刷り込まれた記憶を、愛は、超えることが出来るのか--
マキの元にやってきたヒューマノイドのアラタは、容姿と記憶の一部をコピーしたハイスペックな【愛玩タイプ】。
しかも最初にみた人間を好きになり依存する【すりこみ機能付き】。
刷り込み機能により愛情を示すアラタを、マキは嬲るように抱く。
「ちゃんと愛して欲しい」とアラタは涙目で訴えるが、マキの心には決して融けない「永久凍土」があり……。
僕は、この手のロボット、アンドロイド、AIものが大好き。
正統なSF小説はもとより、BLものでこの手のテーマがあるならば出来るだけ読みたい。
すでに取り上げた山中ヒコ「500年の営み」は秀作だったし、富士山ひょうた「わりとよくある男子校的恋愛事情」に収録されている「オートマチック・スマイル」は佳作だと記憶している。
「VOID」のヒューマノイド アラタはちょっと特殊で、デザインされた人工生命体。ロボットではなく、人と同じ寿命を持つ有機体という設定。
人間と同じく食事を摂る。味も分かる。
喜怒哀楽があって、涙も流す。
しかも実在する個人の遺伝子や記憶を植え込まれた個体もあって、なんというか、クローン人間とかそっち方面の設定に近いのかなあ。
アラタにも人間のデータが使われていて、オリジナルの名前は「レン アマミヤ」。
マキの心に永久凍土を作った故人のデータだった。
自分を捨てた……というか踏み台にしたレンに意趣返しするかのように、マキはアラタの身体を嬲る。だが「刷り込み機能」を持つアラタは、「やだっ!そうじゃなくて……ちゃんと…ちゃんと…愛して…ほし…」と愛を乞うのだった。
「VOID」は、C言語を操る人間には int main(void) でおなじみのフレーズだ。
「空の」とか「無効にする」といった意味だ。
オリジナルの「レン アマミヤ」の記憶を持ち、「刷り込み機能」でマキを愛する対象と刷り込まれたアラタをVoidしたあと、アラタと関係を再構築できるのだろうか。
テーマは非常にシンプルだ。
ところで。
座裏屋蘭丸は、同人時代から美麗で、ハードな作品をリリースする作家として、けっこう有名だった。
今回、雑誌連載のあとに「完全受注生産限定18禁コミックス」がリリースされた。
「官能描写の名手が創る作品世界を、完全受注生産の18禁コミックスで再現」と銘打って、密かに世の中に送り出されたバージョンなのだ。いまのところ再販はしない模様で、オークションではすでに定価の3倍以上の値段で取引されている。あまりに好評だったので、修正が施されたバージョンが電子書籍で販売されている。
なんでこんなことになったのかといえば、座裏屋蘭丸作品が2作続けて「東京都青少年の健全な育成に関する条例」に引っかかったことが影響しているようだ。まあ座裏屋作品が官能的すぎるとはいえ、すでに日本は検閲機関が創作物を検閲して、あれこれ指図している現実がある。
BLがポルノなのか、あるいは非ポルノなのかは、BLの成り立ちからして線引きは難しい。BLからまったく性的要素を抜くと、少年ジャンプとか、ただの少女マンガになる。それをBLと呼べるのか?そんなにご大層なジャンルだとは思わないが、検閲によって創作の1ジャンルの存続が揺らいでいるのだとしたら、それは危機感を持った方が良いのかもしれない。
そもそもなにをもって「健全な育成」に引っかかるのかはよく理解しがたい。過去、バチカンはミケランジェロが描いた青年の股間に葉っぱの文様を上書きした。芸術作品なのに。どんな時代も検閲機関のバカバカしい努力は、創造性へのプラスには決してならないと思うのだよな。「Cool Japan」ならぬ「Hot Japan」と銘打って、18禁・モザイク修正なしの「オトナ特区」を立ち上げたら、世界から好事家達を引き寄せることが出来るかもしれないね。
「VOID」の18禁版というか、完全バージョンは、今後コミケなどの同人誌扱いで発売されることがあるかもしれないが、当分は幻の逸品になるようだ。
1.絵柄
官能的で、エロス匂い立つ座裏屋蘭丸の真骨頂。
かわいらしい絵柄?それどこの世界の話よ?くらいに官能的。
Guilt|Pleasureが好きな人ははまるだろう。
2.ストーリー
ロボット、アンドロイド、AI系が好きな人ははまるだろう。
だけど、あまりSFっぽくはない。
御飯食べたり、デートしたり、植木に水をやったり……。
ハッピーエンドなので、安心して読み進められる。
3.エロ度
エロイよ、だって座裏屋蘭丸作品でしょ?
エロくなかったら座裏屋蘭丸じゃないし。
4.まとめ
「東京都青少年の健全な育成に関する条例」のために作家に萎縮してもらいたくないと思いつつ、座裏屋蘭丸がろくでなし子化しても苦労しそうで気の毒だし……いや、がんばってください。それから限定本は早めの告知をよろしくです。
絵柄 :★★★★★
ストーリー:★★★☆☆
エロ度 :★★★★★
(あくまで個人的主観に基づく★の数です)
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