲を取りたい』って……相撲に罪はないが、相撲JUNEはねぇわ」みたいなことを書いていたことを記憶している。
ボーイズラブという名前の通り、そもそもBLの主人公たちはせいぜい35歳くらいまでだった。その後、オヤジ受けジャンルが開発されたものの、初老・老人は「若い頃を思い出して」とか、タイムスリップネタ(しかも若返るの)でしか使いようがなかった。爺ネタは、なんてか、現役の恋愛対象として使うのは難しかったんだよね。
やっばりさ、セックスアピールとして若さは正義なわけよ。
張り詰めた大胸筋の上に薄い色素のように震えている乳首と、皮と筋肉が剥離してゆるっゆるの胸で咲くでっかい干しぶどうのような乳首じゃ、やっぱちがうのよ、エロさが、美しさが!それをビジュアルに落とし込むのは、BLとしてかなり振り切っている。やるなあって感じ。
その一方で、年をとって、二回りも年下の若い男が欲情してのし掛かられるのは、ものっすごいメルヘンなわけでもあって。だからまあ、真中さんにのし掛かっているユルくんは……夢のような存在なわけで。
古くはルキノ・ヴィスコンティ「ベニスに死す」があるけどさ、アッシェンバッハ先生はもはや老醜だったでしょ?スクリーンのタージオの美しさは永遠だったけど、現在のビョルン・アンドレセンのなれの果てを見て、人生のはかなさにしみじみする訳で。
ゲイの中にフケ専というすてきな人々がいる。もっとすごい「桶専」「介護専」とかいう人たちもいるのだけど、老人の肉体に性的魅力を感じているのかどうか、僕には分からない。たまに飲み屋で遭遇するフケ若カップルは、だいたい小難しい歌舞伎やオペラ、クラシックなどの高尚な話に耽溺していて、ワカモノが老人の知識に敬意を表しているように僕は思えた。たしかに年上は若者の知らない世界と時代を知っているわけだが、二人が同じ地平線に立って新しいものを楽しむことってなかなか難しいことなんだろう。
くすぶっていた元天才AIエンジニア真中がユルの分身DDの成長を助ける。第一線から外れてしまった研究者が、若い後進と新しい技術を穏やかに愛する気持ちはごく自然なことだろう。その自然な「愛情」はすごく好もしいと思ったさ。
1.絵柄
枯れた作風で真中先生はいい感じ。首のあたりに年齢を感じさせる技術がなかなか。
2.ストーリー
AIですよ、AI制作者。自分大好きなジャンルです。
「教えを請う」「後進を愛する」という師弟関係に、自分の分身AIが間に挟まって嫉妬しちゃう捻りがいい。
大型わんこ系ユルくんの性格が良くって、読者を虜にしてる。
3.エロ度
大学生にのし掛かられる50歳初老の男。回春剤か、アナルを破壊されるのか……?!
4.まとめ
ほんわか系で悪くない佳作。
フケ専の方はぜひ!
絵柄 :★★★☆☆
ストーリー:★★★☆☆
エロ度 :★★★☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)