少女マンガからホモマンガへ続くグラデーションとは。

じゃ、「少女マンガとBL、BLとホモマンガの境界線」について語ってみようと思う。
一応、この「BL4象限マトリクス分析図」は僕のオリジナル。
大体の構想は昨日の通勤電車のなかで考えたけれど、実際に図に落としたのは今朝。
こんなものに1時間も使った僕は、つくづくアホだと思う。(^_^;)

すでに一連のBL書評の中で語ってきたことを図式化しただけなので、「用途のない備忘録」を読んでくださっている人はある程度理解してくださっているかもしれない。だが、資料1の図を使い、用語を含めて全体のアウトラインを説明したいと思う。

【資料 1】(拡大可)

1)資料1の軸について
少女マンガと少年マンガ(含む劇画マンガ)を横軸に、「ヅカ」と「ガチ」を縦軸に置いた。
少女マンガ、少年マンガの説明は改めて必要ないと思うが、ヅカとガチは多少のフォローが必要だと思う。
ヅカは宝塚歌劇団のヅカを表している。ぶっちゃけ言うと、アクターが男性または女性のどちらか単一性に限られているのが特徴。宝塚歌劇団の場合は、女性だけで男女の恋愛劇を演じているのが特徴だ(歌舞伎は男性だけで男女の恋愛劇を演じるが、あれは古典芸能の色彩が強いため、今回は少女マンガと親和性のある宝塚を使わせてもらった)。同性に対して異性を重ねていることだと理解していただきたい。

ガチは「ガチホモ」という用語があるように、ホモだったら男同士、ビアン(マンガ用語だと百合だっけか?)だったら女同士、なんの捻りもなしに「ガチ」のケースである。

2)少女マンガの定義
・女性向けに、女性作家が描いている作品。男性作家は極少である。
・多くの場合、恋愛要素が非常に強い。

3)少年マンガの定義
・男性向けに、主に男性作家が描いている作品。売れっ子女性作家がそれなりに存在する。
・恋愛マンガも存在するが、非恋愛系マンガ(スポーツもの、ファンタジーもの)が多い。

4)読者の定義
・女性
 少女マンガを読む。
 少年マンガを読む女性はそれなりの数がいる。越境できる。
・男性
 少年マンガを読む。
 少女マンガを読む男性は少数である。越境しない、できない。

5)論者の立ち位置
・性別は男性であるが、セクシャリティはゲイであり、少女マンガを好んで読む、さらにBLも読む三重の越境者である。

大体の前提条件の説明は終わった。
それでは資料1について説明してゆく。

ZONE-1からZONE-4に向かって45度の補助線が引かれている。これが少女マンガ(=耽美マンガ)とホモマンガとの間にある対極線である。BLはこのライン上にある。

すでにこのブログで何度も説明したが、耽美マンガの金字塔は竹宮恵子の「風と木の詩」である。彼女が「当時はベッドで男女の足が絡まっているのを描いただけで作者が警察に呼び出されていましたが、私は作品を描く上で愛やセックスもきちんと描きたかったの。男×女がダメなら男×男でいけばイイと思ったの」と創作動機を語っているように、耽美マンガはそもそも男性同士に仮託した異性愛物語だった。

一方、その対極のホモマンガは説明するまでもなく、現代の極北は田亀源五郎だ。資料用の1コマを探すためにネットを彷徨ったが、その破壊力にモニタの前で吹き出して鼻水が出たほどだ。まあここを深く掘るつもりはないが、田亀源五郎ワールドの基地外度はすさまじい。

以前はホモマンガと言えば山川純一の「くそみそテクニック」が有名だったが、耽美マンガを含む少女マンガとホモマンガの間にある断絶は「恋愛要素の有無」である。正直なところ、ホモマンガでじっくりと恋愛を描いた作品を僕は読んだことはない。そういうホモマンガは存在しているのかもしれないが、おそらくきわめてレアな存在なのではないかと思う。掲載媒体の問題もあったのかもしれないが、ワンナイトラブか、SMとかで、じっくりとあるカップルの恋愛を追いかけたものは少ない。ああ、広瀬川進の「どんどはれどんどはれ」があったか。

で、BLはどこに位置づけられるかについて語る。
BLの出自はさんざん語ってきたので当ブログの他の記事を当たって貰いたいが、資料1に描かれているように、女性向け出版物を扱っている出版社から発刊されていること、作者のほとんどが女性であること、読者のほとんどが腐女子であること、恋愛要素を多く含むことから、商業(オリジナル)BLは少女マンガの世界に属する。

一方、BL同人誌の世界になると状況が少し異なってくる。
BL同人誌の世界では、少女マンガの男性キャラクターが取り上げられるケースは極めて少ないと僕は考えている。腐女子らが好むのは、例えば黒子のバスケ、Free!、三國無双、戦国BASARA、古くはキャプテン翼、聖闘士星矢、スラムダンクなど、男性が多数登場し、漢同士が激突するシチュエーションが好まれる。恋愛要素が少ないのは、腐女子が恋愛弱者であるから女が邪魔だとかもあるのだろうが、男同士カップルを多数作り出す需要を満たすのは必然的に恋愛要素が薄い作品になるのだろう。そして登場人物が男だらけの世界で、本編の間に挟まれるちょっとした日常風景の1コマから腐女子の妄想が沸いて出る……そんなところだろう。従って、腐女子を巻き込んだメディア展開を実現したいならば、このゾーンに収まるオリジナル作品を制作すれば良い。

以上のことより、商業BLは「ボーイズラブ」を名乗る以上恋愛要素を多く含み、カップルは男性同士であり、かつ少女マンガの世界にあることが条件であると僕は考える。
一方、BL同人誌は、恋愛要素を多く含み、カップルは男性同士だが、オリジナルが少年マンガである関係上、商業BLよりは少年マンガ寄りにポジショニングされる。
「最近のBLが少年マンガっぽくなってきた」のは、従来少女マンガ作家が描いていたBLの世界に、少年マンガ系同人誌出身の作家が流入してきた影響が大きい。

次に資料2を使って、僕流の「良いBL、イマイチなBL」を分類してみる。
各ZONEを1、2に分解する。

【資料2】(拡大可)

この分類にどんな作品がマッピングできるだろうか。
商業作品で、男性同性愛が主題のものを挙げてみる。

ZONE-1-2
・風と木の詩

ZONE-2-2
・きのう何食べた? (収まりが悪いな、ちょっと違うかも)

ZONE-3-2
・ニューヨーク・ニューヨーク (百合カップルじゃね?という感じも)
・残酷な神が支配する

ZONE-4-2
・田亀源五郎ワールド(w
・山川純一ワールド(w

つまりこの内側にあるのが所謂「BL ボーイズラブ」だと僕は考えている。
ここがBLのCORE-ZONEである。

念のために、「ヅカとガチの境界線はなにか?」についても予め説明しておいた方が良いと思うので、先行して資料3を掲示する。商業作品はそもそも各作品が「点」であって、「線」としてヅカとガチを説明するのは難しい。ヅカとガチの違いを理解するには、BL同人誌を並べるとよく分かる。「ジョジョの奇妙な冒険」から極端な例を並べてみた (※両作品を腐するつもりは一切ない。両作品とも「良くできている」と僕はリスペクトしていることを予め記す)。

【資料3】(拡大可)
ZONE-2にあるのはジョセフ・ジョースター×シーザー・A・ツェペリのカップル。
ZONE-4にあるのはディオ・ブランドー×ジョナサン・ジョースターのカップリング。
間にあるのは原作者の荒木飛呂彦によるシーザー・A・ツェペリ。

原作に近い絵柄という点では、ZONE-4の作品の方が優れている。台詞も原作の特徴を良くつかんでいて、申し訳ないが読んでいて吹き出すほどオモシロい。良くできている。ただ、愛はなくて、ひたすらセックス描写が続く(本当に良くできている)。
一方、ZONE-2のカップルは腐女子魔改造で、シーザーなんて顔の痣以外は「いったい誰よ?」というありさまだが、愛とセックスがしっとりと描かれている。セックスよりもメンタル重視。しっかりと恋愛マンガだ。美しいボディラインに情熱的なセックス。美しい優男たちがいちゃついている作品は、BLっぽくて良いと思う。

うまく表現できないが、僕の中ではBL同人誌の縦のラインは上記のように分類されている。良いとか悪いとかじゃなくて、「違うもの」なのだ。恋愛が含まれるのがボーイズラブの必須条件だと僕は考えている。

ここまで描いていて思ったが、ZONE-4の前立腺をコリコリされてるディオ×ジョースターカップルはもっと右下のホモマンガ寄りにマッピングするべきだよな。(^_^;)

さてと。
じゃ、僕が書評で良作BLと判断するBEST ZONEについて説明しようと思う。
資料2に戻るが、マトリクスの中では中央部に当たるところが「BEST ZONE」である。
Amazonの書評でたくさんの書き込みがある作品は、たぶんこのゾーンに収まっているのではないかと勝手に考えている。売れるBLのポイントは恐らくこれだ。

1.恋愛要素が含まれているもの。
2.男×女の仮託ではなく、男×男であること。(ただし男のいずれかはやや女性っぽい受け身)
3.ちゃんと「男」していること。
4.適切なセックス描写が含まれていること(これがないと不満な腐女子のみなさんが……)。
5.魅力的な登場人物設定

特に3番目の設定というか、バランスが作品の出来に決定的に関係する。
もちろん女性が好ましく思う男性像だから、リアルのんけ男の感覚とはズレはある。だがしかし、男である以上「そういう反応はしない」「そういう悩み方はしない」「そういう考え方はしない」という基本ラインはある。そこから外れた、特に一方的に庇護されるだけの「ウケ」が出てくると「なんで普通に男女ものでやらないの?貧乳ドジっ娘メガネと王子様でいいじゃない??」という中途半端な作品になる。それこそ腐女子が愛する「対等な関係性」から大きく逸脱していると思うのだよね。だから「ヅカ過ぎてはダメ」なのだ。そして「ガチ」過ぎると腐女子の皆さんはどん引きする。

ちなみに、男性とのセックスを多数経験済みの某一流大学生(ルックスはほんとにジャニ系だ)に、4つのゾーンの作品をそれぞれ2〜3冊選んで読ませてみた。彼は授業中にスマホで読んだそうだが「どぎついエロより、口説いたり口説かれたり、駆け引きするヤツをもっと読みたい」と言う。彼は富士山ひょうた、日高ショーコ、草間さかえはおもしろいと言う。僕も同意だ。腐男子を含めたボリュームゾーンを狙うなら、マーケティング的にBL BEST ZONEを押さえると良いのではないかと思う。

とりあえず、こんなところで。

4 件のコメント:

  1. cool.october2007様、こんばんは。一気に読み終わりました。資料があってとても助かりました。なんかすごい論文を読んだ感じがします!

    ちなみに、前立腺をコリコリされてるディオ×ジョースターカップルの絵を見て、爆笑しました・・・

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    1. お粗末様でございます。(笑
      でもまあ、書き下ろしてみて自分でもすっきりしました。

      土曜日だってのに、なにしてるんだろ、俺……。

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    2. ありがとうと伝えたら自意識過剰なのかな大丈夫かなとか心配していましたので書かなかったようにしましたが、やはり伝えさせていただきます!

      ありがとうございました!!!とても勉強になりました!

      またちょくちょく遊びに来ます~

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  2. すみません、1つ前のブログで、無知なまま長々とコメントしてしまいました。
    もっと他のページも読んで勉強させていただきます。

    「少女漫画とBL漫画の隙間」こういう展開になさったのですね!
    ぐちゃぐちゃ細かいことを言わずに(←私含め女性が論評するとこうなると思います)、
    『風と木の詩』と田亀源五郎先生を対称軸に図案でバッサリ展開なさるとは。
    男性目線のBL論はやっぱりとても興味深いです!

    田亀先生は書こうと思えば「ホモ漫画の恋愛」も描ける方だと思いますが。
    「ホントはホモ漫画できゅんきゅんする恋愛読みたいんだよね」っていうゲイの方もいると思います。
    自らで自虐っぽくしてるというか、日陰の身になりすぎて、商業的にイマイチ広げられなかったのが「ホモ漫画」であるのではないかなと。

    コミケでの同人パロディとオリジナルJUNE誌でやおい文化の機運が高まって、これは「需要あるぞ」と明るく楽しいBL商業文化ができて。
    それが明るく楽しくキラキラしていたお陰で世界展開して、世界中に腐女子が溢れ、現在、
    とても優良な経済効果がおきているわけで。
    なんか、すごいなあ、すごいなあって思うんですけどね。BL文化。

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