BL漫画レビュー:正弓『家政夫のニタ』

ん、日本人ならパクリかえ?と眉をひそめるようなタイトル。
そして、ちょっと大変な表紙の本作。

周囲を見下して生きてきた大学生・惠の元にやってきた家政夫の新田。
常に柔和な笑みを絶やさず、完璧に家事をこなす彼は、傍若無人に振る舞う恵に臆する事なく、ずかずかと日常生活へと介入する。
そんな新田に戸惑い、苛立つ恵は、あるきっかけで衝動的に彼を犯してしまう。
しかし翌日、新田は平然と恵の前に現れた。
……なぜか身体中に暴力の傷跡を負って。

究極の自己中男と、自己否定し続ける男。
正反対の二人は、傷つきながらも惹かれあい……。

俺はアンタに出会うべきじゃなかった。
俺は、きっとこれからも金と権力に溺れた「裸の王様」のままだった。

—-彼の優しすぎる愛を知らなければ。



表紙でドン引きしちゃう読者は少なくないと思う。
表紙裏のあらすじを読めば、少なくともSMものを連想する人はいないだろう。だから、新田の痛々しいその顔は、おげれつたなかの「錆びた夜でも恋は囁く」「恋愛ルビの正しいふりかた」を連想してしまう。

ストーリー展開は単純だ。
お金持ちの家に生まれつき、育児放棄されて育ってきた青年 恵は、悪い友達とつるんで遊びまわっている。
親が付けた家政婦は次々と辞めて、5人目に現れたのは家政夫の新田潤だった。
日付が変わった頃に帰宅する恵を、新田は待っている。



……だって、電気の点いてない部屋に帰ってくるのは寂しいでしょう?

家族の温かさを知らずに育った恵にとって、テリトリーに侵入してきた新田はうざい存在。
それでも献身的に尽くす新田に、恵は調子を狂わされてしまう。

とある出来事がきっかけで、ゲイである事をカミングアウトした新田を、恵は無理矢理抱いてしまう。
その翌日、ボコボコに殴られた顔で新田は現れた。

や、恵は金持ちのイヤミなガキとして現れるのだけど、新田を無理矢理抱いたとはいえ、ボッコボッコに殴ったのは恵じゃなかった事に、僕は少し安堵していた。

世間知らずは許す。
愛し方、愛されかたを知らないで育った事にも同情する。
だけど、DVは許せない。

ボコボコに殴られた顔で現れた新田に、潤は「もうココに来んの止めたら?」と告げる。



元の生活が戻ってきた。
だけど、恵はひとりぼっちの生活に物足りなさを感じるようになる。

そのあと、襲い掛かってくる元恋人から新田をかばった時に、恵は心の中で叫ぶ。


ニタさんありがとう。
俺に心をくれて。
…俺も最期くらい
やさしくなりたい。

ありきたりなストーリーラインだ。
しかもゲイカップルのDVときたもんだ。

昔のやおい論争じゃないけれど、いま、男女間のDV漫画を発表しようとしたら、生々しすぎて難しいんだろうと思う。さらに言えば、男女間DVは性差という面からジェンダー基地外に噛み付かれる恐れもあったりする。性的マイノリティとはいえ男同士だったら、まだフラットに近い関係性の中でDV表現もしやすいのかもしれない。でも、一人のゲイとして、僕は誰かが暴力で苦しんでいる姿を見るのは、二次元でもちょっとツライ。

作家の表現を制限したいのではないよ。
ただ、二次元であっても、誰かが苦しんでいる姿を見る事はツライと感じる気持ちは持ち続けていたいと思う。

恵は、新田の恋人と話をする事で、自分のクズさを自覚し、嫌悪するようになる。
新田は、DV彼氏と共依存状態になっていることを恵に指摘される。
「嫌なら、怖ェなら、拒絶しろよ。
 いったいあんたの意思はどこにあんだよ?
 あんたの中のアンタは何処にいるんだよ」

暖かい家庭には恵まれずに育った恵だったが、バカではなかったようで、やればできる子だったのな。



いろいろな障害を乗り越えた二人。
人は誰でも幸せに生きる「権利」があると僕は思わないが、幸せを願う「権利」はあると思う。
愛する人の手をとって、笑いあって暮らす日々は、誰にとっても最上の、幸せな人生そのものだと思う。

1.絵柄
表紙と中身の絵は、少し違う印象を受けるかもしれない。
そんなに上手い絵だとは思わないけれど、ひどく下手というわけでもない。
最初は高慢で、顔つきもイヤミな恵が、物語の終わりにやわらかく笑う様がとても印象的。
美しい花が開花するのを眺めていたかのよう。

2.ストーリー
恵曰く「三人のクズ」の物語。
今までにも類似のストーリーはいくらでもあった。
だけど、主人公恵がわりと素直ないいとこのボンで、僕は嫌いじゃなかったな。

3.エロ度
シチュエーションはともかく、ほとんど朝チュン。

4.まとめ
連載中、読者の好き嫌いがかなり分かれたと聞くけれど、僕は嫌いじゃなかったな。
むしろ甘口に近い方で、後味は悪くなかった。
僕自身が、お育ちの良い、お上品な男性が好きだから、恵みたいな子はむしろかわいいと思ったよ。

「ありがとう」って、いい言葉だよね。

絵柄 :★★★★☆
ストーリー:★★★☆☆
エロ度 :★☆☆☆☆
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)

0 件のコメント:

コメントを投稿