BL漫画レビュー:宝井理人『テンカウント2』

さてと。発売からだいぶ時間の経った宝井理人作品。
amazonでは相変わらず上位にランキングされているので、リリース後も順調に売れている作品なのだろう。

「今日ずっと黒瀬くんに触られることばっかり想像してました」

心を預けはじめていた黒瀬から、突然カウンセリングの終了を告げられた城谷。
ショックで引きこもる彼のもとに、再び黒瀬から呼び出しのメールが届くー。
黒瀬の隠された胸の裡を知り、城谷は……?

無愛想なカウンセラーと潔癖症の社長秘書、
二人の関係が加速する、
急展開の第2巻。


いい作品だと思うよ。
だけど表紙のインパクトが凄すぎて、過小評価されているような気もする。こんなポスターを店内でつるされた日にゃ、腐女子はこぞって飛びつくだろ。ねこにマタタビみたいなもんだよ。こういう細マッチョな肉体って、女子好みなんだろう。某神保町の大型書店ででかいパネルを見たときは、やべーっ俺も買わなきゃ!って思ったさー。

は、さておき。
第1巻ではほとんど進展のなかった、黒瀬と城谷。
第2巻ではぶっちゃけ城谷をひんむいて、乳首舐めて、ザーメンぶっかけるところまで進展する。ちょっとWebでは紹介しづらいので、興味のある人は買って読んで欲しい。

で、その前段の部分。





自分のことを好きだという黒瀬にドキドキする城谷。
このカウンセラーはちょっと酷くて、患者が慣れてきたところで突き放したわけで、途方に暮れた城谷に再度手をさしのべる。狙ったストーリーじゃないのだろうけど、これってDVとかSMの「堕として上げる」みたいな効果があるわけで、僕はあまり感心できなかった。あらすじも実は巧妙に書かれていて、城谷は心を開いたのじゃなくて、心を「預けて」しまっている。心は誰のものなのか? 城谷の心は城谷のものではないのか? 預けてしまえば、ある意味黒瀬の支配を受け入れたとも読める。やや危険な橋を渡っているなあと僕は感じているのだが。

誰かも言っていたことだが、現在の黒瀬と城谷の関係は、傷ついた猛禽類の雛を手懐けようとしている人の姿にも見える。男性を振り回したい系の腐女子にはたまらん設定だが、そういう流れで果たして良いのか。例えば第3巻で黒瀬と城谷の関係がイーブンのところに戻るほどの過去のトラウマが両者から吹き出してくるのか?どちらにせよ、恋愛のバランスシートは城谷の負債が大きすぎる。

今のところ僕がテンカウントを評価している点は、ギリギリ少女漫画側に落ちていないこと。次回のBL書評で取り上げるつもりだが、少女漫画からホモ漫画へ続くグラデーションのどこかに、少女漫画とBLの境目がある。もちろんBLとホモ漫画のあいだにも境界線があって、そのあいだのレンジに上手く納まらないとBLではない。
テンカウントは、いまのところ城谷が黒瀬に依存し、黒瀬が城谷を暴くストーリーが進行しているが、城谷は今のところ「オンナ」に堕ちず、ちゃんと男性している。そこを僕は評価している。

まあなんにせよ、美青年をひんむいて、服の下に隠された肉体と秘密を暴きたいという欲望は分かりますけど。

1.絵柄
安定の宝井スタイル。イマドキのイケメン二人。ホモくさくないし、BLにありがちな馬面でもなし。今後の売れ筋の画風はしばらくこんな感じなのだろう。

2.ストーリー
第1巻からいろいろと進展した二人。手扱きされて服の中でイカされて、最悪の体験をしたのに食事の呼び出しに応じてしまう城谷。「俺は何度も振り回されて、何度も不愉快な思いをさせられてるはずなのに」「離れてしまえばまた前と同じ日常に戻れるのに」「なぜかまたあなたに会いに来てしまうんです……何でですかね?」こういうセリフを作れる作家はうめえなあ~と思う。

3.エロ度
「俺に触られるのは嫌ですか?」
「い、嫌です」
「落ち着かなくて、き、気持ち悪いし逃げ出したくなる。なのに俺、今日ずっと黒瀬くんに触られることばっかり想像していました」

脱がすと腹筋割れてる城谷はちょっと意外だった。フィットネスクラブに通っているとかいう設定ではないだろうに。

4.まとめ
第1巻はマスク姿、第2巻はセミヌード、第3巻は2人の絡みか??と表紙が楽しみかも。

絵柄 :★★★★☆
ストーリー:★★★☆☆
エロ度 :★★★☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

9 件のコメント:

  1. 「フィットネスクラブに通っているとかいう設定ではないだろうに。」で爆笑しました・・・

    返信削除
  2. cool.october2007様、こんにちは。
    爆笑すぎて挨拶するのを忘れてしまいました・・・すみません。

    もしよかったら一つ質問をさせていただきたいと思っていますが、
    「馬面」は、あまり人気のないほうの絵柄ですか?

    私は馬面のほうの絵柄が好きですが・・・
    なお、芸能人やモデルさんの外見にも、面長のほうが好きです。

    BLを読むと沢山馬面がいて嬉しかったですが、結局、馬面はあまり人気がないほうの絵柄なのでしょうか?

    よかったらご意見をお教え頂ければ幸いです!

    返信削除
    返信
    1. こんばんは!>ゴリラさん

      や、フィットネスクラブなんて雑菌ウヨウヨな場所だから、城谷が通っているはずはないしなあと思ったんですよ。なのに見事に腹筋割れ。

      馬面と書きましたが、最近の作家さんたちの多くが面長の顔を描かないようですね。
      面長な造形の登場人物を描く作家は、古いなあと僕ですら感じるようになりました。
      年の差カップルとか、社長と秘書ネタでも、立派な面構えの男が出てこなくなったのは、最近の傾向のような気がします。
      アラブものだとかはまた違うのかもしれませんが。

      削除
    2. 追記ですが、最近pixivなどで香港、台湾系の絵師の描く作品を目にすることが増えてきていますが、中華圏の絵は、やっぱり三国志あたりの登場人物を美丈夫に描いていますよね。日本の絵は、どちらかと言えば子供化しているのかもしれません。

      削除
    3. cool.october2007様、こんばんは。お返事ありがとうございます!

      確かにおっしゃる通りですね・・・ジムの機具がないとそこまで割れる筋肉を作るのは難しいのでしょう?もしかして城谷は家に個人のトレーニング室を持っていたりして・・・(妄想しすぎてすみません!)

      面長を描かなくなっているのですか・・・ちょっと寂しいです。面長が大好きですから。

      台湾系の絵柄について、そういえばそのような傾向があるのかもしれません。香港のことは知らないのですが、台湾では、イケメン顔、美人顔でいうと、面長は基本のようです。長すぎるのもダメですけど・・・(もっと正確にいうと卵型顔なのかもしれません)。丸顔はどちらかというと、子供っぽい、可愛い顔に見えると思います。

      やはり私は昔の漫画のほうが好きです。古い人間です・・・

      教えてくださってありがとうございました!


      削除
  3. 余談ですが、「中華」という言葉について・・・

    「中華」は今から約100年ぐらい前にシナにいる人たちが創作した文化だと思います。「中華」を信じるシナの人たちは、勝手に周辺の区域を「中華」の一部だと思い込んでいるようです(チベット、ウイグルも被害されています)。さらに一部の過激の人は、日本も「中華」の一部だと思っているらしいです。侵略的で、作り上げられた文化ですから、私は台湾のことを「中華圏」に含まれるということを認めない派です・・・

    すみません。全然本題とは関係のない話ですね。ご迷惑でしたら、このコメントを表示されなくても構いません。失礼いたしました。

    返信削除
    返信
    1. いやいや、台湾の方の「中華」への感じ方をとても興味深く拝見しましたよ。
      そもそも共産主義と中華思想が結びついたのは最悪、というのが僕の考え方です。なんでもありですから。

      最近日本では「中国」というものは実在せず、様々な民族、文化が覇を競った中原、「場所」に過ぎないという人たちが出てきています。だから中国共産党のいう「悠久の歴史」は相当に虚仮威しだよと。

      来年1月に台湾行きが決定しています。
      フォルモサを楽しませていただこうと、いまからわくわくしています。

      削除
    2. 教えてくださってありがとうございます。実は私もその人たちと似ているような考え方を持っています。「中国」は実在していないと思っています・・・

      cool.october2007様は台湾にいらっしゃる予定ですか?台湾人として嬉しいです!どうぞ楽しい旅を!

      削除
  4. coolさま
    >>年の差カップルとか、社長と秘書ネタでも、立派な面構えの男が出てこなくなったのは、最近の傾向のような気がします。
    アラブものだとかはまた違うのかも>> こういうことをさらりといってくれてしまう男性のかたが居るということに驚きと喜びを隠せないでいますw
    BL進化論的書評、大好きなのです。

    『少女漫画とBLの狭間』これは受け取り側である読み手の意識の違い(登場人物への感情移入)によっても違ってくるわけで、そこを男性であるcoolさんがどう語るか、楽しみです。
    「少女漫画のノーマルな女の子読者」は、一般的な恋愛漫画だけで自己満足できるんですよ!ちょっと歪んだ、自分に恋愛ができるか不安な人とかがBLに行きがちでは?と思います。女性BL読者はほとんどが受けに自己を投影して、でもセックスの痛さとかみっともなさとかは作中のキャラにやらせる、っていう方法で『おいしいとこ取り』の疑似恋愛をBLで楽しんでいると思うのですが・・。
    (攻めに自己投影する肉食女子もいるのかもしれませんが)

    「馬顔」話で思い出したことが。
    プリンセス誌掲載の少女漫画の大家・青池保子さんのスパイアクション漫画『エロイカよりに愛をこめて』。ゲイ風味もテーマの1つであり、coolさんも当然ご存知の漫画だとおもうのですが、冷戦終了した休筆再開後にキャラの顔が「総馬顔」「短足」になったことについて作者が「これでいいじゃない」と、開き直る発言をしていて。「サザエさん現象」で、キャラは歳をとっていないはずなのですが、エロイカ初期の耽美さとか美しさが消滅した、「ただのオジサンキャラクターがドタバタする漫画」になってしまったことを嘆く往年のファンが多数で、でも作者は平気なんだそうです。怪盗エロイカは昔は絶世の美女に化けていたのに、いまは「オバサン」に化けているんです。みっともないです。辛いです。

    私は「エロイカはもう少女漫画ではない」とおもってしまいました。「美しさ」を描くことが少女漫画のテーマの1つでもありますよね。それを放棄してしまっているわけで・・。作者の青池さんはエロイカ開始時は20代、いまは60代?作者が若くて華やかだとキャラも自然とそうなるのか、漫画家の旬とはいつまでなのか。このあたりも考えさせられるんです。
    追い求めて構築する美しさ。自然にそこにある美しさ。美しさとは刹那なのかなあ・・・。

    最近、オタク業界で海外の方のイラスト作品やコメントを見る機会が以前よりも格段に増えてうれしいですね。ゴリラさんのコメントも考えされられました。この「中華圏」意識は当事国の方でも人によって意見がちがうようですね。私がリベラルな韓国人の上司から聞いたのは「中国は5つの国でできているんだ」ということでしたが。
    長くなってしまってすみませんでした。coolさんのサイト大好きです!
    オタクで、BLで世界がつながっちゃえば、国家も宗教も超えられるのになあ・・なんて。

    返信削除