ソレント最後の夜 2011年欧州旅行記-35

アマルフィからソレントに戻る船は、夏休みの若い学生たちが同乗していてごった返している。どうも海で遊んできたらしく、テンションが下がる気配はないようだ。夕陽がティレニア海をオレンジ色に染め上げていた。沖合には、前日訪問したカプリ島が黒い影になって佇んでいる。

ソレント港で下船し、ソレントの有名ホテル"エクセルシオール"を仰ぎ見ながら、マリーナ・ピッコラ通りの滑りやすい石畳の坂を上る。そして崖に刻まれた階段を登り切ると、タッソ広場に出る。アマルフィで買い込んできたお土産をホテルに置いて、僕らはふたたびソレントの繁華街にさまよい出る。ソレントのお土産を買うなら今夜が最後。細い路地をあちこち移動し、僕が買い込んだのは、イタリアでよく売られているインスタントなリゾットやパスタに混ぜる具。昔、母親に連れられてイタリアを旅行したとき、アッシジで買い込んだ唐辛子を大胆に使ったスパイシーなそれがとてもおいしくて、冷蔵庫で保管しながら長い間楽しめた。そんな家族の記憶がおかわりできたら良いなと思って。

一方、彼氏はエノテカ探しに余念がない。
二人ともラヴェッロでの昼食ですっかりお腹が膨れてしまい、今夜は軽くつまみながら、ワインが飲めたら良くて、ただ……いざ探し始めるとエノテカは見つかりにくい。
やっと路地裏で見つけたそこは、お客の入っていない寂れた店だったけれど、彼氏によると、これだけクオリティの良いグラスワインが、こんなに種類があって、しかもこのお値段で飲めるなんてー!と言うことらしい。僕は"アンティ・パスト・ディ・マーレ"にすっかりはまってしまい、グラスの中で赤ワインをくるくると回しながらおしゃべりに夢中になった。路地裏のこのお店が、どうか繁盛しますように。


前夜、ヴィクトリア広場からタッソ広場へ移動する途中で、様々な形の瓶が並ぶレモンチェロの店に立ち寄った。そこで試飲させてもらうと、レモン以外にメロン、ミルク、マンゴーなどの種類があって、アマルフィの苦いそれとはだいぶイメージがちがっていた。

二人して良い気分になってホテルに戻ってきた頃には、すっかりあたりは闇の中。オレンジ色の街灯が空っぽのバスプールを照らしている。明日にはこのホテルを引き払うのか。いい思い出が残ったホテルを去るのはさみしい。だけど、新しい出会いはその先にある。旅ってそういうものだろう。隣にはいつも彼氏がいてくれるから大丈夫。

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