当時は「海外旅行説明会」なんてものが旅行代理店で催されている時代で、近畿日本ツーリストの説明を聞くために、お茶の水のオフィスビルを訪ねていったことを覚えている。秋が始まったばかりの頃だった。
それからガイドブックと簡単な旅行英会話本を買い込み、毎晩寝る前に予習・復習をしていた。いま考えるとおぼこかったんだなあと懐かしく思う。戸籍謄本を取り寄せてパスポートを取得し、父親から借りた旅行カバンを携えてサンフランシスコへ飛び立ったのは、4ヶ月後の肌寒い2月だった。
いまでは航空券とホテルの手配は6ヶ月以上前に済ましているけれど、ガイドブックなんて直前までほったらかし。しかも荷物を詰めるのも2日前から前日という杜撰さ。いつか痛い目に遭うんだろうけれど、実際、前回ハワイへ向かったときは下着を全部詰め忘れた。あれは大変だった。
今回も荷物を旅行カバンに詰めたのは2日前。
タンスの中身をカバンにゴソッと移し替えた、という安易な荷造りだった。
10月20日。
普段の通勤より2本早い電車に乗り、途中駅で成田アクセス特急を15分ほど待つ。待合室でぼんやりと旅行カバンを眺めていると、急に忘れ物があったような気がしてきて落ち着かなくなる。そわそわするくらいだったら、もっとしっかり準備すればいいのにね。
成田空港に着いたのは、離陸2時間前を切っていた。
関空に到着しているはずの彼氏に電話する。IDチケットは問題なく取れたそうで、「やー、これで7時間後にはバンコクで逢えるね」と喜び合う。
第一旅客ターミナル南ウイングは、主にアジア方面へ向かう出国客たちで混み合っていた。あらかじめインターネットチェックイン済みだったので、直接預け荷物カウンターの列に並ぶ。iPhone5のバーコードを提示し、スルッと荷物は僕の手を離れた。スムーズな展開。「スマホでチェックインってチョー便利じゃん!」と浮かれて保安場へ向かう。ここで「ボーディングチケットを見せてください」「はい…あ、パスコードが……」パスコードをあわてて入力し、バーコードの画面を出す。係員は細かい文字を読み取ろうとするので「拡大しますか?」「いや、結構です」。パスポートコントロールでも「あ、パスコードが……」、ジェッティの入り口でも「すいません、パスコードが……」、飛行機のドアでも「あ、パスコードが……」。。。タキシング中の機内で「あー、めんどくせ。紙の方が便利だ」と思ったのは言うまでもない。
現地には定刻より少し早く15:00過ぎに着陸した。
僕より少し後に、関空から彼氏到着。
到着ロビーの出口で待っていると、RIMOWAのトランクを引っ張って、旅慣れた姿の彼氏が現れた。
両腕を広げて、公衆の面前でど派手なハグ。
「どうしたの?」とキョトンとしている彼氏に「親愛のハグ」とツラッと答える。
男が2人派手にハグしても誰も気にしない。
ここはバンコク・スワンナプーム国際空港。
ひさしぶりのバカンスの始まり。
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