眠れない夜に

眠れない夜に。

「お先に失礼します」と同僚に挨拶し、オフィスを出て。
帰りの電車に揺られながら、昼間買った本を読む。

最寄り駅に着いて、フィットネスクラブに向かう。
ロッカールームでスイムウェアに着替えて、プールサイドに立つ。

それから60分。
ゆっくり泳いたあと、冷えた身体をジャグジーで暖める。
イントラとちょっと話をして、ロッカールームに引き上げる。
シャワーを浴びて鏡の前に立つ。
ドライヤーで手早く髪を乾かし、前髪を立たせて鏡の中をのぞき込む。
水中から戻ってきた顔は、なんだか輪郭が柔らかくなったような感じがする。

自宅に戻って新聞に目を通す。
メールをいくつか返したあと、ベッドに潜る。

普段だったら疲れに引きずられてすぐ眠りに落ちる。
なのに今夜は
遠くから流れてくる消防車のサイレンが耳について
なかなか眠れない。

寝返りを打ったり、マクラを抱えて俯せになってみたりしているうちに
日付も変わり、
僕はマブの女王にすら見放されてしまったみたいだ。

ここ数日、僕はいろんなものの整理をしていた。
部屋の中を片付け、手に取ることのなくなった本を括って捨て
押し入れの中で眠っていた服と家電も捨てた。
ケータイメモリからやりとりのなくなった人のアドレスを消し
古いメールも必要なものをのぞいてすべてゴミ箱に入れた。

少し身軽になった。
オフィスでは「最近えらくさわやかモードですね」とほめられて。
それに悪い気はしなくて。
いろいろと懸案だった事項に手をつけて、少しずつ成果も出てきていて。
新しい服を着て、お気に入りのクルマで街を流し
気になるスポットに顔出し、きれいなものを見て、おいしいものを食べて
友達ととりとめのない話で時間を潰す。
でもな。。。

眠れない夜の 25:00。
PCに向かってとりとめもないことを書きつづっている。

僕はなにしてるんだろ?
これからどっちへ向かうんだろうってぼんやり考える。
いくら考えたって正解が降りてくるわけじゃない。
「自分はこっちに行く」と決めた方向へ行くしかないんだけどね。

古いものを片付けたからといって、それから自由になるわけじゃない。
振り向けば過去は僕を掠っていくだろう。
鍵のかかる箱にしまい込んだ過去の自分を、簡単に捨てられるはずもなく
それをどこにしまい込んだらいいのか、僕はすっかり持てあましている。

うれしいことも、かなしいことも
なつかしいものも、おぞましいものも
自分のすべてがそこにあるから。

プールに浸していた身体は陶磁器のようにひんやりとして
なんだか自分のものでないような、不思議な感覚がする。

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