もう少し湿度の低いサラッとした気候を期待していたのだが、タラップを降りた第一印象はハワイに降りた時の、あの南国特有の肌にまとわりつく大気と似ていた。
コート・ダジュール空港は田舎の地方空港という感じだった。
ターンテーブルから旅行鞄を引き上げ、到着ロビーへ続く自動ドアを開くと、到着客を待つ人が群れるこぢんまりとした空間が広がる。フランクフルトの巨大ターミナルで右往左往したあとでは、より建物が小さいと感じたのかもしれない。
左手に進むとバスターミナルがある。
ニース市内へは98番ライン、99番ラインが通じている。98番ラインは市内のいくつかのバス停に停まる。99番ラインはニース駅へ直行する。僕らは途中停車の位置を把握していなかったのでニース駅へ直行し、そこから歩いてホテルへ向かうことにした。ホテルのバウチャーにはニース駅とプロムナードの中間に位置していると案内されていた。
チケットブースで乗車券を買い、バスに乗り込む。地中海を右手に見ながらバスは海岸線を走って行く。思ったよりも交通量の多い道路だった。それから皆かなり飛ばす。景色を楽しむよりも、明後日からこの道を運転することができるのだろうか?という不安の方が募ってきた。海岸道路から市内へ入ると道は狭く、交通量は多く、しかもいきなり交通事故の現場に遭遇するしで。
ニース駅で下車して、僕らはしばらく途方に暮れる。
地図の上ではわかりにくいのだが、ニース駅はちょっとした丘にあって、そこから似たような細い坂道が海へ向かって放たれている。通りの名前は建物の角のプレートを参考にするしかないのだが、これが結構大変。「こっち」という彼氏のあとについて行く。バリアフリーではない、幅の狭い汚れた歩道。老人がスーツケースを引っ張って歩くのはちょっと大変だと思う。それからヨーロッパの駅周辺は、多くの場合治安の悪いエリアであって、やはり夜はちょっと来たくないなあと感じる光景がしばらく続く。
少し迷いながら、ニースの宿泊地、ベストウエスタンホテル ルーズベルト(BEST WESTERN Hotel Roosevelt)に到着する。ニースの町並みは建物の高さがそろえられているようで、しかも雨戸、テラスの外観が似ている。ネグレスコのようなユニークな建物でないと見落としてしまって不思議ではないかもしれない。
よく冷やされた建物に入り、僕らは生き返ったような気がした。
フロントはモダンなデザインで、脇には朝食ビュフェで使うテーブルが広がっている。フロントの対応は日に焼けた金髪の女性だった。ヨーロッパではありがちな、先客が根掘り葉掘りなにか尋ねている。これがなかなか終わらないのだが、怒ってはいけない。僕らが待っている間、2組の宿泊客が戻ってくる。そのうちの一組はバゲットを持った若い男性の二人。ややゲイっぽい優しい笑顔で、お仲間さんかな?と彼氏とクスクス笑ってしまった。
キーを受け取り、エレベーターへ進む。
これがおもしろい形状で、エレベーターが到着すると、ドアを自分で開くのだ。それが引き戸だったら大して驚かないんだが、まるで公衆トイレに入るように普通のドアのようにスイングするのだ。「ヨーロッパじゃよくあること」と彼氏は笑っているが、なんか僕はうれしくなってしまう。
アサインされたのは値段のわりに広い部屋で、窓の外は通りに面している。
水回りなど問題なし。
セーフティボックスとコーヒーメーカー完備。
お腹も空いたことだし、僕らはまずプロムナードへ遊びに行くことにした。
坂を下って行けばいずれ海へ通じることはわかっている。
少し歩くと賑やかな場所へ出くわた。遠くで路面電車が行き来するのが見えたので、そちらがマセナ広場なのだろうとあたりを付け、ふらふらとそちらへ流れていった。道の両脇にはカフェが軒を連ね、「SALE!」の札を掲げた店がちらほらと。
マセナ広場は瀟洒な空間だった。
それまでの狭い道と建ち並ぶ石造りの町並みが切れて、ほっとする開放感があった。ヨーロッパ一般の広場よりスケールが大きく、カフェなどでゴチャゴチャしていないのが良いのだろう。一角で音楽イベントが盛り上がっていたが、全然気にならないほどの広い空間だった。低床の路面電車がゴトゴトと脇を走って行く。
0 件のコメント:
コメントを投稿