ラヴェッロのマンマ 2011年欧州旅行記-34

もともとラヴェッロには、お昼ご飯を食べに来た。
小さな広場に戻ってみたものの、そこにあるのはカフェで、ご飯メニューがあるのかも分からない。しばらくあちこちを歩き回ってみたけれど、ガイドブックにもラヴェッロのことは詳しく紹介されていない。インフォメーションセンターに立ち寄って、地図をもらった。地図をもらったと言っても、値段や口コミが書いてあるわけでなく、あとは自分たちの足でその場所へ行って、メニューを見るしかない。結局僕らは、当初高そうなので入らずじまいだったトラットリアに入ることになるのだけれど。

その"Cumpa' Cosimo"は、南イタリアの鄙びた食堂という雰囲気の店だった。強い日差しが降り注いでいる通りから店に入ると、舞台が暗転したような、まぶしい白い光の中から、急に色のある世界に戻ってきたような気分になった。まずは白ワインで乾杯。昼間だからさすがにグラスワインにした。


お店からのサービスと言うことで、オリーブオイルのかかったトマトには軽く塩が振ってある。そこに香り付けのオレガノパウダーを振り、バジルの葉っぱを添えたもの。みずみずしいトマトで、今回の旅行で一番おいしいサラダだった。僕はミートソースのタリアテッレをオーダーした。


隣のテーブルは日本人の中年カップル。サービスしているのは、"天空の城ラピュタ"のドーラおばさんのような、典型的なイタリアのおばあさん。大柄で、鷲鼻で、そしてよく笑う。女性がレモンチェロを炭酸水で割りたいというので「ほんとうに割るのかい?」と。炭酸水で割ったレモンチェロが出てくると、女性客が一口飲む……「薄いから、レモンチェロを足してください」「どのくらい足そうか?」とレモンチェロの瓶まで持ち出して大騒ぎ。それを横目に僕らは、男性スタッフに会計を頼んだ。しかしいつまで経ってもビルが出てこない。仕方なく、ドーラおばさんに目配せをすると「わかったわかった」と合図が。それでもしばらく戻ってこないのでどうしたのだろうと思ったら、隣のテーブルにティラミスを届けて、僕らのテーブルにもティラミスが……「シーシー」と内緒だよとウインクされて、僕らはありがたく味見させてもらった。甘いものは別腹。エスプレッソパウダーが濃厚な、イタリアらしい味だった。


ラヴェッロから再びアマルフィに戻ってきた。お土産を買い、次の船が出るまでの約1時間、僕たちはミネラルウォーターを飲みながら、海の見える椅子に腰掛けておしゃべりをしていた。日本人の団体客一行が整然と列を作って歩いて行く。その草食動物が牽かれて行くようなおとなしい様子に苦笑しながら、僕たちは海から吹き付ける熱い風に吹かれていた。もう、こんな遠くまで来ることはないだろうと思いながら。

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