上高地帝国ホテルのすばらしさは、文章では表しにくい。
絶賛される一方で、部屋は狭いし、料理も古くさくて平凡、ブランドに寄っかかったぼったくりホテルじゃないか、と感想を残す人もいる。
上高地帝国ホテルの良さを伝えるのは難しいね。
あの車寄せに降り立ち、ドアボーイ達に招き入れられると、僕は上高地帝国ホテルという生き物の胎内に進んでゆくような気分になる。
ホテルの中を支配している独特の空気感…それは泊まり込みで勤務しているスタッフ達の一体感、体育会系の合宿所に流れているような濃密な連帯感が半分。スタッフの間には家族のような空気が漂っている。
そして、残り半分は幽霊さん達。それはもうこの世にいない人たちかもしれないし、今はこの場にいないだけの人たちかもしれないが、その人達の残していった想いみたいなもの。このホテルを愛して、後ろ髪を引かれるような想いで去って行った人たちの切ない名残惜しさみたいなもの。それは建物のあらゆる所に漂い、ホテルを温め続けている。車寄せへ続くスロープの先、穂高連峰を従えた赤いとんがり屋根が視界に入ると、気分が高揚してくる。そこには終始上品で、上質な空間が待ち構えている。上高地帝国ホテルはそういう場所だ。
そういう特別な空気を持つホテルを、僕はほとんど知らない。新しくて、立派なホテルはいくつも体験してきたのだけれど。上高地帝国ホテルが特別なのは、目に見えない、心のどこかが感応するなにかがあるから。
上高地帝国ホテルの宿泊者名簿に名前を記すということは、たぶん、過去から積み重ねられてきたこのホテルの仲間の一人になるという特別な意味がある。そんな気がする。
最近父親の衰えが目立って進んできた。
もう海外へ連れ出すことは無理だろう。
緊張しぃの母親がくつろげるホテルがハワイ島と上高地帝国ホテルしかないという事情もあって、今年の夏、親孝行のために上高地帝国ホテルを連泊で予約を入れた。7年ぶりの宿泊になる。きっとすばらしい思い出になるだろう。
旅行の計画はできるだけ早く立てた方がいい。
計画を立てたその日から、ずっと幸福な気分が続くのだから。
それが半年先でも、1年先でも、旅から戻ってくるまでの間、ずっと幸せな気分が続くなんて最高の贅沢だと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿