蜂の羽音が低い唸りとなって、四方から染みこんでくる。
自然の音以外、人間出す雑音のない世界はひどく長閑だった。
クルマを駐めさせてもらっていた伝承館で昼食を摂る。
蕎麦と夏野菜を使った天ぷら。
まいたけ、茄子のサクサクした食感は予想以上だった。
伝承館を出て、藁葺きの古民家の屋根に百合が植えられていることに気づいた。
"逝きし世の面影"の表記の通りだ。火除けのまじないだという。
古い時代の旅行者が記したものと同じ光景を見ると、「なんか繋がってる」という原初的な安心と喜びがこみ上げてくる。それも遠野がなせる技なのだろうか。
千葉家住宅を訪ねてから、遠野を去ることにした。
江戸時代後期に建てられた南部七曲がりの代表的な民家で、L字型の形状をしている。
千葉家住宅は遠野市内から離れた街道沿いにあった。
駐車場で車を降りると、ちょっとした城塞のような石垣の上から大きな家が辺りを睥睨している。入場料を支払い、やや急勾配な坂を上って住居に到着。強烈な馬糞のにおいがする。昔は馬と一緒に人が暮らしていた住宅。土に馬糞のにおいが染みこんでいるのか、それはちょっと暴力的な刺激に感じた。
千葉家住宅は皇族がお立ち寄りになられた歴史があるそうで、写真が飾られている。強い日差しの午後なのに、屋敷の中は電気がなければ薄暗く感じる。古い建物特有のほこりっぽさとひやりとした感じを、ちょっと怖く思うのは子供返りしているためかもしれない。
千葉家住宅を見学したあとは、屋敷前の国道396号線を北上し、盛岡市を目指す。
渋滞のない田舎道をドライブするのは気持ちが弾む。
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