夏の終わりに

曇り。27.2℃/24.0℃/62%

昨日の創った疵痕が一晩痛んだ。
無理矢理切り離した身体の一部に苛まれているような気分だった。

僕と寝た人の何人かは気づいていると思う。
裸で抱き合って首に腕を回したその先の、背中側の肩口に痼りがあったことを。
最初に気づいたのは小学生の頃。やっぱり気味が悪かったよ。でも、父の元に出入りしていた癌専門医らから「別に悪性じゃないから、放っておいてダイジョウブ」とお墨付きもあって、なんとなく先送りしていた。って20年以上放置していたわけか(苦笑)。

先月の台湾"九分"で撮った写真を見ていたとき、タンクトップの袖ぐりから陰影を描くそれが目についた。「切除してしまおう」と決めて、すぐに地元の総合病院へ相談に行った。手術日は8月26日。フランスから帰国した翌朝に予約を入れて、パリへ向かったのだ。

26日午前10:00。少し時差ぼけでぼーっとしてる。
いや、僕は緊張から逃げようとするとき、脳内麻薬というのが出るらしくて、まるで睡眠薬を服用したようにぼーっとし、感覚が鈍くなるという特技をもってる。そのせいかもしれなかった。

僕はパンツ一枚の上に手術着を纏い、ヘアキャップを被って手術台にあがった。
オペなんて初めてだし、また注射が大嫌いなもんで、気分はちょっと滅入ってた。でも血圧や心拍数はきわめて良好な状態で、なんてか静まりかえった湖面のような心境だったように思う。

執刀医は女医さんのはずだったのに、当日彼女はサブにまわり、代わりに"茶髪"の若いドクターが現れた。身体には幾重にもタオルを掛けられ、抱き枕を抱えて横になった。肩口の手術なのに、なぜパンツの中をのぞく?ドクター……勃ってないっすよ(苦笑)。勝負パンツじゃなかったなーと思いつつ、心電図の波形を眺めて不安な時間を過ごした。

やっぱり自分の見えないところで身体を弄りまわされるのって、気分良くないですね。
麻酔を打たれたり、冷たい指先で消毒をされたり、切られたり、焦がされたり、縫われたり……それに対してため息をつくくらいしかやることないんですから。

やがて"それ"は切除され、縫合の終わった僕の目の前に運ばれてきた。
灰白色の直径3㎝ほどの固まりだった。病理検査にまわされて、次週の診察の際に結果を聞かされるんだって。「特に悪性のものじゃないと思います」って。

痛み止めと抗生物質を服用しながら、この二日間はおとなしく過ごしてる。

今朝、油蝉の鳴き声で目が覚めた。
時々路線バスが走って行く音が聞こえるくらい。
心持ちやわらかくなった日差しに、夏が終わるんだなぁと思ったよ。

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