それも一泊二日の慌ただしい日程だった。
大きな通りからちょっと奥まった砂利道の先にある家。
薄暮に包まれたその家の窓からは、ナイター中継のTVの音がこぼれ出していて、前庭には実をつけた茄子が何本か植わっていた。
翌朝、祖母に手を引かれ近くの食料品店へ行き、黄色い包装の明治ミルクチョコレートを買ってもらって帰ってきた……覚えていることはそれだけ。
あれからものすごく長い時間が経って、もう祖父母の顔を思い出せないのだけど、茄子とチョコレートは僕の記憶に深く刻み込まれてる。
今年、ベランダで茄子を育て始めた。
ずいぶん長い間やってみたいと思っていたのだ。
ゴールデンウィーク前半の最終日、新潟から戻って来た足でホームセンターへ行き、茄子の苗三つと、オクラの苗を二つ。庭に放置されていたプランターに植えてみた。
二日間の平日の後、ゴールデンウィーク後半は馬鹿みたいに風の強い日が続いた。
支柱を立ててはあったものの、根っこから揺さぶられた苗の葉は折れたり破れたり。
その翌週は馬鹿みたいに寒い日が続いて、気をもんだ10日余り。
今日現在、茄子は元気に育っているけれど、オクラは全滅コースを歩んでいるようだ。
植え付け後低温が続くと立枯れるらしい。
ベランダで野菜を育て始めてから、僕にはいいことが続いている。
うまく仕組みが作れたことがいい感じで推移している原因のようだ。
ベランダに水道が引かれていないので、帰宅すると2リッターのペットボトルに水を汲んで二階の自室に運んでおく。
朝、むっと空気がこもった部屋の窓を開けて、すぐ外に出る。
太陽の光に当たり、新鮮な空気を吸い込むとそれだけで気分がいい。
起床後すぐに太陽に当たるのは、精神衛生上もすごく良い効果があると思う。
気分が滅入っていても、あっという間に解消してしまう。
ペットボトルの先にじょうろの口(100均で買った)を付け、「ちゃんと育っているかな?」水をまきながら一苗ずつ確認してゆく。
茄子はわりと早くから花をつけ、花がついたら剪定したり、枝の誘引をしたりで15分位作業する。いまは成長が早いので「あれ!?こんなに背が高かったけ!?」と驚かされることもしばしば。
これがベランダではなく、1階の庭でやっていたとしたら僕はすでに放り出していたと思う。自分の目の前にあり、いつでも状態を観察できること。水を含む必要なグッズを手に持ってそのまま現場に行けること。この二つが僕を飽きさせない仕組みなのだと思う。
写真にある3つの茄子の苗。
左と真ん中の苗は、比較的順調に成長し、花も付けた。
一番右の苗はもともと小さかったうえに強風で煽られて葉が折れたり破れたり。揺さぶられ過ぎたのかしばらくはクタっと弱っていた。全然背も伸びなかった。なかなか花もつかなかったけれど、この10日間で急に幹が太くなり、3つの苗の中で一番大きくなった。そして3日前に待望の蕾が現れたのだ。スロースターターだったんだな。
手入れ、水やり、肥料やりをすることで日々変化してゆく生き物を相対しているのがこんなに楽しいとは思いもしなかった。
日々の変化を実感できることと、手入れした効果がストレートに反映されるのですごく楽しい。
花を育てても良かったんだけど、どうせなら花が咲いた後に実が生って、それをどうやって食べようか妄想できる野菜のほうが僕の性にあっていたみたいだ。
僕は盆栽には向いていないのだろうとは思う。
茄子のプランターはその後一つ追加され、そこでは十全という丸茄子の苗が育ってる。
一番花が萎んで、数日たってそこから艶々とした茄子のお尻が現れた。
収穫が楽しみで仕方ない。
いま僕の頭の中の半分は茄子で占められている、と思う。
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