BL漫画レビュー:永井三郎『スメルズライクグリーンスピリット SIDE:A、SIDE:B』

"このBLがヤバイ 2014"第7位ランクイン。
今日の語りは異常に長くなるので、結論から言う。

これは絶対に買え!
迷わず買いに走れ!!


ド田舎に住む学生、三島はクラスメイトの男子からイジメを受けていた。理由は三島が“ホモっぽい"から。実際に男性が好きな三島は抵抗するすべもなく、隠れてする女装だけが心の拠り所となっていた。ある日、三島がいつもの様に屋上で1人の時間を満喫していると、自分が以前なくてしまった筈の口紅を持ったイジメグループのリーダー・桐野を目撃してしまう。彼はこっそりと三島の使った口紅を自らの唇に塗ろうとしていたのだった……。


「いま、女装がアツイ!」

正月早々、新宿二丁目の某店ママと3時間あまり差しで話し込んできた。政治経済から文化まで、縦横無尽の時事放談。ブログ的には「女装が熱い」というネタが一番おもしろかった。ボトルを入れている店は30軒以上という彼女が言うには、去年、三人の店子が女装店に移籍したのだそうだ。三人は全く接点がなく、移った先の女装バーも全く別。だけど移籍時期だけは、なぜか同じだったという。

そのうちの一人は僕も知っている店子で、「ええっ!?あいつが女装に行ったの!?」と戦慄が走った。彼の様子を見に行ったママが言うには『最初はさ、二丁目の誕生日パーティにみたいに後手組んで「ドヤッ!」という感じだったわけ。それから1月経つと、上目遣いの目線とかしっかりオンナになってるのよ。ビラ配って女の子に間違えられたことを自慢するようになって…女装している間はオンナになりきっていたね』。ギャル男のあいつがねぇ……オンナになりたがっていたとは知らなかった。

ゲイも差別されるポジションとはいえ、「女装」への迫害に比べればかわいいものかもしれない。ゲイはまあ、社会的に繕うことができなくもない。だけど、女装は世間様の常識と真っ向勝負、まともな社会人というものから降りることを意味している。
昔の、女装したゲイバーのママは「なめんなよ!ヤクザが怖くて女装やってられるか!!」とメンチ切るくらい剛の者だったという。世間の常識とか、体面とかをかなぐり捨てて、本当の自分を追求する求道者たちの片隅に女装者たちがいる。

スメルズライクグリーンスピリットの3人の少年のうち、三島は女装癖がある。結論から言ってしまうと、物語の終盤、三島は本当の自分を見つけられるようになって女装をやめる。三島にとっての女装とは、常識、世間体を破るための儀式だった。
三島をいじめている桐野は、校舎の屋上でルージュを引いているところを三島に目撃され、「パンドラの箱」が開いてしまう。イケメンなのにおねぇ…… orz。


3人の物語は、終盤、三島と桐野が全く別々の道を歩んでゆくところで終わる。もし、彼らが都会で出会っていたならば、こういう結末を迎えることはなかっただろう。三島は「家」から都会へ送り出され開花し、逆に桐野は「家」に止まることを決めた。あの夏、桐野が夢見た桃源郷は胸の奥底で圧殺されたのか、それとも熾火のように燻っているのか。ノンケとして暮らす桐野は、本当の自分を殺してしまったのか、あるいはノンケとして暮らすことを選んだのが彼の強さだったのか。いろいろと切ない。

僕が話し込んでいたママの友人に、女装メディアの編集者がいる。その編集者が言うには「いま、女装がアツイ!」んだそうだ。ここ数年で一番の手応えを感じているんだとという。二丁目には「女装男子」が集まるバーもある。女装男子は必ずしもゲイではない。また、月一回の女装イベントが開かれている。そのオーガーナイザーはまだ20代。「部室のような場所作り」を目指し、何年も周到な準備を進めた。そして今では大箱があふれるほど客が集まるイベントになったという。

「女装たちを解放したのが、20代の若者だったなんてねぇ」

遠い目でママがつぶやく。
僕らはそれぞれにゲイシーンを楽しんできた自覚はある。
だけど、若い世代が新しい地平線を切り開いてゆく姿に、淡く嫉妬する気持ちも残っている。僕らはまだまだ枯れていないらしい。

1.絵柄
うまいと思う。
桐野なんかは、おねぇの夜神月(やがみらいと)って感じ。

2.ストーリー
これはもう読んでくれ、と言うしかない。いろいろなゲイストーリーを読んできたけれど、BL青春群像劇としては秀逸。愛よりも、痛み、そして成長する強さ。凡百のボーイズラブと一緒にするのは申し訳なさ過ぎる。なんとなく、若い頃のリバー・フェニックスとキアヌ・リーブスの映像を見ているような、やるせない、切なさを思い出した。

3.エロ度
ほとんどない。というか、もうちょっとエロを書いてくれても良かったかも。

4.まとめ
ストーリー上「女装」を自分の殻を破る儀式として使ったのは上手いと思う。そして都会でカップルとなる三島と夢野のエロシーンを描かれていないのも、実はよく考えられた着地点なんだろう。アホだけど、夢野クンはすごくいいやつだ。

絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★★★
エロ度 :★☆☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

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