いま最も注目している作家の一人。
今回も期待裏切らずのクオリティに、全オレが涙という感じ。
結論を先に言っておくと、腐女子よりも現役高校生ゲイに読んでもらいたいな、と感じた良作でございました。
大和がゲイだと偶然知った唯司。その報われない恋が、誰へ向けられているかに気付いた唯司は、大和の幸せを願うが…!?
物語はゲイ高校生の吉永大和(よしながやまと)と、大和がゲイだと気づいてしまったノンケの長谷川唯司(はせがわゆいじ)のモノローグに導かれ、進んでゆく。
ダブル主人公だが比重は唯司の方が大きいかな。というのも、この物語の上手いところは、大和に対するノンケ少年唯司の独特の距離感なのだ。大和が報われない恋をしている相手は、グラビアアイドル大好きの恭介。恭介は唯司の友だち。
唯司は女の子大好き側の人間だけど、たまたま大和がゲイであることを知ってしまう。「知ってしまうと見える世界はこんなにも変わってしまうんだ。いままで気にならなかったことが目について、些細なことでも意味があるように見える。そんな自分の意思ではどうしようもないーー」と戸惑う唯司。うーん、自分で考えるタイプのイケメンだ。かっこいいね。
実は大和と唯司は付き合いがなかったのだが、大和と同中出身の柴田奈津実が勉強会をセッティングする。奈津実は大和が「でも俺がドキドキするのはいつも女の子じゃないんだ。これが本当なんだ」と話していた相手。唯司が聞いてしまった真実を知る女子。大和に接する彼女の距離感がまた絶妙。
そして唯司はこんな事を思う。
「吉永が本当に恭介が好きなのかわからないけれど、なんかいいなが積み重なって人はいつのまにか恋に落ちてるとしたら、好きになる相手は選べないんだ。吉永だってどうしようもないんだろう。それが同性ってのもー」
や、唯司くん、本当にイケメンだわ。
その言葉は唯司にブーメランのように返ってくる。
「恭介は知る由もなく、ほんのときどき恭介を見てる吉永。そんな吉永を見てる俺。俺はどうしていいのかわからなくなっていた」
ここまでが第一話なのだ。
すでに傑作の風格と余韻を漂わせながら、物語は第二話へ。
「誰かにバレたときの想像は、いつも悪い方向にしか考えたことなかったから、まさかあんなふうに言ってくれるとは思わなかった……どうするんだろう、どうなるんだろう、どうしたらいいんだろう」
「ちゃんとふつうに見えていますように…」
「はっきり自覚してからは人目ばかりが気になって、臆病から無難に人あたりよくすごすようになって、俺はきっと嘘くさいんだろう」
なんか、このページは自分も身につまされた。
職場でカミングアウトしていないから、プライベートのことはほとんど話していない。僕もきっと謎の人認定されている。ゲイの世界では逆に仕事の話は一切しないから、やっぱり謎なリーマン。振られる話も適当に受け流しているから、僕も相当嘘くさいと思われているんだろう。だけど僕も大和と同じ「言ってなんになるでもないし、言ったところで周りも自分もデメリットのほうが大きいとしか思えないし。ただときどき罪悪感はあった」。これが第二話の冒頭。
この先もびしびし心に刺さるセリフが連発されるのだけど、紹介していると全編引用になってしまうので、興味のある人はぜひ単行本を手に取ってみて欲しい。これはたぶん、ゲイに関わる多くの人にとって、とても大事な作品になる予感がする。
1.絵柄
うまい。今風……というか、Web漫画系というか、小畑健の夜神月ふうとでも言ったら良いのか。あと学校の風景など背景処理がとても映像的。
2.ストーリー
とある高校を舞台にした群像劇、と括ってしまうにはもったいない。なんだろう「何者とも固まっていない時代の、少年期特有のあやうさをはらむ揺れ」が裏テーマとしてあるのかな。高校生という舞台で、普通と普通じゃない間の揺れ、ゲイとノンケの間の揺れ、男と女の間の揺れ、嘘と本音の間の揺れ、理想と現実の間の揺れ、友情と愛情の間の揺れ、異性交遊と同性交遊の間の揺れ……そのいずれもが平行で走っていて、独特の空気感を醸成している。
あと、女子の関わらせ方がものすごく秀逸。なんというか……普通に少女漫画を読んでいるような感覚。BLというと通常主人公男子二人にフォーカスを絞るけれど、時々もっと「引き」の視点で描かれる作品が生み出される。「こいものがたり」は後者に属する。だから、高校生の日常生活の中に、じわりじわりと同性を好きになってしまう葛藤が描かれ、これがなかなか秀逸なのだ。
で、もうちょっと書き加えると、本作品には普通に女子が登場してくるのだけれど、これを嫌悪する腐女子が少なくないらしい。腐女子には悪いが、それはある種の「歪み」だよと思う。女子のいない、男子だけの恋愛物語なんて、少し歪んだ世界観だと認識した方が良いと思う。
3.エロ度
第一巻ではなし、チュー止まり。しかも大和×唯司でもなく。
4.まとめ
「いまどきさー、ゲイなんてオレらが思っているよりも気にしないって人多いかもしんないよね。こういうの見てると勘違いしちゃうよね。なんか案外あっさり受け入れられそうって空気になってくるじゃん……でもさ、世の中的にいくら良くなろうとも、たった30人程度の集まりのクラスでさ、一人の派手なやつがキモイっておもしろがりだしたら、結構終わるよね。高校生ぐらいなんかで失敗したら逃げ場なんて無いし、そういうせまい世界で生きてんだよね、俺ら」
こういうセリフを書ける作家って、なかなかいないと思いません?
絶賛して、オススメの一冊。
絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★★
エロ度 :☆☆☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)