別府市内に滞在しています。

亀川行き2両編成のワンマンカーを降りると、そこは別府だった。
国内有数の温泉地であることは間違いないが、下車した乗客はそれほど多くなく、あっという間に散っていった。

「ピカピカのおじさん」というけったいな銅像があって、それは油屋熊八という亀の井ホテルの創業者なんだとか。
とにかくすごいインパクトの像だったわ。


ピカピカのおじさんから逃げるように緩い坂道を下って行く。
途中にレトロな建物があって「駅前温泉」という看板が掛かっている。


ちょっと良い感じだったので写真を撮っていると、脇にいたおばさんが「これは有名な建物なんでしょうか」と尋ねてくる。自分は旅行者だから知らないと答えると、「私はとても気に入って泊まったんですが、こんな汚い場所に泊めやがってと旦那がキレてしまって……」と彼女はぼやく。そんなこと僕に言われてもねぇ。


適当に女性を放置して、今夜の宿にチェックインする。
昨日に比べると部屋は狭いが、明るく、木材を多用しているので、あまり狭苦しい感じはしない。コンパクトで、機能的ならば、それはそれでビジホは悪くない。


スーツを脱ぎ、大浴場で汗を流してから、フラフラと別府の町を散策した。


古ぼけたアーケード。古い温泉街。
昭和レトロとしか言いようのない、時間のよどみに埋もれている。

海沿いの公園でスケートボードに興じる少年たち。
係留されたヨットのマスト群と、その横を猛烈な速度で走り抜けて行く車列。
海に近い町で生まれ育ったら、僕はどんな人生を送っていたのだろう。
そんなことを考えながら歩いた。

18時にならないと開店しない飲食店群の間を散歩しているうちに、明るいうちから客が集まっている寿司屋を見つけたので入ってみる。「はじめ寿司」という穴子の握りが一押しらしい。

常連客と大将が楽しそうに話している店は、一見客は冷たくされることが多い。だが、幸いにもやさしく取り扱ってもらった。ビールをちびちびやりながら、握りと1本丸ごと穴子寿司を楽しむ。一本穴子は江戸前とは違って、パリッと焼き上がった皮からアロマが立ち上がって、僕は気に入った。




最近趣味の釣りのためにクルーザーを買ったという社長とその奥さんが隣席にいて、少しおしゃべりすると「あんたを気に入った」とおっしゃり、切らせたばかりのシマアジの刺身を食べろ食べろと分けてもらったり、アラの煮付けを勧められたりと、ずいぶん親切にしてもらった。

「楽しかった、また別府に来たらお邪魔します」
「シマアジごちそうさまでした」と礼を言って店を出る。


店主には店の外まで見送られた。
もらった名刺には穴子のたれのシミのようなものが着いていて、なんかほっこりした。

帰り道に別府タワーに登ってみた。
「真実の口」を訪ねない間はローマに未練が残ったことを覚えているから、別府タワーに登っておけば、北浜に未練は残らないだろう。薄暮の別府湾と、湾を縁取るテールランプの列は、想像していたよりも美しかった。





疲れたから、今夜は早く寝ることにしよう。

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